「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第6部
琥珀暁・平南伝 1
神様たちの話、第345話。
南のうわさ。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
1.
北方における遠征は、二人の「神」に多大な利益と影響を及ぼした。
前述の通り、エリザは北方における巨大な販路と顧客を獲得し、その富と名声を大いに高めた。そしてそれこそが、北方遠征後にゼロ側で起こった潮流の原因ともなった。それは一言で言うなら、「エリザへの嫉妬」に他ならないものだった。
繰り返すが――ゼロ主導で計画され、ゼロの配下1000名以上を投じて行われたはずのこの遠征は、便乗した形のエリザに多くの利益をもたらした。言い換えれば、ゼロの苦労の結果がほとんど丸ごと、エリザに持って行かれた形になるのである。無論、ゼロ側にも少なからず見返りはあったものの、エリザのそれと比べれば、微々たるものであった。
そして双月暦31年、ゼロの下にある「うわさ」が飛び込んで来たことから、二人の確執は――いや、ゼロ一人の一方的な偏執は、より深いものとなっていったのである。
「ゲート、君はエリザと親しかったね」
突然呼び出されるなりゼロからそう切り出され、ゲートはうろたえた。
「え!? あ、ああ、そうだな、それなりには」
己の不貞が発覚したかと内心ヒヤヒヤしたが、続く言葉から、どうやらそうではないと分かった。
「彼女が今、どんな事業計画を立てているかも、君の耳に入っているのかな」
「へ? えー……と、……いや、悪いがそこまでは、あんまり。羽振りがいいって話くらいしか聞かない。後は……、孫ができたとか?」
「そう」
ぷい、とゲートから顔を背け、ゼロはうつむきがちに話を切り出した。
「南へ進出しようと考えているらしい。彼女が本拠地にしている山の南地域から、さらに南方面へだ」
「エリちゃんが?」
「そうだ。そして南西にかなり広大な山脈地帯があることを発見した、とも」
「あー、それは聞いたかも知れん。相当な難所で、登るのは無理なんじゃないかみたいなことを言ってたかも、知れ、……な、い」
ゲートは途中で口をつぐむ。ゼロが恨みがましい目で、にらみつけてきていたからである。
「やっぱり聞いてるんじゃないか!?」
「何がだよ? んなもん、『事業計画』なんて御大層なもんでもないだろ。ただの世間話じゃねえか」
「……まあ、君からしたらその程度にしか感じないのかもね」
その言い方にカチンと来るものはあったが、ともかくゲートは話の続きを促した。
「んで、何だよ? それが何か問題あるのか?」
「あるだろう? 彼女は私から奪った利益で、その事業を進めているようなものだ。であれば、その事業は本来、私が行うべきものだったはずだ」
「『はず』って、……お前、そりゃ変だろ」
咎めたゲートに、ゼロはギロリと苛立たしげな目を向けてきた。
「どこが変だ? 木を植えたのは私だ。その木から勝手に果実を取ったのは彼女だ。その果実から取った種を植え、そこから芽が出たら、その芽は誰のものだ?」
「その例えも変っちゃ変だろ? その『木』ってそもそも、お前一人で植えたって話じゃないだろ? エリちゃんも手伝っただろうが。そのごほうびで一個くらい取ったって構やしないだろ」
「だけど果実は根こそぎ持って行かれた。私の元には、何が残った? 娘夫婦が海を渡った。それだけだろう?」
「それ以外にも色々あるだろ……。で、結局何が言いたいんだよ、お前は?」
尋ねられ、ゼロは吠えるように答えた。
「彼女にこれ以上奪われるのは我慢ならない! 彼女が南を目指していると言うなら、私たちが先んじてそこへ進むべきだ!」
「おい、おい、落ち着けよ、ゼロ。そんな怒鳴ることないだろ?」
「……ああ、熱くなりすぎたかも知れない。うるさいと感じたなら謝るよ」
謝意をろくに見せないまま、ゼロはこう続けた。
「その南西の山岳地帯の、さらに先への遠征隊を結成する。彼女が山を攻略するより先に我々がそこへ到達し、そこにおける利権を独占するんだ」
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南のうわさ。
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1.
北方における遠征は、二人の「神」に多大な利益と影響を及ぼした。
前述の通り、エリザは北方における巨大な販路と顧客を獲得し、その富と名声を大いに高めた。そしてそれこそが、北方遠征後にゼロ側で起こった潮流の原因ともなった。それは一言で言うなら、「エリザへの嫉妬」に他ならないものだった。
繰り返すが――ゼロ主導で計画され、ゼロの配下1000名以上を投じて行われたはずのこの遠征は、便乗した形のエリザに多くの利益をもたらした。言い換えれば、ゼロの苦労の結果がほとんど丸ごと、エリザに持って行かれた形になるのである。無論、ゼロ側にも少なからず見返りはあったものの、エリザのそれと比べれば、微々たるものであった。
そして双月暦31年、ゼロの下にある「うわさ」が飛び込んで来たことから、二人の確執は――いや、ゼロ一人の一方的な偏執は、より深いものとなっていったのである。
「ゲート、君はエリザと親しかったね」
突然呼び出されるなりゼロからそう切り出され、ゲートはうろたえた。
「え!? あ、ああ、そうだな、それなりには」
己の不貞が発覚したかと内心ヒヤヒヤしたが、続く言葉から、どうやらそうではないと分かった。
「彼女が今、どんな事業計画を立てているかも、君の耳に入っているのかな」
「へ? えー……と、……いや、悪いがそこまでは、あんまり。羽振りがいいって話くらいしか聞かない。後は……、孫ができたとか?」
「そう」
ぷい、とゲートから顔を背け、ゼロはうつむきがちに話を切り出した。
「南へ進出しようと考えているらしい。彼女が本拠地にしている山の南地域から、さらに南方面へだ」
「エリちゃんが?」
「そうだ。そして南西にかなり広大な山脈地帯があることを発見した、とも」
「あー、それは聞いたかも知れん。相当な難所で、登るのは無理なんじゃないかみたいなことを言ってたかも、知れ、……な、い」
ゲートは途中で口をつぐむ。ゼロが恨みがましい目で、にらみつけてきていたからである。
「やっぱり聞いてるんじゃないか!?」
「何がだよ? んなもん、『事業計画』なんて御大層なもんでもないだろ。ただの世間話じゃねえか」
「……まあ、君からしたらその程度にしか感じないのかもね」
その言い方にカチンと来るものはあったが、ともかくゲートは話の続きを促した。
「んで、何だよ? それが何か問題あるのか?」
「あるだろう? 彼女は私から奪った利益で、その事業を進めているようなものだ。であれば、その事業は本来、私が行うべきものだったはずだ」
「『はず』って、……お前、そりゃ変だろ」
咎めたゲートに、ゼロはギロリと苛立たしげな目を向けてきた。
「どこが変だ? 木を植えたのは私だ。その木から勝手に果実を取ったのは彼女だ。その果実から取った種を植え、そこから芽が出たら、その芽は誰のものだ?」
「その例えも変っちゃ変だろ? その『木』ってそもそも、お前一人で植えたって話じゃないだろ? エリちゃんも手伝っただろうが。そのごほうびで一個くらい取ったって構やしないだろ」
「だけど果実は根こそぎ持って行かれた。私の元には、何が残った? 娘夫婦が海を渡った。それだけだろう?」
「それ以外にも色々あるだろ……。で、結局何が言いたいんだよ、お前は?」
尋ねられ、ゼロは吠えるように答えた。
「彼女にこれ以上奪われるのは我慢ならない! 彼女が南を目指していると言うなら、私たちが先んじてそこへ進むべきだ!」
「おい、おい、落ち着けよ、ゼロ。そんな怒鳴ることないだろ?」
「……ああ、熱くなりすぎたかも知れない。うるさいと感じたなら謝るよ」
謝意をろくに見せないまま、ゼロはこう続けた。
「その南西の山岳地帯の、さらに先への遠征隊を結成する。彼女が山を攻略するより先に我々がそこへ到達し、そこにおける利権を独占するんだ」
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