DETECTIVE WESTERN
DETECTIVE WESTERN 14 ~ 西の果て、遠い夜明け ~ 7
ウエスタン小説、第7話。
命運分けたスタイル。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
7.
「なっ……」
思わず、アデルは木箱の陰から飛び出していた。
「おい! イクトミ、……おい!」
どう声をかけていいのか分からず、アデルは名前を呼ぶに留まる。と、ひざ立ちになっていたトリスタンが、足に絡みついていたホルスターをむしり取って投げ捨て、のそっと立ち上がった。
「次は貴様が相手か?」
アデルとトリスタンの目線が合う。その時になってようやく、アデルは自分が無防備に突っ立っていることに気付いた。
「あ……わっ」
慌てて小銃を構え、引き金を引いたが、トリスタンは「ぬっ」とうめくだけで、当たった様子は無い。
「く……来るな、来るなっ!」
何度も撃ち込むが、完全に臆したアデルは狙いを定められず、トリスタンを仕留めることができない。やがて装填されていた弾を撃ち尽くし、レバーはがちゃ、がちゃと空回りする。
「あ……あ、あっ」
「死ね」
トリスタンはアデルの眉間に狙いを定め、自動拳銃を構えた。
しかしトリスタン・アルジャンの命運は、この時点で既に尽きていたようだった。
まず、彼はリボルバーと同じ要領、すなわち腰だめに構える形で、自動拳銃を撃っていた。だが自動拳銃は――少なくとも、我々の時代における基本設計として――弾丸発射時に生じる反動を薬莢の排出と次弾装填に使う構造になっている。彼の弟がこしらえたこの拳銃も同様の構想で設計されており、リボルバーのように反動をひじで逃がす撃ち方をすれば、その機構は十分に働かなくなる。
そしてその弟、稀代のガンスミスであるディミトリ・アルジャンといえども、これまでに前例の無い、全く新しいタイプの拳銃を造るに当たっては、不測の要素が多すぎたらしい。どれだけ弾を撃てば、どこの部品が摩耗・疲労を起こすか。それを正確に読み当てるには、流石の彼でも経験が足りなかったのだ。彼が想定していたより早く内部の部品が破損しており――そして前述のガンファイト・スタイルによって生じた動作不良も相まって――この時、空薬莢が遊底部と排莢口の間で引っかかってしまっていた。
さらに3つ目の不運は、眉間に狙いを定めて撃ったはずの宿敵イクトミが、頭に銃弾を受けていながら、死んではいなかったことだった。前述の通り、既に自動拳銃は破綻をきたしており、発射された11ミリMAS弾は本来の威力と弾道を発揮しなかったのだ。そのため弾は彼の眉間ではなくこめかみをかする程度に反れ、イクトミに軽い脳震盪(のうしんとう)を起こさせはしたものの、致命傷を与えてはいなかったのである。
トリスタンが悠然とアデルに銃口を向け、引金を絞った瞬間――まだ薄明の中であり、己の得物や敵の状況を把握できなかったことも重なって――それらの不幸は一挙に、彼へと襲い掛かった。
「……うっ!?」
万力のごとき彼の握力を以てしても引金が引けず、自動拳銃はただの長細い鉄塊と化して沈黙している。
「ばかなっ……」
トリスタンの目線が正面のアデルでも、死んだと見なしたイクトミでもなく、己が握る拳銃に向けられた、その瞬間――イクトミが飛び起き、宿敵に向かって弾を撃ち込んだ。
「びちゃ……っ」
放たれた弾は左胸でも頭部でもなく、彼ののどを、咽頭から右あごへと貫通した。途端にトリスタンの口から言葉ではなく、真っ赤な血が吐き出される。
「ごぼ……びちゃびちゃ……ごぼぼぼっ……」
トリスタンは自慢の自動拳銃も投げ捨て、両手で自分ののどを押さえる。だが血は滝のように彼の口とのどから噴き出し続け、やがて彼はどさっと重たげな音を立て、前のめりに倒れた。
「……ごぽ……っ……」
おびただしい血を流した末、ついに怪人トリスタンは討ち取られた。
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「なっ……」
思わず、アデルは木箱の陰から飛び出していた。
「おい! イクトミ、……おい!」
どう声をかけていいのか分からず、アデルは名前を呼ぶに留まる。と、ひざ立ちになっていたトリスタンが、足に絡みついていたホルスターをむしり取って投げ捨て、のそっと立ち上がった。
「次は貴様が相手か?」
アデルとトリスタンの目線が合う。その時になってようやく、アデルは自分が無防備に突っ立っていることに気付いた。
「あ……わっ」
慌てて小銃を構え、引き金を引いたが、トリスタンは「ぬっ」とうめくだけで、当たった様子は無い。
「く……来るな、来るなっ!」
何度も撃ち込むが、完全に臆したアデルは狙いを定められず、トリスタンを仕留めることができない。やがて装填されていた弾を撃ち尽くし、レバーはがちゃ、がちゃと空回りする。
「あ……あ、あっ」
「死ね」
トリスタンはアデルの眉間に狙いを定め、自動拳銃を構えた。
しかしトリスタン・アルジャンの命運は、この時点で既に尽きていたようだった。
まず、彼はリボルバーと同じ要領、すなわち腰だめに構える形で、自動拳銃を撃っていた。だが自動拳銃は――少なくとも、我々の時代における基本設計として――弾丸発射時に生じる反動を薬莢の排出と次弾装填に使う構造になっている。彼の弟がこしらえたこの拳銃も同様の構想で設計されており、リボルバーのように反動をひじで逃がす撃ち方をすれば、その機構は十分に働かなくなる。
そしてその弟、稀代のガンスミスであるディミトリ・アルジャンといえども、これまでに前例の無い、全く新しいタイプの拳銃を造るに当たっては、不測の要素が多すぎたらしい。どれだけ弾を撃てば、どこの部品が摩耗・疲労を起こすか。それを正確に読み当てるには、流石の彼でも経験が足りなかったのだ。彼が想定していたより早く内部の部品が破損しており――そして前述のガンファイト・スタイルによって生じた動作不良も相まって――この時、空薬莢が遊底部と排莢口の間で引っかかってしまっていた。
さらに3つ目の不運は、眉間に狙いを定めて撃ったはずの宿敵イクトミが、頭に銃弾を受けていながら、死んではいなかったことだった。前述の通り、既に自動拳銃は破綻をきたしており、発射された11ミリMAS弾は本来の威力と弾道を発揮しなかったのだ。そのため弾は彼の眉間ではなくこめかみをかする程度に反れ、イクトミに軽い脳震盪(のうしんとう)を起こさせはしたものの、致命傷を与えてはいなかったのである。
トリスタンが悠然とアデルに銃口を向け、引金を絞った瞬間――まだ薄明の中であり、己の得物や敵の状況を把握できなかったことも重なって――それらの不幸は一挙に、彼へと襲い掛かった。
「……うっ!?」
万力のごとき彼の握力を以てしても引金が引けず、自動拳銃はただの長細い鉄塊と化して沈黙している。
「ばかなっ……」
トリスタンの目線が正面のアデルでも、死んだと見なしたイクトミでもなく、己が握る拳銃に向けられた、その瞬間――イクトミが飛び起き、宿敵に向かって弾を撃ち込んだ。
「びちゃ……っ」
放たれた弾は左胸でも頭部でもなく、彼ののどを、咽頭から右あごへと貫通した。途端にトリスタンの口から言葉ではなく、真っ赤な血が吐き出される。
「ごぼ……びちゃびちゃ……ごぼぼぼっ……」
トリスタンは自慢の自動拳銃も投げ捨て、両手で自分ののどを押さえる。だが血は滝のように彼の口とのどから噴き出し続け、やがて彼はどさっと重たげな音を立て、前のめりに倒れた。
「……ごぽ……っ……」
おびただしい血を流した末、ついに怪人トリスタンは討ち取られた。
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