「双月千年世界 短編・掌編・設定など」
双月千年世界 短編・掌編
琥珀暁番外編 その1
神様、……を慕った男の話。
ひとまわり、思いはずれて。
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琥珀暁番外編 その1
双月暦25年11月、エリザに伴われて、ロウは彼女の本拠地を訪れた。
「いやぁ、全然変わってへんなぁ」
「そっスねぇ」
ロウの返答に、エリザは首をかしげる。
「ん? アンタ、こっち来たコトあったか? 20年前の話やないやんな?」
「いやほら、いっぺん来たじゃないっスか。北に行く直前くらいに」
「んー? ……あー、せやったせやった。そうやん、色々持って来るのんに手伝うてもろたわ。ゴメンゴメン、忘れとったわ」
「まあ、アレも3年以上前の話っスもんね。……って言やあ」
ロウがポンと手を打ち、エリザに尋ねる。
「そん時会ったお子さんたち、もう大分でっかくなってるでしょうね」
「なっとるやろなー。今、確かロイドが18で、リンダが13、いや、14やったかな」
「息子さんはもうすっかり大人になってんでしょうねぇ」
「なっとったらええけどなー」
ロウは3年前のロイドの姿を思い出し、苦笑する。
「こう言っちゃなんですけど、昔も相当ひょろひょろしてたっスからねぇ」
「ホンマになぁ。人付き合いも苦手みたいやし、顔色はいっつも悪いし、親からこんなコト言うのんもアレやけど、イマイチ魅力っちゅうもんがあらへんねんな、あの子。アタシが世話したらな多分、奥さんも見付け切らへんやろなぁ」
「俺が言うのもアレっスけど、なかなか難儀スね」
「ま、アテは無くはないねん。ウチの屋敷に一人、丁度歳の合いそうな娘が……」
と、誰かが二人の会話に割り込んで来る。
「ソレもしかして、スナやんのコト言うてる?」
「え?」
振り向いたところで、ロウは絶句した。そこに立っていた少女が、自分が若い頃に見惚れた、まだ少女っぽさを残していた頃のエリザそっくりだったからである。
「アンタもしかして、リンダか?」
「うん。おかえり、お母やん」
「ん、ただいまー。……で、スナちゃんがどうかしたんか?」
「スナやんな、叔父さんと結婚する言うてたで」
「はぁ!?」
エリザは目を丸くし、リンダに聞き直す。
「叔父さんて、まさかニコルか?」
「うん」
「えらい歳離れとるやないの。ほぼほぼ親子やんか」
「えーとな、コレはあくまでウチの意見であって、スナやんがこう言うてたでーって話や無いんやけどな」
そう前置きしつつ、リンダは申し訳無さそうな顔で、自分の母にきっぱり断言した。
「もしもウチが結婚相手にお兄やんタイプと叔父さんタイプのどっちか選べって言われたらな、即、叔父さんタイプ選ぶもん。お兄やんはありえへんわ」
「……叱る気になれへんのが悔しいトコやな。その二択で選ぶとしたら、アタシもニコル系やもんなぁ」
「ほんでな、お母やんが帰って来たらお兄やんとの結婚の話してくるって予想も付くやん? 『その前に自分からええ感じの相手捕まえといたら何も言われへんやん』ってなったんやと思うで」
「流石やなぁ、スナちゃん。……ま、そうまとまるんやったら、ソレはソレでええけど。ニコルはもうええよって言うてるん?」
「めっちゃ困ってはったで。まだ返事してへんっぽい」
「せやろな。とは言え、断らへんやろな。ニコルも長いコト独り身やったから、相手欲しいとは思とったやろし。若すぎるけど」
「そんなん言うたらお母やんかて、ウチくらいん時にお兄やん産んだんやろ?」
「ソレはまあ、そうなんやけどもな。……ほんならアンタももう、相手探ししとるんか?」
エリザに尋ねられ、リンダは首を横に振る。
「んーん。今んトコ、タイプって感じのんが周りにいてへんもん。ウチは背ぇ高くて筋肉ムキムキで、ほんでカッコええ毛並みしとるよーな……」
「んもう……。この子、面食いやわぁ。なぁ、ロウくん」
「そ、そっスねー」
ロウが苦い顔をエリザに向けたところで――リンダが自分を凝視していることに気付く。
「……な、なんスか?」
「みっけた」
リンダが突然、ロウの腕を両手でぎゅっとつかむ。
「へ? な、なんだよ? ……じゃねえや、なんですか、お嬢?」
「って言うかアンタ、ロウさんやんな? 3年前家に来たコトあるやんな? ウチ、頭撫でてもろたやんな?」
「え? あー、うん、まあ、やったよーな気がしなくも……」
「ウチな、ソレ以来アンタのコトが忘れられへんくなってしもててな。理想のタイプはアンタやねん。やーっと見付けたわぁ……!」
「……へ? ……ちょ、ちょっと?」
目を白黒させるロウに構わず、リンダは母に宣言する。
「っちゅうワケでウチ、ロウさんと結婚するわ。決定な!」
「決定やあるかい!? 勝手に決めへんの」
「お母やんかて相手、勝手に決めようとしとったやんか」
「あのな、アタシはアンタの幸せを考えて……」
「幸せかどーかはウチが考える話やろが」
「アンタまだ若いねんから、もうちょっと周り見いや」
「もうロウさん以外目ぇに入りませーん」
「こんのアホが~……!」
途端に母娘でにらみ合い、ロウは間に挟まれる形になる。
「お……俺、あの……エリザさん……が……」
消え入りそうなそのささやきも、その言葉に秘めた淡い思いも、二人の耳には入っていなかった。
そしてこの3年後、同僚の結婚に合わせる形で、ロウはリンダと結婚することになる。
終
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ひとまわり、思いはずれて。
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琥珀暁番外編 その1
双月暦25年11月、エリザに伴われて、ロウは彼女の本拠地を訪れた。
「いやぁ、全然変わってへんなぁ」
「そっスねぇ」
ロウの返答に、エリザは首をかしげる。
「ん? アンタ、こっち来たコトあったか? 20年前の話やないやんな?」
「いやほら、いっぺん来たじゃないっスか。北に行く直前くらいに」
「んー? ……あー、せやったせやった。そうやん、色々持って来るのんに手伝うてもろたわ。ゴメンゴメン、忘れとったわ」
「まあ、アレも3年以上前の話っスもんね。……って言やあ」
ロウがポンと手を打ち、エリザに尋ねる。
「そん時会ったお子さんたち、もう大分でっかくなってるでしょうね」
「なっとるやろなー。今、確かロイドが18で、リンダが13、いや、14やったかな」
「息子さんはもうすっかり大人になってんでしょうねぇ」
「なっとったらええけどなー」
ロウは3年前のロイドの姿を思い出し、苦笑する。
「こう言っちゃなんですけど、昔も相当ひょろひょろしてたっスからねぇ」
「ホンマになぁ。人付き合いも苦手みたいやし、顔色はいっつも悪いし、親からこんなコト言うのんもアレやけど、イマイチ魅力っちゅうもんがあらへんねんな、あの子。アタシが世話したらな多分、奥さんも見付け切らへんやろなぁ」
「俺が言うのもアレっスけど、なかなか難儀スね」
「ま、アテは無くはないねん。ウチの屋敷に一人、丁度歳の合いそうな娘が……」
と、誰かが二人の会話に割り込んで来る。
「ソレもしかして、スナやんのコト言うてる?」
「え?」
振り向いたところで、ロウは絶句した。そこに立っていた少女が、自分が若い頃に見惚れた、まだ少女っぽさを残していた頃のエリザそっくりだったからである。
「アンタもしかして、リンダか?」
「うん。おかえり、お母やん」
「ん、ただいまー。……で、スナちゃんがどうかしたんか?」
「スナやんな、叔父さんと結婚する言うてたで」
「はぁ!?」
エリザは目を丸くし、リンダに聞き直す。
「叔父さんて、まさかニコルか?」
「うん」
「えらい歳離れとるやないの。ほぼほぼ親子やんか」
「えーとな、コレはあくまでウチの意見であって、スナやんがこう言うてたでーって話や無いんやけどな」
そう前置きしつつ、リンダは申し訳無さそうな顔で、自分の母にきっぱり断言した。
「もしもウチが結婚相手にお兄やんタイプと叔父さんタイプのどっちか選べって言われたらな、即、叔父さんタイプ選ぶもん。お兄やんはありえへんわ」
「……叱る気になれへんのが悔しいトコやな。その二択で選ぶとしたら、アタシもニコル系やもんなぁ」
「ほんでな、お母やんが帰って来たらお兄やんとの結婚の話してくるって予想も付くやん? 『その前に自分からええ感じの相手捕まえといたら何も言われへんやん』ってなったんやと思うで」
「流石やなぁ、スナちゃん。……ま、そうまとまるんやったら、ソレはソレでええけど。ニコルはもうええよって言うてるん?」
「めっちゃ困ってはったで。まだ返事してへんっぽい」
「せやろな。とは言え、断らへんやろな。ニコルも長いコト独り身やったから、相手欲しいとは思とったやろし。若すぎるけど」
「そんなん言うたらお母やんかて、ウチくらいん時にお兄やん産んだんやろ?」
「ソレはまあ、そうなんやけどもな。……ほんならアンタももう、相手探ししとるんか?」
エリザに尋ねられ、リンダは首を横に振る。
「んーん。今んトコ、タイプって感じのんが周りにいてへんもん。ウチは背ぇ高くて筋肉ムキムキで、ほんでカッコええ毛並みしとるよーな……」
「んもう……。この子、面食いやわぁ。なぁ、ロウくん」
「そ、そっスねー」
ロウが苦い顔をエリザに向けたところで――リンダが自分を凝視していることに気付く。
「……な、なんスか?」
「みっけた」
リンダが突然、ロウの腕を両手でぎゅっとつかむ。
「へ? な、なんだよ? ……じゃねえや、なんですか、お嬢?」
「って言うかアンタ、ロウさんやんな? 3年前家に来たコトあるやんな? ウチ、頭撫でてもろたやんな?」
「え? あー、うん、まあ、やったよーな気がしなくも……」
「ウチな、ソレ以来アンタのコトが忘れられへんくなってしもててな。理想のタイプはアンタやねん。やーっと見付けたわぁ……!」
「……へ? ……ちょ、ちょっと?」
目を白黒させるロウに構わず、リンダは母に宣言する。
「っちゅうワケでウチ、ロウさんと結婚するわ。決定な!」
「決定やあるかい!? 勝手に決めへんの」
「お母やんかて相手、勝手に決めようとしとったやんか」
「あのな、アタシはアンタの幸せを考えて……」
「幸せかどーかはウチが考える話やろが」
「アンタまだ若いねんから、もうちょっと周り見いや」
「もうロウさん以外目ぇに入りませーん」
「こんのアホが~……!」
途端に母娘でにらみ合い、ロウは間に挟まれる形になる。
「お……俺、あの……エリザさん……が……」
消え入りそうなそのささやきも、その言葉に秘めた淡い思いも、二人の耳には入っていなかった。
そしてこの3年後、同僚の結婚に合わせる形で、ロウはリンダと結婚することになる。
終
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今作は番外編が少ない。と言うのも、基本的に番外編としてまとめているモノは、
「通常のおはなしの展開上、書き切れなかったこぼれ話」か、
あるいは「個人的に気になった点があるのでキャラに会話させて掘り下げていく考察」のいずれか。
で、「琥珀暁」が連載開始する前に、後者が独立してコーナー化してしまったわけで。
となれば当然、番外編の数も少なくなります。
(例えば『白猫夢番外編 その5』なんかはほとんど同じ議題のまま『徒然考察』で再検討してますし、
この時にシュウたちが別個に話す形ができていたとしたら、マークたちには話させてなかったでしょう)
前者にしても、「蒼天剣」の時はまだ執筆に慣れておらず、
色んな取りこぼしを拾っていく形になることが多々ありましたが、
執筆を始めてもうかれこれ15年近くになり、
ある程度全体図を考えて効率的に話や設定を振っていくやり方もある程度つかんでいるので、
結果として番外編がほとんど出なくなっています。
それでも流石に今回の話は、本編に入れるにはテンポが悪いし、
かと言って全く触れなきゃ後の話が不自然だし、……と色々考慮した結果、
番外編として掲載する形となりました。
完結までにあともう一回やります。
今作は番外編が少ない。と言うのも、基本的に番外編としてまとめているモノは、
「通常のおはなしの展開上、書き切れなかったこぼれ話」か、
あるいは「個人的に気になった点があるのでキャラに会話させて掘り下げていく考察」のいずれか。
で、「琥珀暁」が連載開始する前に、後者が独立してコーナー化してしまったわけで。
となれば当然、番外編の数も少なくなります。
(例えば『白猫夢番外編 その5』なんかはほとんど同じ議題のまま『徒然考察』で再検討してますし、
この時にシュウたちが別個に話す形ができていたとしたら、マークたちには話させてなかったでしょう)
前者にしても、「蒼天剣」の時はまだ執筆に慣れておらず、
色んな取りこぼしを拾っていく形になることが多々ありましたが、
執筆を始めてもうかれこれ15年近くになり、
ある程度全体図を考えて効率的に話や設定を振っていくやり方もある程度つかんでいるので、
結果として番外編がほとんど出なくなっています。
それでも流石に今回の話は、本編に入れるにはテンポが悪いし、
かと言って全く触れなきゃ後の話が不自然だし、……と色々考慮した結果、
番外編として掲載する形となりました。
完結までにあともう一回やります。
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