「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第6部
琥珀暁・女神伝 5
神様たちの話、第359話。
克大火の弟子;全てを飲み込む者。
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5.
《麒麟が私に――『コレは緊急の緊急、もうコレやるしかない最終段階って時にだけ、どっちかいっこだけ使うように』と警告した上で――教えた術は2つあった。一つは魔獣の術。己の体を一時、獣同様に換えるもので、私が使えば獰猛な熊のように変身できた。
そしてもう一つは、魔力を爆発的に増加させる強化術だ。MPPと言って、エリザさんはお分かりだろうか》
「分かりまへんなぁ」
《あー……と、となると説明が難しいな。どう言ったものか、……ともかく、魔力を一時的に、通常の数十倍、いや、数百倍に高めることができるのだ》
「ほんでアンタは、アカン言われてたにもかかわらず、両方いっぺんに使てしもた、と」
《左様。私の腕では同時に2つ展開して、制御することはできなかったのだ。そしてその結果が……》
話している間に、回想の中の饕餮の体は真っ二つに避け、その中から熊のようなバケモノが姿を現した。だがその姿もまもなく膨れ上がって原型を留めなくなり、そこから先は虎のような、象のような、しかしやはり、どこかに熊の要素も残っているような――数多の猛獣を混ぜ固めたような、形容しようの無いバケモノへと変貌した。
「……愚か者め……」
大火は顔をしかめさせ、その場から姿を消した。
その後の映像は、数多の修羅場をくぐった経験豊富なエリザでも、絶句するようなものばかりだった。
完全な怪物と化した饕餮は、確かに所期の目的通り、迫っていたバケモノを、一瞬の内に消し飛ばした。だが攻撃の余波はバケモノたちだけではなく、島自体をも吹き飛ばした。その時点で饕餮の自我は消え去ってしまったらしく、彼はそのまま、空高く飛び上がった。
「……なっ……なんだ……お前は……!?」
と、彼の視界に真っ白なローブを着た女――克難訓が映る。それを目にした途端、饕餮は彼女めがけて一直線に飛び込んで行った。
「く……来るな……来るなーッ! 『バールマルム』! 『ネメシスバルド』! 『アポカリプス』!」
どうやら難訓は魔術を立て続けに放ったようだが、饕餮の体中に現れた目が3つ、4つ潰れた程度で、ほとんどダメージらしいダメージは受けていない。
「ひ……ひいいいいいいいっ!」
あっと言う間に難訓は饕餮の中に飲み込まれ、数秒後、細切れになって背中から排出された。
「……っ……あ……ぅ……」
顔面半分と胸から上だけになった彼女も、瞬間移動術で姿を消す。だがそれに気付いた様子は、饕餮には無かった。何故ならその時、彼は別のものに目を向けていたからである。
饕餮は目に映ったもの――一際大きな陸地に向かって、またも一直線に飛んで行った。
饕餮はその大地を、破壊し尽くした。たった一日で、北方大陸と同じくらいの大きさであったその大陸は、いくつかの島々を残して海に沈んでいった。
《……そして私は、次の標的を探すべくさまよっている間に、完全武装した師匠と相見えた。いやまったく、師匠は流石の人であった。私が不完全な形で発動した魔力強化術を短時間で改良し、実用に耐え得るものに調整したのだ。その強化術を用いた師匠は、まさに一騎当千、いや、当万、当十万とも……》「ほんでトウテツさん」
冗長的になり始めた話をさえぎり、エリザは先を促した。
「結局そのお強いお師匠さんが、トウテツさんを討ったワケですな?」
《左様。師匠は私の体を可能な限り細切れにし、数百キロ四方にバラ撒いた。当然、その中にあった私の『元の』頭も、どこかに飛んで行ってしまった》
「1000年も前やったら、とっくに土に還ってしもてるんとちゃいます?」
そう返すエリザに、饕餮はかぶりを振る。
《私には分かる。まだこの南の海のどこかの島に、私の頭骨が残っていると。
無論、今更見付けたところでどうなるものでもないし、もう1000年、2000年も放っておけば、流石に消えて無くなるかも知れん。だがあると感じる以上、せめてきちんと葬ってほしいと、そう思うのは自然ではないだろうか》
「まあ、分からんではないですな」
エリザはいつの間にか手にしていた煙管を口にくわえ、ふーっと一息吐き出す。
「お話、よお分かりました。どっちにせよ、この辺りは探索しようと思とったところですし、ついでで良ければ探しますで」
《おおっ、ありがたい!》
「ですけども」
顔をほころばせた饕餮に、エリザは煙管の先を向ける。
「タダで人を使おうっちゅうワケやありませんよね? こっちも酷暑と潮風の中、汗かき汗かき髪と尻尾をゴワッゴワにして捜索するんですから、何かしら見返りはもらわへんと、割に合いませんわ」
《承知している。エリザさんは魔術に相当お詳しいようだから、それに因んだ品を用意しよう》
「『用意』て言われても、ソレを幽霊のアンタから、どう受け取ればええんです?」
《無論、配慮はする。信じてほしい》
「ま、ええですわ。ソレで手ぇ打ちましょ」
《よろしく頼む。頭骨を見付けたらどうか丁寧に埋葬し、その上に墓を建ててほしい》
「はいはい」
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克大火の弟子;全てを飲み込む者。
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《麒麟が私に――『コレは緊急の緊急、もうコレやるしかない最終段階って時にだけ、どっちかいっこだけ使うように』と警告した上で――教えた術は2つあった。一つは魔獣の術。己の体を一時、獣同様に換えるもので、私が使えば獰猛な熊のように変身できた。
そしてもう一つは、魔力を爆発的に増加させる強化術だ。MPPと言って、エリザさんはお分かりだろうか》
「分かりまへんなぁ」
《あー……と、となると説明が難しいな。どう言ったものか、……ともかく、魔力を一時的に、通常の数十倍、いや、数百倍に高めることができるのだ》
「ほんでアンタは、アカン言われてたにもかかわらず、両方いっぺんに使てしもた、と」
《左様。私の腕では同時に2つ展開して、制御することはできなかったのだ。そしてその結果が……》
話している間に、回想の中の饕餮の体は真っ二つに避け、その中から熊のようなバケモノが姿を現した。だがその姿もまもなく膨れ上がって原型を留めなくなり、そこから先は虎のような、象のような、しかしやはり、どこかに熊の要素も残っているような――数多の猛獣を混ぜ固めたような、形容しようの無いバケモノへと変貌した。
「……愚か者め……」
大火は顔をしかめさせ、その場から姿を消した。
その後の映像は、数多の修羅場をくぐった経験豊富なエリザでも、絶句するようなものばかりだった。
完全な怪物と化した饕餮は、確かに所期の目的通り、迫っていたバケモノを、一瞬の内に消し飛ばした。だが攻撃の余波はバケモノたちだけではなく、島自体をも吹き飛ばした。その時点で饕餮の自我は消え去ってしまったらしく、彼はそのまま、空高く飛び上がった。
「……なっ……なんだ……お前は……!?」
と、彼の視界に真っ白なローブを着た女――克難訓が映る。それを目にした途端、饕餮は彼女めがけて一直線に飛び込んで行った。
「く……来るな……来るなーッ! 『バールマルム』! 『ネメシスバルド』! 『アポカリプス』!」
どうやら難訓は魔術を立て続けに放ったようだが、饕餮の体中に現れた目が3つ、4つ潰れた程度で、ほとんどダメージらしいダメージは受けていない。
「ひ……ひいいいいいいいっ!」
あっと言う間に難訓は饕餮の中に飲み込まれ、数秒後、細切れになって背中から排出された。
「……っ……あ……ぅ……」
顔面半分と胸から上だけになった彼女も、瞬間移動術で姿を消す。だがそれに気付いた様子は、饕餮には無かった。何故ならその時、彼は別のものに目を向けていたからである。
饕餮は目に映ったもの――一際大きな陸地に向かって、またも一直線に飛んで行った。
饕餮はその大地を、破壊し尽くした。たった一日で、北方大陸と同じくらいの大きさであったその大陸は、いくつかの島々を残して海に沈んでいった。
《……そして私は、次の標的を探すべくさまよっている間に、完全武装した師匠と相見えた。いやまったく、師匠は流石の人であった。私が不完全な形で発動した魔力強化術を短時間で改良し、実用に耐え得るものに調整したのだ。その強化術を用いた師匠は、まさに一騎当千、いや、当万、当十万とも……》「ほんでトウテツさん」
冗長的になり始めた話をさえぎり、エリザは先を促した。
「結局そのお強いお師匠さんが、トウテツさんを討ったワケですな?」
《左様。師匠は私の体を可能な限り細切れにし、数百キロ四方にバラ撒いた。当然、その中にあった私の『元の』頭も、どこかに飛んで行ってしまった》
「1000年も前やったら、とっくに土に還ってしもてるんとちゃいます?」
そう返すエリザに、饕餮はかぶりを振る。
《私には分かる。まだこの南の海のどこかの島に、私の頭骨が残っていると。
無論、今更見付けたところでどうなるものでもないし、もう1000年、2000年も放っておけば、流石に消えて無くなるかも知れん。だがあると感じる以上、せめてきちんと葬ってほしいと、そう思うのは自然ではないだろうか》
「まあ、分からんではないですな」
エリザはいつの間にか手にしていた煙管を口にくわえ、ふーっと一息吐き出す。
「お話、よお分かりました。どっちにせよ、この辺りは探索しようと思とったところですし、ついでで良ければ探しますで」
《おおっ、ありがたい!》
「ですけども」
顔をほころばせた饕餮に、エリザは煙管の先を向ける。
「タダで人を使おうっちゅうワケやありませんよね? こっちも酷暑と潮風の中、汗かき汗かき髪と尻尾をゴワッゴワにして捜索するんですから、何かしら見返りはもらわへんと、割に合いませんわ」
《承知している。エリザさんは魔術に相当お詳しいようだから、それに因んだ品を用意しよう》
「『用意』て言われても、ソレを幽霊のアンタから、どう受け取ればええんです?」
《無論、配慮はする。信じてほしい》
「ま、ええですわ。ソレで手ぇ打ちましょ」
《よろしく頼む。頭骨を見付けたらどうか丁寧に埋葬し、その上に墓を建ててほしい》
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