「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第6部
琥珀暁・天帝伝 5
神様たちの話、第354話。
天帝教のはじまり。
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5.
「ゼロがバケモノにすり替わっていた」と言うショッキングな事件は、瞬く間にゼロの支配圏全域に拡がった。と同時に、そのバケモノをゲート将軍とアロイ皇太子が討ったことも併せて伝えられ、二人は反逆者から一転、英雄として持てはやされた。
「それでは緊急閣議を始めます」
その成果もあって、アロイはゼロの後継者として、暫定的に認められることとなった。そしてこの閣議によって――。
「まず第一に、先日崩御されていたことが発覚したゼロ・タイムズについて、その後継者を誰にするかを考えなければなりませんが……」
「言うまでもないでしょう。アロイ皇太子、あなたしかございません」
「タイムズ様のご長子であり、見事にお父様の仇を討たれたのです。あなた以外の誰が、その座に着くと言うのですか」
「右に同じです」
正式に後継者となることを満場一致で推挙され、アロイは深々と頭を下げた。
「承知いたしました。では若輩者ながらこの私、アロイ・タイムズが、先王の、……いや、先帝の座を継承いたします」
「先『帝』?」
尋ねられ、アロイはこう答えた。
「父が生前成した偉業はいずれも並々ならぬものであり、到底、人の為せる業ではありません。その彼を他の者と同列に置くようなことは、民は誰一人として納得しないでしょう。この私自身も、父はただの人では無い、もっと神に、天に近しき者であったと、堅く信じています。であればただの人として扱い、葬ることは不敬であるはず。
そこで私は父に『帝』の号を諡(おく)り、以後永年に渡って我らが主神として祀ることを提案します」
「帝(みかど)……!」
その言葉に、閣僚たちは感嘆の声を上げた。
「そうですな、確かに祀り上げてしかるべきお方です」
「異論は無し。是非、そうすべきだ」
「いっこいいか?」
と、閣議に復帰することができたゲートが手を挙げる。
「単に帝ってだけじゃ、北にいたって言う皇帝と被らないか?」
「ふむ、確かに」
「いいや、陛下はもっと格上の存在だ!」
「そうだ。そんなものと一緒にされるのは敵わんな」
「だろう? だから俺はもういっこ、その諡号に付け加えたい。例えばさ、『天帝』ってのはどうだ? 今アロイが『天に近しい』って言ってたんで思い付いたんだが」
ゲートの案を聞いて、アロイは嬉しそうな顔で立ち上がり、拍手した。
「ええ、それは非常に良い響きです。是非そうしましょう。
では皆さん、これよりゼロ・タイムズは『天帝』と呼び、神として祀ることとします」
「賛成であります」
「承知いたしました」
こうして双月暦38年、ゼロ・タイムズを主神とする宗教、「天帝教」が誕生した。
アロイは「第二代天帝教教皇」を名乗り、10年近い歳月をかけて、父の遺した言葉や教訓、そしてゲートをはじめとする友人たちからの伝聞をまとめ、数冊の本にした。これが天帝教における聖書となり、以降数百年に渡って、中央大陸の人々の拠り所となったのである。
こうして生まれた宗教的結束はそのまま政治的結束へと置き換わり、中央大陸を統治する政府――「中央政府」が成立。以後、双月暦314年にファスタ卿らによって滅ぼされるまでの約2世紀半もの間、中央政府と、そしてその中核に鎮座するタイムズ一族は、双月世界の頂点に君臨し続けたのである。
「その方の名は、あらゆるものの始まりである。
その方の名は、あらゆるものの原点である。
その方の名は、無から有を生じさせるものである。
その方の名は、ゼロである。
(『降臨記』 第1章 第1節 第4項と第5項を抜粋)」
琥珀暁・天帝伝 終
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天帝教のはじまり。
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5.
「ゼロがバケモノにすり替わっていた」と言うショッキングな事件は、瞬く間にゼロの支配圏全域に拡がった。と同時に、そのバケモノをゲート将軍とアロイ皇太子が討ったことも併せて伝えられ、二人は反逆者から一転、英雄として持てはやされた。
「それでは緊急閣議を始めます」
その成果もあって、アロイはゼロの後継者として、暫定的に認められることとなった。そしてこの閣議によって――。
「まず第一に、先日崩御されていたことが発覚したゼロ・タイムズについて、その後継者を誰にするかを考えなければなりませんが……」
「言うまでもないでしょう。アロイ皇太子、あなたしかございません」
「タイムズ様のご長子であり、見事にお父様の仇を討たれたのです。あなた以外の誰が、その座に着くと言うのですか」
「右に同じです」
正式に後継者となることを満場一致で推挙され、アロイは深々と頭を下げた。
「承知いたしました。では若輩者ながらこの私、アロイ・タイムズが、先王の、……いや、先帝の座を継承いたします」
「先『帝』?」
尋ねられ、アロイはこう答えた。
「父が生前成した偉業はいずれも並々ならぬものであり、到底、人の為せる業ではありません。その彼を他の者と同列に置くようなことは、民は誰一人として納得しないでしょう。この私自身も、父はただの人では無い、もっと神に、天に近しき者であったと、堅く信じています。であればただの人として扱い、葬ることは不敬であるはず。
そこで私は父に『帝』の号を諡(おく)り、以後永年に渡って我らが主神として祀ることを提案します」
「帝(みかど)……!」
その言葉に、閣僚たちは感嘆の声を上げた。
「そうですな、確かに祀り上げてしかるべきお方です」
「異論は無し。是非、そうすべきだ」
「いっこいいか?」
と、閣議に復帰することができたゲートが手を挙げる。
「単に帝ってだけじゃ、北にいたって言う皇帝と被らないか?」
「ふむ、確かに」
「いいや、陛下はもっと格上の存在だ!」
「そうだ。そんなものと一緒にされるのは敵わんな」
「だろう? だから俺はもういっこ、その諡号に付け加えたい。例えばさ、『天帝』ってのはどうだ? 今アロイが『天に近しい』って言ってたんで思い付いたんだが」
ゲートの案を聞いて、アロイは嬉しそうな顔で立ち上がり、拍手した。
「ええ、それは非常に良い響きです。是非そうしましょう。
では皆さん、これよりゼロ・タイムズは『天帝』と呼び、神として祀ることとします」
「賛成であります」
「承知いたしました」
こうして双月暦38年、ゼロ・タイムズを主神とする宗教、「天帝教」が誕生した。
アロイは「第二代天帝教教皇」を名乗り、10年近い歳月をかけて、父の遺した言葉や教訓、そしてゲートをはじめとする友人たちからの伝聞をまとめ、数冊の本にした。これが天帝教における聖書となり、以降数百年に渡って、中央大陸の人々の拠り所となったのである。
こうして生まれた宗教的結束はそのまま政治的結束へと置き換わり、中央大陸を統治する政府――「中央政府」が成立。以後、双月暦314年にファスタ卿らによって滅ぼされるまでの約2世紀半もの間、中央政府と、そしてその中核に鎮座するタイムズ一族は、双月世界の頂点に君臨し続けたのである。
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その方の名は、あらゆるものの原点である。
その方の名は、無から有を生じさせるものである。
その方の名は、ゼロである。
(『降臨記』 第1章 第1節 第4項と第5項を抜粋)」
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