「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第6部
琥珀暁・平南伝 2
神様たちの話、第346話。
荒唐無稽な勅令。
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2.
ゼロの言葉に、ゲートは首をかしげた。
「なんだそれ? その言い方だとお前、山の先に何かあるって確信してるのか?」
「あ……、いや、あるだろう、と」
「無かったらどうすんだよ? 10年前みたいに千人規模でわーっと向かわせて、その結果海しか見付かりませんでしたじゃ、バカみたいじゃねえか。10年前のアレは向こうから人が来たからあるって分かってたことだが、今回は何にも手がかりが無いわけだし」
「しかし彼女は山を越えようとしていると言うじゃないか。確実に何かあると考えているはずだ」
「単純に山の向こうに興味があるってだけじゃないのか? 俺たちだって30年前、『壁の山』の向こうに何かあるんじゃないかってうわさしてたんだし、似たようなもんだろ」
「それとこれとは、……いや、……そうだね、確証は無い。現時点での事実は、彼女が山を越えようと考えている、と言うことだけだ。しかし、……しかしだ、彼女がわざわざ無意味な行動を取るはずが無いのは、君も良く分かっていることじゃないか?」
問われて、ゲートは「まあ……」と濁し気味に答える。
「だろう? 彼女にしても、山の向こうに何かがある可能性は高いと考えているだろうと、私はにらんでいる。しかし彼女の報告を待っていては、完全に手遅れだろう。その報告を受けた時には既に、彼女が莫大な利益を独占した後だろうからね。
となれば我々が先んじて向かい、彼女の出る幕を無くしてしまえばいいんだ」
「それもどうかと思うぜ、俺は」
ゼロの利己的な物言いに、ゲートは突っかかる。
「エリちゃんの話を聞いて、お前は向かおうって決めたんだろ? じゃあエリちゃんにも多少、見返りがあって当然じゃないのか?」
「いや」
が、ゼロは突っぱねる。
「仮に彼女の話を聞かなかったにせよ、いずれは進出していたはずだ。今回はたまたま、彼女がきっかけになったに過ぎない。であれば、彼女に配慮する理由は無い」
「進出していた『はず』って何だよ?」
ゲートも折れない。
「一体何の必要があって進出することになるって言うんだ? 別に住む土地や畑が足りないわけじゃなし、鉱山だって港だって、あっちこっちに十分ある。だのになんで、エリちゃんのいるところからさらに南なんて、途方も無いくらい遠いところに人を送ろうとするんだ?
どうしたんだよ、ゼロ? さっきから言ってることが無茶苦茶だぞ、お前? いつものお前ならもっと理屈立てて、ちゃんと納得行くような説明をするはずだろ」
「それは……その……」
口ごもるゼロに、ゲートが畳み掛ける。
「俺は反対するぞ。現時点で遠征する必要性がこれっぽっちも感じられんからだ。
それに北方ん時だって、何やかんやトラブル続きだったんだ。お前にこんなこと言ったら嫌な顔するだろうけどな、北方遠征はエリちゃんがいたから、結果として何とか無事に終わったようなもんなんだぜ? それをお前、エリちゃん抜きで話進めようとしたら、今度と言う今度はとんでもない大失敗をやらかしかねない。死人だって大勢出るだろう。人を動かす立場の人間が、その可能性を無視しようとするなよ。
それともお前は、自分の個人的な欲求と感情のためなら何百人犠牲になったって構わないって言うのか?」
「そ、そんなわけ無いだろう!?」
「だよな? 冷静沈着で思慮深いお前なら、まさかそんな無茶苦茶言いやしないよな?」
「そう……だね。ああ、そうとも」
「じゃあ、話はここでおしまいだ。重ねて言うが、将軍として、お前の友人として、俺は南方遠征には断固反対するからな」
「う……ぐ」
ゲートの頑なな態度に、ゼロも苦い顔でうなるに留まり、その場はどうにか収まった。
だが3週間後――ゼロはゲートに知られぬよう他の閣僚らを集めて説得し、電撃的かつ強行的に南方遠征を決定してしまった。
このことを知ったゲートは激怒したが、大多数が賛成してしまった後である。この時点でどう反論しようとも覆すことは出来ず、ゲートは決定を黙認することしかできなかった。
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荒唐無稽な勅令。
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2.
ゼロの言葉に、ゲートは首をかしげた。
「なんだそれ? その言い方だとお前、山の先に何かあるって確信してるのか?」
「あ……、いや、あるだろう、と」
「無かったらどうすんだよ? 10年前みたいに千人規模でわーっと向かわせて、その結果海しか見付かりませんでしたじゃ、バカみたいじゃねえか。10年前のアレは向こうから人が来たからあるって分かってたことだが、今回は何にも手がかりが無いわけだし」
「しかし彼女は山を越えようとしていると言うじゃないか。確実に何かあると考えているはずだ」
「単純に山の向こうに興味があるってだけじゃないのか? 俺たちだって30年前、『壁の山』の向こうに何かあるんじゃないかってうわさしてたんだし、似たようなもんだろ」
「それとこれとは、……いや、……そうだね、確証は無い。現時点での事実は、彼女が山を越えようと考えている、と言うことだけだ。しかし、……しかしだ、彼女がわざわざ無意味な行動を取るはずが無いのは、君も良く分かっていることじゃないか?」
問われて、ゲートは「まあ……」と濁し気味に答える。
「だろう? 彼女にしても、山の向こうに何かがある可能性は高いと考えているだろうと、私はにらんでいる。しかし彼女の報告を待っていては、完全に手遅れだろう。その報告を受けた時には既に、彼女が莫大な利益を独占した後だろうからね。
となれば我々が先んじて向かい、彼女の出る幕を無くしてしまえばいいんだ」
「それもどうかと思うぜ、俺は」
ゼロの利己的な物言いに、ゲートは突っかかる。
「エリちゃんの話を聞いて、お前は向かおうって決めたんだろ? じゃあエリちゃんにも多少、見返りがあって当然じゃないのか?」
「いや」
が、ゼロは突っぱねる。
「仮に彼女の話を聞かなかったにせよ、いずれは進出していたはずだ。今回はたまたま、彼女がきっかけになったに過ぎない。であれば、彼女に配慮する理由は無い」
「進出していた『はず』って何だよ?」
ゲートも折れない。
「一体何の必要があって進出することになるって言うんだ? 別に住む土地や畑が足りないわけじゃなし、鉱山だって港だって、あっちこっちに十分ある。だのになんで、エリちゃんのいるところからさらに南なんて、途方も無いくらい遠いところに人を送ろうとするんだ?
どうしたんだよ、ゼロ? さっきから言ってることが無茶苦茶だぞ、お前? いつものお前ならもっと理屈立てて、ちゃんと納得行くような説明をするはずだろ」
「それは……その……」
口ごもるゼロに、ゲートが畳み掛ける。
「俺は反対するぞ。現時点で遠征する必要性がこれっぽっちも感じられんからだ。
それに北方ん時だって、何やかんやトラブル続きだったんだ。お前にこんなこと言ったら嫌な顔するだろうけどな、北方遠征はエリちゃんがいたから、結果として何とか無事に終わったようなもんなんだぜ? それをお前、エリちゃん抜きで話進めようとしたら、今度と言う今度はとんでもない大失敗をやらかしかねない。死人だって大勢出るだろう。人を動かす立場の人間が、その可能性を無視しようとするなよ。
それともお前は、自分の個人的な欲求と感情のためなら何百人犠牲になったって構わないって言うのか?」
「そ、そんなわけ無いだろう!?」
「だよな? 冷静沈着で思慮深いお前なら、まさかそんな無茶苦茶言いやしないよな?」
「そう……だね。ああ、そうとも」
「じゃあ、話はここでおしまいだ。重ねて言うが、将軍として、お前の友人として、俺は南方遠征には断固反対するからな」
「う……ぐ」
ゲートの頑なな態度に、ゼロも苦い顔でうなるに留まり、その場はどうにか収まった。
だが3週間後――ゼロはゲートに知られぬよう他の閣僚らを集めて説得し、電撃的かつ強行的に南方遠征を決定してしまった。
このことを知ったゲートは激怒したが、大多数が賛成してしまった後である。この時点でどう反論しようとも覆すことは出来ず、ゲートは決定を黙認することしかできなかった。
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