DETECTIVE WESTERN
DETECTIVE WESTERN 14 ~ 西の果て、遠い夜明け ~ 5
ウエスタン小説、第5話。
港にて。
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5.
時刻はまもなく朝の6時になろうとしていたが、まだ、東の稜線に光は差していない。その寂れた港はまだ暗く、人の姿は無い。と――沖の方から一隻の船が、ポン、ポンと排気音を上げながら近付いて来た。
「着きました」
まもなく船は桟橋に着き、小山のような男が一人、どすんと降り立った。
「お手をどうぞ、閣下」
「うむ」
続いて下卑た顔の老人が、男に手を引かれて船を降りる。
「トリスタン、追手の姿は……?」
「一隻もありません。ご安心を」
「そうか」
老人は持っていた杖をとん、とんと突き、周囲を探る様子を見せる。
「岸はどっちだ?」
「こちらです」
「暗くて敵わん。夜明けはまだなのか?」
「じきに差すかと」
「そうか」
と、船からさらに二人、姿を現す。
「お腹空いたねぇ。早いとこ朝飯にしようよ、兄さん」
「ここから程近いところに町があります。少しばかり大目に出せば、早朝でも作ってくれるでしょうな」
「うむ。よろしく頼むぞ、リゴーニ」
老人に杖でトン、と肩を叩かれ、リゴーニと呼ばれたそのでっぷり太った男は、ニコニコしながらうなずく。
「ええ、お任せを」
「……しかし」
老人は元からしわだらけだった顔をさらにくしゃくしゃと歪ませ、吐き捨てるようにつぶやいた。
「本国での工作がもう少しでまとまろうかと言う時に、いらぬ邪魔が入ったものだ。おかげで『ミストラル号』も中途半端なまま、放棄せねばならなくなった!」
「あの戦艦ですか。本当に惜しいものです」
トリスタンがうなずいて見せ、老人も憮然とした顔のまま、うんうんとうなずき返す。
「26万ドルもかけた大傑作だったのだ。完成していればそれはもう、威風堂々たる……」
「まあ、まあ、閣下。もう一度作ればよろしい。それだけのことです」
リゴーニに諭され、老人はフン、と鼻を鳴らした。
「お前がそう言うのであれば、溜飲を下げておくとしよう。組織も改めて構築せねばならぬし、資金については引き続き、よろしく頼むぞ」
「ええ、ええ」
3人の手を借り、老人はよたよたとした仕草ながらも、桟橋を渡り切った。
「はぁ、はぁ……それで、トリスタンよ。ここから先の『足』は……」
「調達して参ります。しばしお待ちを」
老人を係船柱に座らせ、トリスタンが町の方を向いた、その時――暗い港にパン、と音が響き渡った。
「あへっ……?」
リゴーニが胸を押さえてごろんと転がり、そのまま海に落ちる。
「……!?」
町に向かいかけていたトリスタンが目をむき、あのMAS1873カスタム――自動拳銃を腰から抜いた。
「誰だあッ!」
「やっぱりここに来ると思ったわ」
乱雑に積まれた木箱の陰から、何者かが拳銃を片手に現れた。
「だって『ニューマルセイル(New Marseille)』ですものね、町の名前。あんたがフランスで拠点にしてた町と同じ名前だったわよね、確か」
「……」
係船柱に座ったままの老人――大閣下、ジャン=ジャック・ノワール・シャタリーヌは顔を挙げ、ぼんやりとした目で彼女を見つめていた。
「……誰だ?」
「忘れたって言うの? あんた、とことんボケが来たみたいね」
現れた女性は、大閣下に拳銃を向けた。
「あたしはエミル。エミル・ミヌー、……いいえ、エミル・トリーシャ・シャタリーヌ。あんたの孫娘よ」
「……トリーシャ……?」
大閣下は目をしょぼしょぼと瞬かせ、首をかしげた。
「……お前が……?」
「そうよ」
「違う」
大閣下はかっと目を見開き、声を荒げた。
「お前がトリーシャ!? どこがだッ! 似ても似つかぬわッ!
おい、トリスタン! 何をぼんやりしておるかッ!? さっさとその女を片付けろッ!」
「し、しかし、閣下?」
戸惑うトリスタンを、閣下が怒鳴り付ける。
「お前の目は節穴か!? あの女がトリーシャに見えると言うのか、この馬鹿者ッ!」
「……閣下が、そう申されるのであれば」
トリスタンはまだ迷った様子を見せながらも、エミルに拳銃を向けた。
「お、おい、エミル!」
と、エミルの背後からアデルと、ロバートが現れる。
「やる気か?」
「やらなきゃいけないでしょ? 下がってなさいよ」
「いや」
と、彼女の頭上から声が降ってくる。
「マドモアゼルを危険にさらすわけには参りません。それにこれは」
続いて白い塊が、彼女の前に降り立った。
「わたくしの宿命でもあります。どうかわたくしに彼奴と戦う機会をお与え下さい、マドモアゼル」
「イクトミ? あんた、……どうしてここに?」
エミルに尋ねられ、イクトミは背を向けたまま答えた。
「今申し上げた通りです。トリスタンは我が宿敵。倒さねば永遠に、わたくしに安息を得る機会は訪れますまい」
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港にて。
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5.
時刻はまもなく朝の6時になろうとしていたが、まだ、東の稜線に光は差していない。その寂れた港はまだ暗く、人の姿は無い。と――沖の方から一隻の船が、ポン、ポンと排気音を上げながら近付いて来た。
「着きました」
まもなく船は桟橋に着き、小山のような男が一人、どすんと降り立った。
「お手をどうぞ、閣下」
「うむ」
続いて下卑た顔の老人が、男に手を引かれて船を降りる。
「トリスタン、追手の姿は……?」
「一隻もありません。ご安心を」
「そうか」
老人は持っていた杖をとん、とんと突き、周囲を探る様子を見せる。
「岸はどっちだ?」
「こちらです」
「暗くて敵わん。夜明けはまだなのか?」
「じきに差すかと」
「そうか」
と、船からさらに二人、姿を現す。
「お腹空いたねぇ。早いとこ朝飯にしようよ、兄さん」
「ここから程近いところに町があります。少しばかり大目に出せば、早朝でも作ってくれるでしょうな」
「うむ。よろしく頼むぞ、リゴーニ」
老人に杖でトン、と肩を叩かれ、リゴーニと呼ばれたそのでっぷり太った男は、ニコニコしながらうなずく。
「ええ、お任せを」
「……しかし」
老人は元からしわだらけだった顔をさらにくしゃくしゃと歪ませ、吐き捨てるようにつぶやいた。
「本国での工作がもう少しでまとまろうかと言う時に、いらぬ邪魔が入ったものだ。おかげで『ミストラル号』も中途半端なまま、放棄せねばならなくなった!」
「あの戦艦ですか。本当に惜しいものです」
トリスタンがうなずいて見せ、老人も憮然とした顔のまま、うんうんとうなずき返す。
「26万ドルもかけた大傑作だったのだ。完成していればそれはもう、威風堂々たる……」
「まあ、まあ、閣下。もう一度作ればよろしい。それだけのことです」
リゴーニに諭され、老人はフン、と鼻を鳴らした。
「お前がそう言うのであれば、溜飲を下げておくとしよう。組織も改めて構築せねばならぬし、資金については引き続き、よろしく頼むぞ」
「ええ、ええ」
3人の手を借り、老人はよたよたとした仕草ながらも、桟橋を渡り切った。
「はぁ、はぁ……それで、トリスタンよ。ここから先の『足』は……」
「調達して参ります。しばしお待ちを」
老人を係船柱に座らせ、トリスタンが町の方を向いた、その時――暗い港にパン、と音が響き渡った。
「あへっ……?」
リゴーニが胸を押さえてごろんと転がり、そのまま海に落ちる。
「……!?」
町に向かいかけていたトリスタンが目をむき、あのMAS1873カスタム――自動拳銃を腰から抜いた。
「誰だあッ!」
「やっぱりここに来ると思ったわ」
乱雑に積まれた木箱の陰から、何者かが拳銃を片手に現れた。
「だって『ニューマルセイル(New Marseille)』ですものね、町の名前。あんたがフランスで拠点にしてた町と同じ名前だったわよね、確か」
「……」
係船柱に座ったままの老人――大閣下、ジャン=ジャック・ノワール・シャタリーヌは顔を挙げ、ぼんやりとした目で彼女を見つめていた。
「……誰だ?」
「忘れたって言うの? あんた、とことんボケが来たみたいね」
現れた女性は、大閣下に拳銃を向けた。
「あたしはエミル。エミル・ミヌー、……いいえ、エミル・トリーシャ・シャタリーヌ。あんたの孫娘よ」
「……トリーシャ……?」
大閣下は目をしょぼしょぼと瞬かせ、首をかしげた。
「……お前が……?」
「そうよ」
「違う」
大閣下はかっと目を見開き、声を荒げた。
「お前がトリーシャ!? どこがだッ! 似ても似つかぬわッ!
おい、トリスタン! 何をぼんやりしておるかッ!? さっさとその女を片付けろッ!」
「し、しかし、閣下?」
戸惑うトリスタンを、閣下が怒鳴り付ける。
「お前の目は節穴か!? あの女がトリーシャに見えると言うのか、この馬鹿者ッ!」
「……閣下が、そう申されるのであれば」
トリスタンはまだ迷った様子を見せながらも、エミルに拳銃を向けた。
「お、おい、エミル!」
と、エミルの背後からアデルと、ロバートが現れる。
「やる気か?」
「やらなきゃいけないでしょ? 下がってなさいよ」
「いや」
と、彼女の頭上から声が降ってくる。
「マドモアゼルを危険にさらすわけには参りません。それにこれは」
続いて白い塊が、彼女の前に降り立った。
「わたくしの宿命でもあります。どうかわたくしに彼奴と戦う機会をお与え下さい、マドモアゼル」
「イクトミ? あんた、……どうしてここに?」
エミルに尋ねられ、イクトミは背を向けたまま答えた。
「今申し上げた通りです。トリスタンは我が宿敵。倒さねば永遠に、わたくしに安息を得る機会は訪れますまい」
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