「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第6部
琥珀暁・平東伝 7
神様たちの話、第343話。
エリザのパーフェクトゲーム構築法。
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7.
密かにエリザの後方支援に付いたモールは、彼女の期待以上のはたらきをしてくれた。東山間部における情報収集は言うに及ばず、皇帝の力の正体と、その力を与えた「鉄の悪魔」アルに関することまで、モールは事細かに教えてくれたのである。
「ほんなら皇帝さんが使てる魔術は……」
《ああ。言語がちょいと違うってだけで、原理は一緒さ。池の水をひしゃくですくうかバケツ使うかって程度さね》
「アンタの例えは良お分からんわ。ほんなら、こっちの妨害術が通用するっちゅうコトで間違い無いねんな?」
《そう言うコトだね。ただ、やっちゃうと私と君の通信もできなくなっちゃうけど……》
「ソコはアレやん。時間決めてそん時だけで」
《だね。ソレで行こう》
「で、……さっきちょろっと言うてたアレはホンマなん?」
《どれさ?》
「側近さんが人間やないっちゅうんは……」
《ああ。アイツは言うなれば、人形さ。だからアイツを倒しても、多分すぐ復活するね》
これを聞いて、エリザは「マジか」とうめく。
「まあ、お人形さんっちゅうんやったらなんぼでも造れるんやろな。その造ってる人間は誰かっちゅうのんは分かってるんか?」
《さっぱりだね。名前も分かんなきゃ、ドコにいるかも全然さ。だからソイツをとっちめるってのは不可能だね》
「となるとやっぱり、皇帝さんをどうにかせんとアカンっちゅうコトやな」
《ま、そうなるね。アルの、って言うかアルを操ってるヤツの目的は、自分が制御可能な王様と国を、自分の手で作るコトにある。逆に言や、手間ヒマかけて折角作った王様が死んじまえば、ソイツの目論見は破綻するってコトさ》
「しかし、なんでまたそんな回りくどいコトしとるんよ、ソイツ?」
《ソレは私も同感だね。ゼロみたく、自分で乗り出しゃいいものを。ともかく肝心なのは皇帝さ。ソイツが今回の戦いの、全ての元凶と言ってもいい。きっちり仕留めなきゃ、何も終わりゃしないね》
「せやな。ま、アタシに任しとき。アタシがキッチリ、とどめ刺したるからな」
《頼んだよ》
モールによる情報収集と工作のおかげで、エリザはあのゼルカノゼロ南岸戦を、ほとんど自分の思い通りに動かすことができた。地理的要素、食糧事情、兵力とその士気の程度に至るまで、いざ戦闘が起こった場合に相手がどう動くか、そしてどう動かせるかを寸分無く判断するに足る、あらゆる要素をモールから伝えられたエリザが、負ける可能性のあるような戦略を採ることは、まず有り得なかった。
こうしてゼルカノゼロ南岸戦は遠征隊側の完全勝利で幕を閉じ、その後の皇帝の運命は遅かれ早かれ死から逃れられぬものと、決定付けられたのである。
「……ほんでもちょっと困ったコトあってな。ハンくんがいらん情け利かして、皇帝さんを生かしてしもたからな」
「その間に側近が復活し、……で、僕がとばっちりを受けたってことですか」
拘留された宿の中で、エリザからこの遠大な計画のすべてを聞かされたビートは、殊更苦い顔をした。
「アレさえ無かったら、アンタも今頃、マリアちゃんと付き合うたりでけたかもなんやけどなぁ。ついでに言うたら、クーちゃんもさっさと先生んトコから帰してやれるっちゅうのに。ホンマあの子、いらんコトしいやわ」
「挽回して見せます。僕が倒せばいいんでしょう?」
「でけるかなぁ。先生も言うてたけど、アイツ、ホンマに強いらしいし」
「でもその先生、つまりモール氏は実際に、僕の目の前で倒して見せました。手段があれば可能ってことでしょう?」
「そら、理屈はそうなるけども。……しゃーないなぁ。めっちゃめちゃ強力な術、いっこ教えたるわ。せやけど正直、気ぃ進まへんねんな」
「何故です?」
尋ねたビートに、エリザは肩をすくめて見せる。
「不安定すぎんねん。よっぽどデカい装置でも組まんと最悪、自爆する危険もあるヤツやからな。先生かて1回、杖燃やしてしもとるしな」
「禁断の秘術、ですか」
「そんなカッコええもんでもないけどもな。……ほんでももし、そうまでやっても全部ワヤになってしもた場合は」
エリザは両手を胸の前で合わせ、頭を下げた。
「アンタの面倒は、アタシが十分に見たる。ソレは保証するわ」
「ええ、そうなっちゃった時は、是非」
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密かにエリザの後方支援に付いたモールは、彼女の期待以上のはたらきをしてくれた。東山間部における情報収集は言うに及ばず、皇帝の力の正体と、その力を与えた「鉄の悪魔」アルに関することまで、モールは事細かに教えてくれたのである。
「ほんなら皇帝さんが使てる魔術は……」
《ああ。言語がちょいと違うってだけで、原理は一緒さ。池の水をひしゃくですくうかバケツ使うかって程度さね》
「アンタの例えは良お分からんわ。ほんなら、こっちの妨害術が通用するっちゅうコトで間違い無いねんな?」
《そう言うコトだね。ただ、やっちゃうと私と君の通信もできなくなっちゃうけど……》
「ソコはアレやん。時間決めてそん時だけで」
《だね。ソレで行こう》
「で、……さっきちょろっと言うてたアレはホンマなん?」
《どれさ?》
「側近さんが人間やないっちゅうんは……」
《ああ。アイツは言うなれば、人形さ。だからアイツを倒しても、多分すぐ復活するね》
これを聞いて、エリザは「マジか」とうめく。
「まあ、お人形さんっちゅうんやったらなんぼでも造れるんやろな。その造ってる人間は誰かっちゅうのんは分かってるんか?」
《さっぱりだね。名前も分かんなきゃ、ドコにいるかも全然さ。だからソイツをとっちめるってのは不可能だね》
「となるとやっぱり、皇帝さんをどうにかせんとアカンっちゅうコトやな」
《ま、そうなるね。アルの、って言うかアルを操ってるヤツの目的は、自分が制御可能な王様と国を、自分の手で作るコトにある。逆に言や、手間ヒマかけて折角作った王様が死んじまえば、ソイツの目論見は破綻するってコトさ》
「しかし、なんでまたそんな回りくどいコトしとるんよ、ソイツ?」
《ソレは私も同感だね。ゼロみたく、自分で乗り出しゃいいものを。ともかく肝心なのは皇帝さ。ソイツが今回の戦いの、全ての元凶と言ってもいい。きっちり仕留めなきゃ、何も終わりゃしないね》
「せやな。ま、アタシに任しとき。アタシがキッチリ、とどめ刺したるからな」
《頼んだよ》
モールによる情報収集と工作のおかげで、エリザはあのゼルカノゼロ南岸戦を、ほとんど自分の思い通りに動かすことができた。地理的要素、食糧事情、兵力とその士気の程度に至るまで、いざ戦闘が起こった場合に相手がどう動くか、そしてどう動かせるかを寸分無く判断するに足る、あらゆる要素をモールから伝えられたエリザが、負ける可能性のあるような戦略を採ることは、まず有り得なかった。
こうしてゼルカノゼロ南岸戦は遠征隊側の完全勝利で幕を閉じ、その後の皇帝の運命は遅かれ早かれ死から逃れられぬものと、決定付けられたのである。
「……ほんでもちょっと困ったコトあってな。ハンくんがいらん情け利かして、皇帝さんを生かしてしもたからな」
「その間に側近が復活し、……で、僕がとばっちりを受けたってことですか」
拘留された宿の中で、エリザからこの遠大な計画のすべてを聞かされたビートは、殊更苦い顔をした。
「アレさえ無かったら、アンタも今頃、マリアちゃんと付き合うたりでけたかもなんやけどなぁ。ついでに言うたら、クーちゃんもさっさと先生んトコから帰してやれるっちゅうのに。ホンマあの子、いらんコトしいやわ」
「挽回して見せます。僕が倒せばいいんでしょう?」
「でけるかなぁ。先生も言うてたけど、アイツ、ホンマに強いらしいし」
「でもその先生、つまりモール氏は実際に、僕の目の前で倒して見せました。手段があれば可能ってことでしょう?」
「そら、理屈はそうなるけども。……しゃーないなぁ。めっちゃめちゃ強力な術、いっこ教えたるわ。せやけど正直、気ぃ進まへんねんな」
「何故です?」
尋ねたビートに、エリザは肩をすくめて見せる。
「不安定すぎんねん。よっぽどデカい装置でも組まんと最悪、自爆する危険もあるヤツやからな。先生かて1回、杖燃やしてしもとるしな」
「禁断の秘術、ですか」
「そんなカッコええもんでもないけどもな。……ほんでももし、そうまでやっても全部ワヤになってしもた場合は」
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