「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第6部
琥珀暁・女神伝 3
神様たちの話、第357話。
老境のまどろみ。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
3.
その晩は島の浜辺にテントを張り、エリザたちは数日ぶりに地面の上で眠ることができた。
「すう、すう……」
「すぴー……ふがっ……すぴー……」
エリザのテントにはゼラナとプリムが共におり、エリザは二人の寝息を耳にしつつ、夢と現の境を、うとうととさまよっていた。
(……参るわぁ……最近また……よぉ寝られんくなってきとるなー……)
昼間は元気一杯に振る舞っているものの、こうして夜になると、己の「老い」をひしひしと感じてしまう。
(……そろそろ寝えへんと……またシェリコくん……困った顔しよる……)
時折、夢の中にどぷんと浸かりそうな感覚を覚えるが、それを知覚すると、途端に現実へ引き戻されてしまう。この晩もエリザは、どうにか夢の世界に飛び込めないかと四苦八苦していた。
(……あー……眠いよーな……でも眠れへん……んー……)
それでも何度か行き来を繰り返すうち、ようやくエリザは完全に、眠りに落ちた。
気が付くと、エリザは浜辺に立っていた。
「ほぇ?」
上を見上げると、さんさんと太陽が照っている。
「え……嫌やわ、アタシそんなボケて来たんか?」
不安を覚えたものの、老いてなお明晰な頭脳を持つ彼女は、そこが今日、到達した島ではないことに気付いた。
(いやいやいや……。なんぼなんでも、太陽が2つもあってたまるかっちゅうねん。オマケに森ん中から変な建物がにょきっと生えとるし)
さらに、自分の手や尻尾を良く見れば、若い頃のものである。はっきり夢の中であると察し、エリザはフン、と鼻を鳴らした。
「……ま、寝られたんやったらええわ」
エリザは夢の中で背伸びし、その場に座り込んだ。
「せやけど変な感じやな。こんなはっきり自分で『コレは夢やー』て分かるコト、今まであったかなー……?」
自分のひざに頬杖を突き、エリザは水平線の向こうに目をやる。と――。
「……お? お、おおおっ!?」
自分の斜め上にあった方の太陽が、ゆっくり降りて来たのである。
「な、何やな何やな?」
《突然の失礼、おわび申し上げる》
と、その太陽がエリザに向かってしゃべり出した。
《私は克饕餮(トウテツ)。はるか昔、この地で死んだ者である。狐のご婦人、どうか私の話を聞いてはくれまいか?》
「な、何て? とう、とー、……トウテツ?」
《左様。死んで1000年、ようやく私の声が聞こえる者が現れて、私は非常に嬉しい》
太陽は次第に光を潜め、そこに身長2メートルを優に超える、巨漢の短耳が現れた。
《狐のご婦人、……と何度も呼ぶのは面倒なので、良ければ名前を教えてほしい》
「あ、はあ……。エリザ・ゴールドマンです。よろしゅう」
《よろしく》
トウテツと名乗った男は、エリザに向かって手を差し出して来る。つられてエリザも手を出し、握手を交わした。
《なかなか豪胆な方と心得る。それに、心もお若い》
「そらどーも」
最初は戸惑ったものの、相手が言った通り、肝の図太い彼女である。ものの1分もしない内に慣れてしまい、エリザは饕餮に尋ねた。
「ほんでトウテツさん、まさか『声聞こえるわー、わーいお話しよかー』で終わりやないでしょ?」
《うむ》
饕餮は苦笑いを浮かべつつ、こう切り出した。
《ご婦人、あ、いや、エリザさん。頼みがあるのだ》
「そらあるでしょう。無かったら『話聞いて』なんて言いませんやろ」
《あ、う、うむ。失敬》
話している内に、エリザは相手の性格も見抜く。
(アレやな、昔会うた……あの、アレやアレ、シェリコくんのおじーちゃんと同じタイプの人やな、どうも。話す度に一々、ドンドン話が遠回りしよる系の人やな)
《頼みと言うのは、他でも無い。私の『頭』を探してほしいのだ》
「は?」
相手の性格は読めたものの、その頼みの内容までは流石に察することができず、エリザは目を丸くした。
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老境のまどろみ。
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3.
その晩は島の浜辺にテントを張り、エリザたちは数日ぶりに地面の上で眠ることができた。
「すう、すう……」
「すぴー……ふがっ……すぴー……」
エリザのテントにはゼラナとプリムが共におり、エリザは二人の寝息を耳にしつつ、夢と現の境を、うとうととさまよっていた。
(……参るわぁ……最近また……よぉ寝られんくなってきとるなー……)
昼間は元気一杯に振る舞っているものの、こうして夜になると、己の「老い」をひしひしと感じてしまう。
(……そろそろ寝えへんと……またシェリコくん……困った顔しよる……)
時折、夢の中にどぷんと浸かりそうな感覚を覚えるが、それを知覚すると、途端に現実へ引き戻されてしまう。この晩もエリザは、どうにか夢の世界に飛び込めないかと四苦八苦していた。
(……あー……眠いよーな……でも眠れへん……んー……)
それでも何度か行き来を繰り返すうち、ようやくエリザは完全に、眠りに落ちた。
気が付くと、エリザは浜辺に立っていた。
「ほぇ?」
上を見上げると、さんさんと太陽が照っている。
「え……嫌やわ、アタシそんなボケて来たんか?」
不安を覚えたものの、老いてなお明晰な頭脳を持つ彼女は、そこが今日、到達した島ではないことに気付いた。
(いやいやいや……。なんぼなんでも、太陽が2つもあってたまるかっちゅうねん。オマケに森ん中から変な建物がにょきっと生えとるし)
さらに、自分の手や尻尾を良く見れば、若い頃のものである。はっきり夢の中であると察し、エリザはフン、と鼻を鳴らした。
「……ま、寝られたんやったらええわ」
エリザは夢の中で背伸びし、その場に座り込んだ。
「せやけど変な感じやな。こんなはっきり自分で『コレは夢やー』て分かるコト、今まであったかなー……?」
自分のひざに頬杖を突き、エリザは水平線の向こうに目をやる。と――。
「……お? お、おおおっ!?」
自分の斜め上にあった方の太陽が、ゆっくり降りて来たのである。
「な、何やな何やな?」
《突然の失礼、おわび申し上げる》
と、その太陽がエリザに向かってしゃべり出した。
《私は克饕餮(トウテツ)。はるか昔、この地で死んだ者である。狐のご婦人、どうか私の話を聞いてはくれまいか?》
「な、何て? とう、とー、……トウテツ?」
《左様。死んで1000年、ようやく私の声が聞こえる者が現れて、私は非常に嬉しい》
太陽は次第に光を潜め、そこに身長2メートルを優に超える、巨漢の短耳が現れた。
《狐のご婦人、……と何度も呼ぶのは面倒なので、良ければ名前を教えてほしい》
「あ、はあ……。エリザ・ゴールドマンです。よろしゅう」
《よろしく》
トウテツと名乗った男は、エリザに向かって手を差し出して来る。つられてエリザも手を出し、握手を交わした。
《なかなか豪胆な方と心得る。それに、心もお若い》
「そらどーも」
最初は戸惑ったものの、相手が言った通り、肝の図太い彼女である。ものの1分もしない内に慣れてしまい、エリザは饕餮に尋ねた。
「ほんでトウテツさん、まさか『声聞こえるわー、わーいお話しよかー』で終わりやないでしょ?」
《うむ》
饕餮は苦笑いを浮かべつつ、こう切り出した。
《ご婦人、あ、いや、エリザさん。頼みがあるのだ》
「そらあるでしょう。無かったら『話聞いて』なんて言いませんやろ」
《あ、う、うむ。失敬》
話している内に、エリザは相手の性格も見抜く。
(アレやな、昔会うた……あの、アレやアレ、シェリコくんのおじーちゃんと同じタイプの人やな、どうも。話す度に一々、ドンドン話が遠回りしよる系の人やな)
《頼みと言うのは、他でも無い。私の『頭』を探してほしいのだ》
「は?」
相手の性格は読めたものの、その頼みの内容までは流石に察することができず、エリザは目を丸くした。
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