「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第6部
琥珀暁・女神伝 1
神様たちの話、第355話。
女将さんの晩年。
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1.
アロイ・タイムズ帝による統治が始まり、中央政府が成立して以降も、タイムズ家とエリザとの関係は続いていた。先帝ゼロが晩年には忌み嫌っていた相手であったものの、エリザは有能で、かつ、身内と味方に対しては非常に優しい人物であったために、アロイも少なからず彼女を慕い、頼ったのである。
そのこともあって、彼女の仕事は年を経るごとに増える一方だった。元より未曾有の大天才、並ぶ者のいない女傑である。彼女の仕事を丸ごとそっくり継げるだけの人材がいなかったこともあり、あの特徴的な金と赤の毛並みにも白いものが大分混じり、老境に達したはずの彼女は、相変わらず多忙に過ごし、第一線で働いていた。
「よっこいしょー、……っと」
杖を突きながら船の甲板に現れた彼女を見て、虎耳の青年が声を上げる。
「あっ、女将さん! もう大丈夫なんスか!?」
「大丈夫やって、もう。シェリコくんは心配性やね、ホンマに」
「心配にもなりますって。昨日まで寝込んでたやないっスか」
「ちょと船酔いしただけや。ほれ、もうこんな元気やで、……げっほ、げほっ」
魔杖を振り上げ、両腕を上げようとした途端、エリザは咳き込んだ。
「……今のナシな」
「ナシにできませんって。今ココで死なれたりなんかしたら、俺、母ちゃんにめっちゃめちゃ怒られるっスわ」
「大丈夫やって。リディアちゃんにはちゃんと、アンタがよおやってくれたって自分で言うたるから。……あー、と」
エリザは羽織っていたケープの懐を探り、苦笑する。
「……煙草持ってへん? 煙管置いてきてしもた」
「俺、吸わないっス。エルモかゼラナたちなら持ってるかもですけど。ってか悪いっスよ、体に」
「吸うた方が体にええねん、アタシの場合は」
「マジですか、もう……。じゃあ俺、エルモに聞いて来ますわ。さっき見かけたんで」
「ん、よろしゅ」
と、シェリコが踵を返しかけたところで、エリザが「あ、ちょい」と呼び止めた。
「何スか?」
「ゴメン、あったわ。服ん中に落ちとった」
「何スか、ソレ……。まあ、いいっスけど。火、いります?」
そう言って、シェリコは魔術で指先に火を灯す。
「お、ありがとさん」
エリザは煙管をくわえ、シェリコから火を借りて一息吸う。
「ふー……。ん、頭シャッキリして来たわ。今、どの辺や?」
「6個目の島まで後30キロかなってトコっス。1時間弱で着くと思いますわ」
「さよか。ほなソレまで、船ん中ぐるーっと見て回ろかな。一回りしとったら丁度ええくらいやろ」
「お供します」
「ありがとな」
シェリコに手を引かれ、エリザはふたたび船の中に戻る。
「おーぉ、目がクラクラ来よるわ」
「俺もっス」
「ホンマ、この辺りは日差しがえげつないなぁ。央中も結構や思てたけども、こっちはもっとやで」
「そっスねぇ。俺も全然、汗が引かないっスよ」
世間話に興じつつ、二人は船内を回る。
「ほんで、どないや?」
「どないって、何がっスか?」
きょとんとするシェリコに、エリザはニヤニヤと笑みを向ける。
「プリムちゃんとや」
言われた途端、シェリコの尻尾がぶわっと毛羽立つ。
「な、何のコトっスか」「とぼけんでええ」
エリザは煙管をくわえたまま、シェリコに耳打ちする。
「一昨日やったかもいっこ前やったか、アンタ、プリムちゃんの部屋から出て来たやろ。しかも出る前にちゅっちゅしとったし」
「いやいやいや、チューまではしてねえっスよ俺たち!?」「お、やっぱりか」
そう返され、シェリコは「あっ」と声を上げる。
「か、カマかけたんスか?」
「アンタ、ちょろいなぁ。そう言うトコ、お父さんとそっくりやで」
「どっちのっスか」
「どっちともや」
「あーっ……、もう!」
シェリコは虎耳の内側まで顔を真っ赤にしながら、ぼそっとつぶやいた。
「本当、女将さんには敵いませんわ」
「まだまだ若い子には負けへんで、アッハッハ……」
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女将さんの晩年。
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アロイ・タイムズ帝による統治が始まり、中央政府が成立して以降も、タイムズ家とエリザとの関係は続いていた。先帝ゼロが晩年には忌み嫌っていた相手であったものの、エリザは有能で、かつ、身内と味方に対しては非常に優しい人物であったために、アロイも少なからず彼女を慕い、頼ったのである。
そのこともあって、彼女の仕事は年を経るごとに増える一方だった。元より未曾有の大天才、並ぶ者のいない女傑である。彼女の仕事を丸ごとそっくり継げるだけの人材がいなかったこともあり、あの特徴的な金と赤の毛並みにも白いものが大分混じり、老境に達したはずの彼女は、相変わらず多忙に過ごし、第一線で働いていた。
「よっこいしょー、……っと」
杖を突きながら船の甲板に現れた彼女を見て、虎耳の青年が声を上げる。
「あっ、女将さん! もう大丈夫なんスか!?」
「大丈夫やって、もう。シェリコくんは心配性やね、ホンマに」
「心配にもなりますって。昨日まで寝込んでたやないっスか」
「ちょと船酔いしただけや。ほれ、もうこんな元気やで、……げっほ、げほっ」
魔杖を振り上げ、両腕を上げようとした途端、エリザは咳き込んだ。
「……今のナシな」
「ナシにできませんって。今ココで死なれたりなんかしたら、俺、母ちゃんにめっちゃめちゃ怒られるっスわ」
「大丈夫やって。リディアちゃんにはちゃんと、アンタがよおやってくれたって自分で言うたるから。……あー、と」
エリザは羽織っていたケープの懐を探り、苦笑する。
「……煙草持ってへん? 煙管置いてきてしもた」
「俺、吸わないっス。エルモかゼラナたちなら持ってるかもですけど。ってか悪いっスよ、体に」
「吸うた方が体にええねん、アタシの場合は」
「マジですか、もう……。じゃあ俺、エルモに聞いて来ますわ。さっき見かけたんで」
「ん、よろしゅ」
と、シェリコが踵を返しかけたところで、エリザが「あ、ちょい」と呼び止めた。
「何スか?」
「ゴメン、あったわ。服ん中に落ちとった」
「何スか、ソレ……。まあ、いいっスけど。火、いります?」
そう言って、シェリコは魔術で指先に火を灯す。
「お、ありがとさん」
エリザは煙管をくわえ、シェリコから火を借りて一息吸う。
「ふー……。ん、頭シャッキリして来たわ。今、どの辺や?」
「6個目の島まで後30キロかなってトコっス。1時間弱で着くと思いますわ」
「さよか。ほなソレまで、船ん中ぐるーっと見て回ろかな。一回りしとったら丁度ええくらいやろ」
「お供します」
「ありがとな」
シェリコに手を引かれ、エリザはふたたび船の中に戻る。
「おーぉ、目がクラクラ来よるわ」
「俺もっス」
「ホンマ、この辺りは日差しがえげつないなぁ。央中も結構や思てたけども、こっちはもっとやで」
「そっスねぇ。俺も全然、汗が引かないっスよ」
世間話に興じつつ、二人は船内を回る。
「ほんで、どないや?」
「どないって、何がっスか?」
きょとんとするシェリコに、エリザはニヤニヤと笑みを向ける。
「プリムちゃんとや」
言われた途端、シェリコの尻尾がぶわっと毛羽立つ。
「な、何のコトっスか」「とぼけんでええ」
エリザは煙管をくわえたまま、シェリコに耳打ちする。
「一昨日やったかもいっこ前やったか、アンタ、プリムちゃんの部屋から出て来たやろ。しかも出る前にちゅっちゅしとったし」
「いやいやいや、チューまではしてねえっスよ俺たち!?」「お、やっぱりか」
そう返され、シェリコは「あっ」と声を上げる。
「か、カマかけたんスか?」
「アンタ、ちょろいなぁ。そう言うトコ、お父さんとそっくりやで」
「どっちのっスか」
「どっちともや」
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