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    「双月千年世界 4;琥珀暁」
    琥珀暁 第6部

    琥珀暁・平南伝 4

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    神様たちの話、第348話。
    アロイの鶴声。

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    4.
     ゲートが一家で旅行に出かけたことを幸いに、ゼロは大急ぎで遠征隊隊長の選抜を行っていた。
    「私の考えでは、やはりハンニバル・シモン佐官が隊長に適任だと考えている。皆の考えはどうだろうか」
     ゼロに問われ、集まった閣僚と将軍たちは揃ってうなずいた。
    「問題無いでしょう」
    「彼以外にはありえますまい」
    「右に同じく」
     が、会議に同席していたゼロの長子、アロイ皇太子が手を挙げ、反論した。
    「僕は反対します」
    「何故かな? 彼の実績を考えれば、彼以上の適任は我が軍にいないと思うけど……?」
     どことなくひんやりとした態度で――まるで「口出しするな」「あの女を頼るつもりか」と言っているかのように――尋ねてきた父に、アロイはたじろぎもせず、きっぱりと答えた。
    「第一に、その義弟は今現在海の向こう、北方の地にいると言うこと。第二に、妹夫婦の子供たちがまだ幼いことです。
     僕も一度、北方へ表敬訪問を行ったことがありますが、その時のハンはとても忙しそうにしていましたよ。1ヶ月間の滞在で、きちんと話ができたのは4回だけでした。そしてそのいずれも、30分以上の余裕が無いほどに。
     そんな彼にさらなる激務を与えると言うのですか? 仮に北方大使の任を今すぐ解いて直行させたとして、ハンの後任は誰にするおつもりですか?」
    「あ……そうか」
    「ふむ、確かに。すぐには見付からんでしょう」
    「彼以上に北方の事情に詳しい人間はいないからな」
     アロイの意見に、閣僚たちは顔を見合わせる。
    「そしてもしハンを単身、南方遠征のために引き抜けば、子供たちはとても悲しむはずです。それは即ち父上、あなたの孫を悲しませることになるのです。
     父上、僕は真実であると信じていますよ。30年前、凍死の危険を冒してまで、まだ幼かった僕の妻とその妹を極寒の中から助け出してくれたと言う、父上の美談を」
    「う、……うん、……なるほど、そうだね。確かにイオニスもマティラも幼いものね」
    「引き離すのを厭って家族で向かわせたとしても、遠征には内外に危険が付きまといます。実際に妹はさらわれた経験があるのですし、義弟も反乱の憂き目に、二度も遭っています。それ以上の災禍に子供たちがさらされないと言う保証が、あるのですか?」
    「う、うーん……そうだね、確かにそうだ」
     強硬を貫いていたゼロが、ここでようやく態度を軟化させた。
    「分かった。考えてみれば確かに、ハンを起用するのは難しい。ではアロイ、君は代替案を持っているのかな?」
    「私見ですが、一応は」
     そう前置きし、アロイはその人物の名を挙げようとした。
    「北方遠征当時、ハンの補佐として付いていた……」「なんだって?」
     が、途中でゼロがさえぎる。
    「まさかアロイ、君はあのめぎつ……」「父上!」
     まくし立てかけたゼロを、反対にアロイがさえぎった。
    「人の話は声を荒げて止めるべきものでしたか?」
    「う……」
    「どうか最後までお聞き下さい。……改めて述べますが、僕はハン、いや、当時のシモン班の補佐、即ちマリア・ロッソ尉官を、隊長に推薦します」
    「ロッソ尉官を? ……ふむ」
    「なるほど、確かに彼女なら遠征経験がある」
    「それにシモン佐官と共に仕事していたわけだからな」
     先程と同様、閣僚たちはこくこくとうなずいて同意する。そしてそれは、ゼロも同様だった。
    「それはいい案かも知れない。なるほど、適任だ。……君を疑って悪かった、アロイ」
    「お気遣いなく、父上」

     予定されていた測量調査を完遂し、丁度クロスセントラルに戻って来ていたマリア班に早速、この案が打診された。
    「それで……あたしにですか?」
    「引き受けてもらえるかな、マリア」
     謁見の間でゼロ自ら説明を受け、彼女は補佐のメリーや他の班員たちと顔を見合わせた。
    「どうしよっか?」
    「どう……と言われても」
    「わたしは受けるしか無いのでは、と思います」
    「同じくです」
    「だよねー。断る理由無いもんね」
     マリアはゼロに向き直り、敬礼して見せた。
    「了解しました。遠征隊隊長の任、謹んでお受けします」
     こうして隊長はマリアに決まり、双月暦31年6月上旬、彼女の率いる遠征隊は南の海に向けて出発した。



     だが6年後――マリアはこの時の申し出を受けたことを、深く後悔した。
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