「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第6部
琥珀暁・女神伝 7
神様たちの話、最終話。
陽は墜ち――そして、また。
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7.
饕餮の埋葬が済んだ翌日、エリザは突然、帰郷を提案した。予定よりも随分早かったが、孫たちをはじめとして、船団の皆も故郷を恋しく思い始めていた頃であり、満場一致で帰ることが決定された。
「ほんでも、何で急に?」
尋ねたシェリコに、エリザはいつもと同じように、肩をすくめて返した。
「色々な、思い付いたコトがあんねん。もしかしたらもうアタシ、あんまり時間が無いかもやから、少しでも形にしたくてな」
「ちょっ……、縁起でも無いコト言わないで下さいよ、女将さん」
「冗談で言うたんやあらへん」
エリザは海の向こうを眺めながら、煙管をくわえた。
「アタシもう、すっかりおばあちゃんやで? やりたいコトがいきなり仰山でけても、もう間に合わへんかも分からんからな」
その言葉が――極めて残酷ながら――真実であったことは、帰郷後まもなく証明されてしまった。エリザは故郷に戻って数日後、突然息を引き取ってしまったのである。あまりに早過ぎる大女将の死に、息子は勿論、弟夫婦も娘夫婦も、そして親しくしていた側近とその子供たちも、さらには彼女の家に仕えていた使用人たちも――果てには街にいたその全員が、深く涙した。
エリザは万人から深く惜しまれ、そして悼まれて、豪勢に弔われた。葬儀はまるでお祭りの如く、七日七晩に渡って続けられたと言う。
《……ってワケでなー、トウテツさんからもらったもん実践してみよか思てた矢先に、ぽっくりやで? そら死んでも死に切れへんっちゅうヤツやん?
せやからココに居座って、研究続けるコトにしたんよ》
《あなた、息子さんに助言するのが目的だって言ってなかった?》
夢の世界、エリザの家。
彼女に拾われた悲劇の大天才、葵・ハーミットは、エリザ自身から彼女の半生記を聞かされ、いささか疲れた表情を浮かべながらも――やはり当事者本人からの、生の英雄譚であったためか――どこか興奮した様子を見せていた。
《や、ソレも勿論あるねんで? でもソレだけやとヒマするやんか》
《死んだ人が忙しいって言うのも変じゃない?》
《かも分からんけども。……ともかくや、その『目録』、実はココにあんねん》
そう言って、エリザは自分の胸元に手を入れ、煙管――ではなく、金と紫に光る板を取り出した。
《コレが克一門の秘蔵の品、『黄金の目録』や。コレ、ホンマにすごいで。コレ自体が桁違いの魔力持っとるおかげで、死んだ後でもアタシ、こーやって夢の世界で好き放題でけるようになったからな。ソレに強化術やら金の錬成法やら、今でも実現困難、実現不可能なハナシまで、実践でける方法が事細かに書かれとるんよ。
や、そんなんはまだ序の口やな。ホンマのホンマにものすごいんはな……》
説明しつつ、エリザは「目録」の表面をなぞり、葵にその「ものすごい」内容を見せる。
《……え? えっ!? う、嘘でしょ!?》
葵ほどの英才でさえも仰天する様子を見て、エリザはニヤニヤと笑みを浮かべている。
《ホンマや。コレはもう、魔術の域やない。魔法やねん》
《あたし、克一門をなめてかかってたよ。……本当に、本当にすごかったんだね》
《残念ながらトウテツさんは、内容はよお分かってへんかったみたいやけどな。分かっとったらバケモノになるようなヘマ打ってへんわ。そもそもそんな術使う必要無かったんやから》
《そう、だね》
葵は「目録」を手に取り、熱心に見入っている。と、エリザは葵から「目録」をひょいと取り上げ、胸元にしまう。
《あっ》
《研究はおいおいやって行こか。まずはアンタの部屋作るんが先決や》
《あ、……うん》
椅子から立ち上がり、葵が部屋を出る。
エリザも続いて部屋を後にしようとし――くるんと振り向いた。
《アタシらまだまだ、コレからやでぇ? アハハハハハハ》
琥珀暁・女神伝 終
双月千年世界「琥珀暁」 終
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陽は墜ち――そして、また。
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7.
饕餮の埋葬が済んだ翌日、エリザは突然、帰郷を提案した。予定よりも随分早かったが、孫たちをはじめとして、船団の皆も故郷を恋しく思い始めていた頃であり、満場一致で帰ることが決定された。
「ほんでも、何で急に?」
尋ねたシェリコに、エリザはいつもと同じように、肩をすくめて返した。
「色々な、思い付いたコトがあんねん。もしかしたらもうアタシ、あんまり時間が無いかもやから、少しでも形にしたくてな」
「ちょっ……、縁起でも無いコト言わないで下さいよ、女将さん」
「冗談で言うたんやあらへん」
エリザは海の向こうを眺めながら、煙管をくわえた。
「アタシもう、すっかりおばあちゃんやで? やりたいコトがいきなり仰山でけても、もう間に合わへんかも分からんからな」
その言葉が――極めて残酷ながら――真実であったことは、帰郷後まもなく証明されてしまった。エリザは故郷に戻って数日後、突然息を引き取ってしまったのである。あまりに早過ぎる大女将の死に、息子は勿論、弟夫婦も娘夫婦も、そして親しくしていた側近とその子供たちも、さらには彼女の家に仕えていた使用人たちも――果てには街にいたその全員が、深く涙した。
エリザは万人から深く惜しまれ、そして悼まれて、豪勢に弔われた。葬儀はまるでお祭りの如く、七日七晩に渡って続けられたと言う。
《……ってワケでなー、トウテツさんからもらったもん実践してみよか思てた矢先に、ぽっくりやで? そら死んでも死に切れへんっちゅうヤツやん?
せやからココに居座って、研究続けるコトにしたんよ》
《あなた、息子さんに助言するのが目的だって言ってなかった?》
夢の世界、エリザの家。
彼女に拾われた悲劇の大天才、葵・ハーミットは、エリザ自身から彼女の半生記を聞かされ、いささか疲れた表情を浮かべながらも――やはり当事者本人からの、生の英雄譚であったためか――どこか興奮した様子を見せていた。
《や、ソレも勿論あるねんで? でもソレだけやとヒマするやんか》
《死んだ人が忙しいって言うのも変じゃない?》
《かも分からんけども。……ともかくや、その『目録』、実はココにあんねん》
そう言って、エリザは自分の胸元に手を入れ、煙管――ではなく、金と紫に光る板を取り出した。
《コレが克一門の秘蔵の品、『黄金の目録』や。コレ、ホンマにすごいで。コレ自体が桁違いの魔力持っとるおかげで、死んだ後でもアタシ、こーやって夢の世界で好き放題でけるようになったからな。ソレに強化術やら金の錬成法やら、今でも実現困難、実現不可能なハナシまで、実践でける方法が事細かに書かれとるんよ。
や、そんなんはまだ序の口やな。ホンマのホンマにものすごいんはな……》
説明しつつ、エリザは「目録」の表面をなぞり、葵にその「ものすごい」内容を見せる。
《……え? えっ!? う、嘘でしょ!?》
葵ほどの英才でさえも仰天する様子を見て、エリザはニヤニヤと笑みを浮かべている。
《ホンマや。コレはもう、魔術の域やない。魔法やねん》
《あたし、克一門をなめてかかってたよ。……本当に、本当にすごかったんだね》
《残念ながらトウテツさんは、内容はよお分かってへんかったみたいやけどな。分かっとったらバケモノになるようなヘマ打ってへんわ。そもそもそんな術使う必要無かったんやから》
《そう、だね》
葵は「目録」を手に取り、熱心に見入っている。と、エリザは葵から「目録」をひょいと取り上げ、胸元にしまう。
《あっ》
《研究はおいおいやって行こか。まずはアンタの部屋作るんが先決や》
《あ、……うん》
椅子から立ち上がり、葵が部屋を出る。
エリザも続いて部屋を後にしようとし――くるんと振り向いた。
《アタシらまだまだ、コレからやでぇ? アハハハハハハ》
琥珀暁・女神伝 終
双月千年世界「琥珀暁」 終
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これにて「琥珀暁」完結です。
2016年の連載開始から丸4年。いやぁ、もつれたもつれた。
途中で実生活に重大な悪影響がありましたからね……。
明後日からいつものあとがきインタビューを行い、
その後は6部地図と目次を更新する予定です。
そこから若干日を空け、次の連載を行いたいと考えています。
もうそろそろ、あっちの方も完結です。
これにて「琥珀暁」完結です。
2016年の連載開始から丸4年。いやぁ、もつれたもつれた。
途中で実生活に重大な悪影響がありましたからね……。
明後日からいつものあとがきインタビューを行い、
その後は6部地図と目次を更新する予定です。
そこから若干日を空け、次の連載を行いたいと考えています。
もうそろそろ、あっちの方も完結です。



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双月千年世界 1;蒼天剣

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