DETECTIVE WESTERN
DETECTIVE WESTERN 14 ~ 西の果て、遠い夜明け ~ 2
ウエスタン小説、第2話。
出動要請。
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2.
1週間の期限付きで西部全域の電信電話網が封鎖されてから6日後――パディントン探偵局一行は、どうにかC州に到着することができた。組織が本拠地を特定されたこと、そしてこの封鎖作戦自体に勘付くかどうかが最大の懸念であったが、この6日間で襲撃されることも無く、また、尾行者らしい影も無かったことから、その懸念が杞憂であったことは確かとなった。
「どうにか日が暮れるまでには、目的地に到着できそうだ」
「うむ」
リロイ副局長にうなずきつつ、局長はこう返してくる。
「太平洋のおかげで、日が沈み切るまでにはたっぷり時間があるからね」
「そうかも知れないね」
どことなく呆れ気味に答えながら、リロイは不安げな顔を見せる。
「あんまり呑気そうにしてるから改めて確認させてもらうけど、本当に頼っていいのかい?」
「任せたまえ。彼と私とは旧知の仲だ」
「いつもの、か」
「そうとも」
局長はニヤッと笑い、得意げに胸を反らした。
「こんな時のために築いてきた人脈だ。今こそ役立ってもらわないと困る」
C州の港町、ケープビーチに到着してすぐ、局長とリロイはこの町の州軍基地を訪ねた。
「久しぶりだな、ジェフ。いつも唐突にやって来るな、あんたは」
出迎えた基地司令に、局長は握手して応じる。
「ちょっと用事があってね。ジョン、君は変わりないかな?」
「そりゃ、俺の姿を見て言ってるのか?」
相手は出っ張った腹をぽこんと叩き、笑って返す。
「この通り、前に会った時から30ポンドは太っちまったよ」
「前に会ったのはちょうど、10年前だったな。私はこの通りだ。若干シワが増えた」
「白髪もな。相当忙しくやってるみたいだな」
「うむ。今回も仕事でね」
局長がそう告げた途端、ジョン司令は真面目な顔になった。
「あんたのことだから、厄介なヤツだな?」
「そうだ。大きな組織を追っていてね、その本拠地がつかめそうなんだ。逃がすととても厄介なことになりそうだからね、人数がほしいんだ」
「ふーむ……。そう言われても『よし分かった』とは、俺が言えんことは分かるだろう、ジェフ?」
「見返りはあるとも。犯罪組織が相手だ、全員拿捕できれば合衆国の安全と平和に、大いに貢献できる。事実、その組織は合衆国のあちこちで犯罪行為を繰り返しているし、構成員や幹部の中には懸賞金が出ている者も多数ある。それに……」
局長はポートショアで手に入れたDC襲撃計画書を、ジョン司令に差し出した。
「これは私の目からは途方も無い計画のように思えるが、海のプロであるジョン・ダブリン大佐はどう捉えるかな?」
「ふーむ、……パナマに運河か。いや、しかし俺としては、そう荒唐無稽とも思えん」
「ほう」
「実際、やろうって話自体は昔からある。人とカネが集まらんから無理って言われてるけどな。だから本気で集めようってヤツがいたら、実現の可能性はある。実現すれば恐らく、大陸横断鉄道なんか目じゃないってくらいの恩恵があるだろうな」
「確かに。このルートがもし本当に実現すれば、東部から西部までの海路は大幅に短縮できるだろう。そしてその輸送能力が大幅に向上することも、間違い無い。だが組織はその輸送能力を、合衆国攻撃のために使おうとしている。それを見過ごすことはできん」
「確かにこんな大それたことをやってのけようってヤツらを捕まえられれば、俺も勲章モノだな。だが失敗した場合はどうする? あんたがつかんだ本拠地とやらの情報がガセだって可能性は? あんたとは昔からの友人だが、だからって一個人、一民間人の要請だ。それを基地司令が真に受けて大軍動かして、その結果ネズミ一匹捕まりませんでしたじゃ、笑って済まされんぞ」
「詳しい話は省くが、信憑性は高い。私は間違い無くそこに、敵の首領がいると確信している。私の全財産を賭けてもいい」
これを受けて、ジョン司令は肩をすくめた。
「もし失敗したら、その全財産で補填ってことか」
「そう言うことだ。こちらも詳しい額は明かせんが、少なくとも州軍への迷惑料にするには十分だろう」
「分かった。それで手を打とう。どのくらい人手が欲しい?」
「敵の規模は不明だが、合衆国全域に魔手を伸ばす輩だ。その本拠地となれば、100人や200人は固まっていてもおかしくあるまい。その倍は用意してもらいたい」
これを聞いて、ジョン司令は苦笑いする。
「ってことは400以上か? 基地にいるヤツ、ほぼほぼかき集めなきゃならんな。分かったよ、明日の昼までには揃えられるだろうから、それまで町で待っててくれ」
「500人だ。今晩中に頼む」
「……あんたなぁ。何で毎度毎度、無茶な注文ばっかり付けて来るんだ?」
ことさら苦々しい表情を浮かべたジョン司令に、局長は涼しげな顔で答えた。
「危機は突然やって来るものだ。即応してこその軍隊だろう?」
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出動要請。
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1週間の期限付きで西部全域の電信電話網が封鎖されてから6日後――パディントン探偵局一行は、どうにかC州に到着することができた。組織が本拠地を特定されたこと、そしてこの封鎖作戦自体に勘付くかどうかが最大の懸念であったが、この6日間で襲撃されることも無く、また、尾行者らしい影も無かったことから、その懸念が杞憂であったことは確かとなった。
「どうにか日が暮れるまでには、目的地に到着できそうだ」
「うむ」
リロイ副局長にうなずきつつ、局長はこう返してくる。
「太平洋のおかげで、日が沈み切るまでにはたっぷり時間があるからね」
「そうかも知れないね」
どことなく呆れ気味に答えながら、リロイは不安げな顔を見せる。
「あんまり呑気そうにしてるから改めて確認させてもらうけど、本当に頼っていいのかい?」
「任せたまえ。彼と私とは旧知の仲だ」
「いつもの、か」
「そうとも」
局長はニヤッと笑い、得意げに胸を反らした。
「こんな時のために築いてきた人脈だ。今こそ役立ってもらわないと困る」
C州の港町、ケープビーチに到着してすぐ、局長とリロイはこの町の州軍基地を訪ねた。
「久しぶりだな、ジェフ。いつも唐突にやって来るな、あんたは」
出迎えた基地司令に、局長は握手して応じる。
「ちょっと用事があってね。ジョン、君は変わりないかな?」
「そりゃ、俺の姿を見て言ってるのか?」
相手は出っ張った腹をぽこんと叩き、笑って返す。
「この通り、前に会った時から30ポンドは太っちまったよ」
「前に会ったのはちょうど、10年前だったな。私はこの通りだ。若干シワが増えた」
「白髪もな。相当忙しくやってるみたいだな」
「うむ。今回も仕事でね」
局長がそう告げた途端、ジョン司令は真面目な顔になった。
「あんたのことだから、厄介なヤツだな?」
「そうだ。大きな組織を追っていてね、その本拠地がつかめそうなんだ。逃がすととても厄介なことになりそうだからね、人数がほしいんだ」
「ふーむ……。そう言われても『よし分かった』とは、俺が言えんことは分かるだろう、ジェフ?」
「見返りはあるとも。犯罪組織が相手だ、全員拿捕できれば合衆国の安全と平和に、大いに貢献できる。事実、その組織は合衆国のあちこちで犯罪行為を繰り返しているし、構成員や幹部の中には懸賞金が出ている者も多数ある。それに……」
局長はポートショアで手に入れたDC襲撃計画書を、ジョン司令に差し出した。
「これは私の目からは途方も無い計画のように思えるが、海のプロであるジョン・ダブリン大佐はどう捉えるかな?」
「ふーむ、……パナマに運河か。いや、しかし俺としては、そう荒唐無稽とも思えん」
「ほう」
「実際、やろうって話自体は昔からある。人とカネが集まらんから無理って言われてるけどな。だから本気で集めようってヤツがいたら、実現の可能性はある。実現すれば恐らく、大陸横断鉄道なんか目じゃないってくらいの恩恵があるだろうな」
「確かに。このルートがもし本当に実現すれば、東部から西部までの海路は大幅に短縮できるだろう。そしてその輸送能力が大幅に向上することも、間違い無い。だが組織はその輸送能力を、合衆国攻撃のために使おうとしている。それを見過ごすことはできん」
「確かにこんな大それたことをやってのけようってヤツらを捕まえられれば、俺も勲章モノだな。だが失敗した場合はどうする? あんたがつかんだ本拠地とやらの情報がガセだって可能性は? あんたとは昔からの友人だが、だからって一個人、一民間人の要請だ。それを基地司令が真に受けて大軍動かして、その結果ネズミ一匹捕まりませんでしたじゃ、笑って済まされんぞ」
「詳しい話は省くが、信憑性は高い。私は間違い無くそこに、敵の首領がいると確信している。私の全財産を賭けてもいい」
これを受けて、ジョン司令は肩をすくめた。
「もし失敗したら、その全財産で補填ってことか」
「そう言うことだ。こちらも詳しい額は明かせんが、少なくとも州軍への迷惑料にするには十分だろう」
「分かった。それで手を打とう。どのくらい人手が欲しい?」
「敵の規模は不明だが、合衆国全域に魔手を伸ばす輩だ。その本拠地となれば、100人や200人は固まっていてもおかしくあるまい。その倍は用意してもらいたい」
これを聞いて、ジョン司令は苦笑いする。
「ってことは400以上か? 基地にいるヤツ、ほぼほぼかき集めなきゃならんな。分かったよ、明日の昼までには揃えられるだろうから、それまで町で待っててくれ」
「500人だ。今晩中に頼む」
「……あんたなぁ。何で毎度毎度、無茶な注文ばっかり付けて来るんだ?」
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