「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第6部
琥珀暁・女神伝 6
神様たちの話、第360話。
1000年越しの弔い。
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6.
夢の中で受けた饕餮からの依頼は、エリザが予想していたよりずっと早く、達成することができた。夢を見てから2ヶ月後、ひょんなことから発見できたからである。
「お、女将さぁ~ん!」
ぞっとした顔を並べるシェリコとエルモに呼ばれ、エリザは面食らう。
「何やのん? 二人して、えらい顔しよって」
「し、島の奥で、えらいもん見付けてしまいまして」
「そ、そ、そうなんスよ」
それを聞いて、エリザはピンと来る。
「何や? 頭蓋骨でも見付けたんか?」
「そ、そう、ソレなんスよ! 多分人のヤツっス」
「でも、普通やないんですよ。辺り一面、何て言うたらええか、その……」
「ちょと見に行こか。案内頼むで」
「あ、案内……スか」
「わ、分かりました……」
揃って肩を落とす兄弟の後ろに付き、エリザはその、骨がある場所へと向かった。
「おーぉ」
現場を見て、エリザもうめく。
「こら怖いな、確かに」
島の中心と思われる場所に、その頭蓋骨は半分ほど埋まっていた。だが地面は大きくえぐれており、その周囲6~7メートルは、およそ砂や土とは思えない、真っ青な色に染まっている。
「触って平気、……とはちょと思えへんなぁ、コレ」
エリザは途中通った森の中に戻り、枝を拾って来る。
「よっこいしょー、っと。……うわぁ」
枝を青い地面に刺した途端、枝はぶすぶすと煙を上げ、ぼろぼろに崩れてしまった。
「結構な強酸やな。ほんなら、中和したら何とかなるかも分からんな」
「どうすんスか?」
「ソコら辺の木と海藻集めて燃やし。ほんででけた灰と真水混ぜて撒いてみよか」
エリザに命じられた通り、シェリコ兄弟とゼラナ姉妹は周囲の木を伐り、浜辺に打ち上げられていた海藻を採って、一緒に燃やして灰を得た。
「コレでええのん、ばーちゃん?」
「ん、ありがとさん」
エリザは灰を含んだ水を撒き、もう一度枝を刺して土の様子を探る。
「さっきよりは反応薄くなったけども、……まだ煙、うっすら噴いとるな。こら全部中和するのんに二、三日かかりそうやな」
「女将さん、なんでそんなにあの骨にこだわるんスか?」
シェリコに尋ねられ、エリザは肩をすくめて返した。
「野ざらしは可哀想やろ? どんだけ経っとるか分からんけども」
結局、土が無害な程度に中和されるまでに、4日を要したが――それでもどうにかやり遂げ、エリザは饕餮のものらしい頭蓋骨を拾うことができた。
「なるほどなぁ。あんな土ん中やったら鳥も獣も寄って来られへんわな。そら1000年放置されるワケやで」
「1000年?」
横にいたエルモに尋ねられたが、エリザは笑ってごまかす。
「そんくらいやろなって。……さ、ほな丁寧にお墓作ったろか。もうひと頑張り頼むで」
「へーい」
その日の晩の内に、エリザの夢に饕餮が現れた。
《頼みを聞き届けていただき、誠に感謝の極みである。ありがとう、エリザさん》
「そらどーも。……で、報酬はどうやってもろたらええんでしょ」
尋ねたエリザに、饕餮は懐から一枚の、金と紫に光る板を取り出す。
《この『目録』をあなたにお譲りする。あなたの心の中に置いておく》
「はあ……? まあ、もろたっちゅうコトでええんですな」
《これで私もようやく、心残りが無くなった。もう現世には未練無しだ。……いや、……最期に、一つだけ。と言っても、これはエリザさんに何かしてもらうような必要は、無いかとは思うが》
「何ですのん? 今更遠慮せんでもええでしょ」
《うむ……まあ……そうだな》
饕餮は困った顔をしつつも、口を開いた。
《師匠はまだ生きている、……と思う。恐らくは私を討った直後、力尽きてどこかの島に漂着したと思われるが、私が自分自身の頭骨の存在を感じていたように、この世界においてもまだ、師匠がどこかで生き残っていることを感じている。だがもし見付けたとしても、彼のことは放っておいてもらいたい。その内、目覚めるだろうから。師匠はそう言うお人だ。
ただ、それが明日のことか、あるいは50年後、100年後、それとももっと後のことになるかは、私にも見当が付かないが》
「分かりました。ほな探索は切り上げときましょ。誰も来おへんかったら見付かるコトも無いでしょうし」
《よろしく頼む。……ではさらばだ、エリザさん》
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1000年越しの弔い。
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夢の中で受けた饕餮からの依頼は、エリザが予想していたよりずっと早く、達成することができた。夢を見てから2ヶ月後、ひょんなことから発見できたからである。
「お、女将さぁ~ん!」
ぞっとした顔を並べるシェリコとエルモに呼ばれ、エリザは面食らう。
「何やのん? 二人して、えらい顔しよって」
「し、島の奥で、えらいもん見付けてしまいまして」
「そ、そ、そうなんスよ」
それを聞いて、エリザはピンと来る。
「何や? 頭蓋骨でも見付けたんか?」
「そ、そう、ソレなんスよ! 多分人のヤツっス」
「でも、普通やないんですよ。辺り一面、何て言うたらええか、その……」
「ちょと見に行こか。案内頼むで」
「あ、案内……スか」
「わ、分かりました……」
揃って肩を落とす兄弟の後ろに付き、エリザはその、骨がある場所へと向かった。
「おーぉ」
現場を見て、エリザもうめく。
「こら怖いな、確かに」
島の中心と思われる場所に、その頭蓋骨は半分ほど埋まっていた。だが地面は大きくえぐれており、その周囲6~7メートルは、およそ砂や土とは思えない、真っ青な色に染まっている。
「触って平気、……とはちょと思えへんなぁ、コレ」
エリザは途中通った森の中に戻り、枝を拾って来る。
「よっこいしょー、っと。……うわぁ」
枝を青い地面に刺した途端、枝はぶすぶすと煙を上げ、ぼろぼろに崩れてしまった。
「結構な強酸やな。ほんなら、中和したら何とかなるかも分からんな」
「どうすんスか?」
「ソコら辺の木と海藻集めて燃やし。ほんででけた灰と真水混ぜて撒いてみよか」
エリザに命じられた通り、シェリコ兄弟とゼラナ姉妹は周囲の木を伐り、浜辺に打ち上げられていた海藻を採って、一緒に燃やして灰を得た。
「コレでええのん、ばーちゃん?」
「ん、ありがとさん」
エリザは灰を含んだ水を撒き、もう一度枝を刺して土の様子を探る。
「さっきよりは反応薄くなったけども、……まだ煙、うっすら噴いとるな。こら全部中和するのんに二、三日かかりそうやな」
「女将さん、なんでそんなにあの骨にこだわるんスか?」
シェリコに尋ねられ、エリザは肩をすくめて返した。
「野ざらしは可哀想やろ? どんだけ経っとるか分からんけども」
結局、土が無害な程度に中和されるまでに、4日を要したが――それでもどうにかやり遂げ、エリザは饕餮のものらしい頭蓋骨を拾うことができた。
「なるほどなぁ。あんな土ん中やったら鳥も獣も寄って来られへんわな。そら1000年放置されるワケやで」
「1000年?」
横にいたエルモに尋ねられたが、エリザは笑ってごまかす。
「そんくらいやろなって。……さ、ほな丁寧にお墓作ったろか。もうひと頑張り頼むで」
「へーい」
その日の晩の内に、エリザの夢に饕餮が現れた。
《頼みを聞き届けていただき、誠に感謝の極みである。ありがとう、エリザさん》
「そらどーも。……で、報酬はどうやってもろたらええんでしょ」
尋ねたエリザに、饕餮は懐から一枚の、金と紫に光る板を取り出す。
《この『目録』をあなたにお譲りする。あなたの心の中に置いておく》
「はあ……? まあ、もろたっちゅうコトでええんですな」
《これで私もようやく、心残りが無くなった。もう現世には未練無しだ。……いや、……最期に、一つだけ。と言っても、これはエリザさんに何かしてもらうような必要は、無いかとは思うが》
「何ですのん? 今更遠慮せんでもええでしょ」
《うむ……まあ……そうだな》
饕餮は困った顔をしつつも、口を開いた。
《師匠はまだ生きている、……と思う。恐らくは私を討った直後、力尽きてどこかの島に漂着したと思われるが、私が自分自身の頭骨の存在を感じていたように、この世界においてもまだ、師匠がどこかで生き残っていることを感じている。だがもし見付けたとしても、彼のことは放っておいてもらいたい。その内、目覚めるだろうから。師匠はそう言うお人だ。
ただ、それが明日のことか、あるいは50年後、100年後、それとももっと後のことになるかは、私にも見当が付かないが》
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