「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第6部
琥珀暁・平東伝 8
神様たちの話、第344話。
そして帰郷へ……。
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8.
「だからコイツがココにいる、と」
事情を聞き終えたロウは、気の毒そうにビートを一瞥した。
「そりゃあつくづく災難だったな、お前さん」
「とは言え、悪い気はしてません。マリアさんに嫌われたのは本当に残念ですが、正直に言えば、軍での生活に嫌気が差してきてたところですから。先生のところでお世話になると言うのであれば、不満は全くありません」
「そらまあ、雨でも雪でも測量、測量やとなぁ」
「それもありますが、軍では結局、上意が優先ですからね。やりたいことがやれない、と言うのはうっぷんが溜まりますし」
「ソレ言うたら、アタシもやいやい言う方やで? ええのんか?」
尋ねたエリザに、ビートは首を横に振って返す。
「同じ『上』でも、就くならエリザ先生がいいです。気も合いますし」
「ソレは俺も同感だ」
ロウはがしっとビートの肩を抱き、ニヤッと笑いかけた。
「そんじゃ俺とお前さんは同僚ってワケだ。コレからよろしくやろうぜ、相棒」
「あはは……、ええ、よろしくお願いします」
「2人やないで」
と、エリザが口を挟む。
「3人やな。や、今んトコ3.5人やろけど」
「『.5』?」
「ほら、リディアちゃんっていたやろ? シェロくんの奥さん」
「ああ、はい。彼女も先生のところに?」
「せや。あの娘も子供生まれたら、一緒にアタシんトコに来てもらう予定しとるんよ。身寄りも帰るトコも無いっちゅう話やし」
「いつ頃生まれるんですか?」
「10月言うてたわ。アタシらがもうじき本土に帰るし、リディアちゃん親子を連れて帰るんはその後の、来年くらいになるかな」
それを聞いて、ビートが手を挙げる。
「それなら僕が、リディアさんに付いていましょうか? このまま軍艦に乗って帰るわけにも行きませんし、そんな時期に知り合いがいないのも心細いでしょうし」
「あ、ソレええな。や、アンタのコトどうやって帰そうか悩んでたけど、ソレなら都合付けられるわ。うん、ソレはええ。やるやん、ビートくん」
「お褒めに預かり光栄です」
ビートははにかみつつ、エリザにぺこっと頭を下げた。
その後――まず、エリザについて。彼女はこの北方遠征において、莫大な販路と取引相手の開拓に成功し、更にその富と権勢を増した。そしてこの折、己の部下に引き入れたロウ、ビート、そしてリディアの3人は、彼女の下で小さからぬ成果を挙げ、彼女の興隆に貢献した。
なお、ビートとリディアは、元よりシェロと言う共通点があったことと、そして出産に立ち会うなど、密接な付き合いが続いたことから、エリザの下に来てから3年後に再婚し、新たな家族にも恵まれた。
ロウも当初、エリザが伴侶の世話をしようと考えていたのだが――少なくともエリザにとっては――驚くべきことに彼女の娘リンダが彼を見初め、半ば強引に結婚してしまった。ロウ自身も当初は困惑していたものの、初恋の女に瓜二つの、可憐な少女である。程無く落ち着き、平和な家庭を築いた。
ハンは前述の通りクーと結婚し、夫婦揃って北方大使に任命された。そのためふたたび北方に渡り、クラム王国で長い年月を過ごした。
マリアは大方の予想通り、シモン班の業務を継ぐ形で新たな班長となった。副官にはメリーが任命され、そこから6年、特に問題も無く業務を全うした。
そしてゼロは――この北方遠征以降、高潔であったはずのその人格は次第に濁り、歪み始めた。
かつてゼロは新世界に対する純粋な好奇心と、過酷な境遇に対する不屈の闘志で世を照らしていた。だが北方に関する一連の出来事と、そして何よりエリザとの確執によって、その爽やかな琥珀色であったはずの光明は曇り、下卑た赤錆色を呈するようになっていった。
そして彼は、後の世において虚栄心と傲慢の象徴とも称される、天帝教最大の蛮行――世界平定の、その端緒を開くこととなる。
琥珀暁・平東伝 終
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そして帰郷へ……。
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「だからコイツがココにいる、と」
事情を聞き終えたロウは、気の毒そうにビートを一瞥した。
「そりゃあつくづく災難だったな、お前さん」
「とは言え、悪い気はしてません。マリアさんに嫌われたのは本当に残念ですが、正直に言えば、軍での生活に嫌気が差してきてたところですから。先生のところでお世話になると言うのであれば、不満は全くありません」
「そらまあ、雨でも雪でも測量、測量やとなぁ」
「それもありますが、軍では結局、上意が優先ですからね。やりたいことがやれない、と言うのはうっぷんが溜まりますし」
「ソレ言うたら、アタシもやいやい言う方やで? ええのんか?」
尋ねたエリザに、ビートは首を横に振って返す。
「同じ『上』でも、就くならエリザ先生がいいです。気も合いますし」
「ソレは俺も同感だ」
ロウはがしっとビートの肩を抱き、ニヤッと笑いかけた。
「そんじゃ俺とお前さんは同僚ってワケだ。コレからよろしくやろうぜ、相棒」
「あはは……、ええ、よろしくお願いします」
「2人やないで」
と、エリザが口を挟む。
「3人やな。や、今んトコ3.5人やろけど」
「『.5』?」
「ほら、リディアちゃんっていたやろ? シェロくんの奥さん」
「ああ、はい。彼女も先生のところに?」
「せや。あの娘も子供生まれたら、一緒にアタシんトコに来てもらう予定しとるんよ。身寄りも帰るトコも無いっちゅう話やし」
「いつ頃生まれるんですか?」
「10月言うてたわ。アタシらがもうじき本土に帰るし、リディアちゃん親子を連れて帰るんはその後の、来年くらいになるかな」
それを聞いて、ビートが手を挙げる。
「それなら僕が、リディアさんに付いていましょうか? このまま軍艦に乗って帰るわけにも行きませんし、そんな時期に知り合いがいないのも心細いでしょうし」
「あ、ソレええな。や、アンタのコトどうやって帰そうか悩んでたけど、ソレなら都合付けられるわ。うん、ソレはええ。やるやん、ビートくん」
「お褒めに預かり光栄です」
ビートははにかみつつ、エリザにぺこっと頭を下げた。
その後――まず、エリザについて。彼女はこの北方遠征において、莫大な販路と取引相手の開拓に成功し、更にその富と権勢を増した。そしてこの折、己の部下に引き入れたロウ、ビート、そしてリディアの3人は、彼女の下で小さからぬ成果を挙げ、彼女の興隆に貢献した。
なお、ビートとリディアは、元よりシェロと言う共通点があったことと、そして出産に立ち会うなど、密接な付き合いが続いたことから、エリザの下に来てから3年後に再婚し、新たな家族にも恵まれた。
ロウも当初、エリザが伴侶の世話をしようと考えていたのだが――少なくともエリザにとっては――驚くべきことに彼女の娘リンダが彼を見初め、半ば強引に結婚してしまった。ロウ自身も当初は困惑していたものの、初恋の女に瓜二つの、可憐な少女である。程無く落ち着き、平和な家庭を築いた。
ハンは前述の通りクーと結婚し、夫婦揃って北方大使に任命された。そのためふたたび北方に渡り、クラム王国で長い年月を過ごした。
マリアは大方の予想通り、シモン班の業務を継ぐ形で新たな班長となった。副官にはメリーが任命され、そこから6年、特に問題も無く業務を全うした。
そしてゼロは――この北方遠征以降、高潔であったはずのその人格は次第に濁り、歪み始めた。
かつてゼロは新世界に対する純粋な好奇心と、過酷な境遇に対する不屈の闘志で世を照らしていた。だが北方に関する一連の出来事と、そして何よりエリザとの確執によって、その爽やかな琥珀色であったはずの光明は曇り、下卑た赤錆色を呈するようになっていった。
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