DETECTIVE WESTERN
DETECTIVE WESTERN 14 ~ 西の果て、遠い夜明け ~ 8
ウエスタン小説、第8話。
チェックメイト。
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8.
「ふうっ……はあっ……や……やった……!」
トリスタンが倒れたのを見届けたところで、イクトミはまだ銃口から硝煙をくゆらせるSAAを胸に抱き、ふたたび仰向けになった。
「やったぞ……僕は……つ、つい……に……」
声が聞こえなくなり、すっかり呆けていたアデルは我に返る。
「……あ、……っと! イクトミ! おい、大丈夫かよ!?」
アデルに続き、エミルとロバート、そしてアーサー老人も物陰から飛び出し、揃ってイクトミの容態を確かめる。
「……ふむ。息はある。脈も正常のようだ。どうやら気を失ったらしいな。さっきこめかみをかすめていた弾丸が、よほど痛かったらしい」
アーサー老人の診断に、一同は胸をなでおろす。そして最も安堵していたのは、どうやらアデルらしかった。
「何だよまったく……へへ……心配かけさせやがってよ」
「あんた、……そんなに心配してたの?」
エミルがけげんな顔を自分に向けているのに気付き、アデルは何故だかごまかそうとする。
「あ、いや、ほら、アレだよ。こんな時に死んじまったら、バカみたいだろって」
「何て言うか」
二人のやり取りを見ていたロバートが、呆れた声を漏らす。
「兄貴って本っ当、マジのお人好しっスよね」
「……ちくしょう、否定できねえな、はははっ」
アデルは笑い飛ばし、肩をすくめかけたその時――ぼおー……、と汽笛の鳴る音が港に響き、一同は血相を変えた。
「しまった!」
気絶したままのイクトミから離れ、慌てて桟橋へと駆け出す。だが、既に船は桟橋から10ヤードは離れており、飛び移れる距離ではない。
「このッ!」
エミルは拳銃を抜き、船に向かって発砲する。だが、人間相手ならば十分すぎる威力を持つ拳銃も、流石に船が相手では効果が無く、ほとんど無傷のままだった。
「待ちなさいよ、この、このっ……くそッ……!」
6発全弾を撃ち尽くし、エミルは大急ぎで装填する。その間に、大閣下がディミトリに手を引かれつつ、甲板に現れた。
「この恨みは忘れんぞ、貴様ら! わしは必ずや、必ずやもう一度組織を蘇らせ、今度こそ貴様ら全員を地獄へ叩き落としてくれるわッ! その時が来るのを、存分に恐れておるがよい! さらばだ!」
「Marde(クソがッ)!」
エミルは怒りをあらわにし、もう一度全弾発射する。だが船はやがて拳銃の有効射程からも離れ、エミルたちに船尾を向け始めた。
その時だった。
「全員しゃがんで。耳もふさいでちょうだい」
桟橋に、一人の女が現れた。
「……え?」
その女の顔を見た瞬間、そこにいた全員が凍り付いた。

「あんた……あんた、誰!?」
エミルがこめかみを押さえつつ、辛うじて声を上げたが、女は先程と同じ言葉を繰り返す。
「いいから。しゃがんで耳押さえてて」
「……っ」
ともかく言われた通りに、全員が耳を押さえて姿勢を低くする。と同時に、女はトリスタンが投げ捨てていたホルスターから、あのホットロード化されたリボルバーを取り出した。
「Oh, c'est un très grand garçon(あら、わんぱく坊主ね)」
女は両手で拳銃を構え、ドゴン、と途方も無い音を立てて弾を放った。次の瞬間――。
「……うおおおっ……」
既に30ヤード以上は離れていた船から、大閣下のものらしき悲鳴が届く。エミルたちがそちらを向くと、甲板上に露出していたエンジンが真っ赤に光っているのが見えた。
「Encore(もう一発)」
ふたたび女は、拳銃を撃つ。この2発目でエンジンは爆発し、人影が一つ、炎に包まれながら宙へ飛んで行った。
「ぎゃああああー……」
今度の叫び声には張りがあり、どうやらそれはディミトリのようだった。と、まだ甲板にしがみついていた大閣下が、しわがれた声で叫ぶ。
「Trichat! Trichat! C'est toi! Trichaaaaaat!(貴様だな、トリーシャあああああッ!)」
「Bonne réponse(ご名答)」
彼女はさらにもう1発、発砲する。既に黒煙と炎に包まれ、船の様子はほとんど分からなかったが、それでも大閣下がいた場所から血しぶきが上がったのが、わずかながら確認できた。
「Bon voyage en enfer, Grand-Excellence(地獄までの良い旅を、大閣下)」
女は拳銃にキスし、それをぽい、と海に投げ捨てた。
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「ふうっ……はあっ……や……やった……!」
トリスタンが倒れたのを見届けたところで、イクトミはまだ銃口から硝煙をくゆらせるSAAを胸に抱き、ふたたび仰向けになった。
「やったぞ……僕は……つ、つい……に……」
声が聞こえなくなり、すっかり呆けていたアデルは我に返る。
「……あ、……っと! イクトミ! おい、大丈夫かよ!?」
アデルに続き、エミルとロバート、そしてアーサー老人も物陰から飛び出し、揃ってイクトミの容態を確かめる。
「……ふむ。息はある。脈も正常のようだ。どうやら気を失ったらしいな。さっきこめかみをかすめていた弾丸が、よほど痛かったらしい」
アーサー老人の診断に、一同は胸をなでおろす。そして最も安堵していたのは、どうやらアデルらしかった。
「何だよまったく……へへ……心配かけさせやがってよ」
「あんた、……そんなに心配してたの?」
エミルがけげんな顔を自分に向けているのに気付き、アデルは何故だかごまかそうとする。
「あ、いや、ほら、アレだよ。こんな時に死んじまったら、バカみたいだろって」
「何て言うか」
二人のやり取りを見ていたロバートが、呆れた声を漏らす。
「兄貴って本っ当、マジのお人好しっスよね」
「……ちくしょう、否定できねえな、はははっ」
アデルは笑い飛ばし、肩をすくめかけたその時――ぼおー……、と汽笛の鳴る音が港に響き、一同は血相を変えた。
「しまった!」
気絶したままのイクトミから離れ、慌てて桟橋へと駆け出す。だが、既に船は桟橋から10ヤードは離れており、飛び移れる距離ではない。
「このッ!」
エミルは拳銃を抜き、船に向かって発砲する。だが、人間相手ならば十分すぎる威力を持つ拳銃も、流石に船が相手では効果が無く、ほとんど無傷のままだった。
「待ちなさいよ、この、このっ……くそッ……!」
6発全弾を撃ち尽くし、エミルは大急ぎで装填する。その間に、大閣下がディミトリに手を引かれつつ、甲板に現れた。
「この恨みは忘れんぞ、貴様ら! わしは必ずや、必ずやもう一度組織を蘇らせ、今度こそ貴様ら全員を地獄へ叩き落としてくれるわッ! その時が来るのを、存分に恐れておるがよい! さらばだ!」
「Marde(クソがッ)!」
エミルは怒りをあらわにし、もう一度全弾発射する。だが船はやがて拳銃の有効射程からも離れ、エミルたちに船尾を向け始めた。
その時だった。
「全員しゃがんで。耳もふさいでちょうだい」
桟橋に、一人の女が現れた。
「……え?」
その女の顔を見た瞬間、そこにいた全員が凍り付いた。

「あんた……あんた、誰!?」
エミルがこめかみを押さえつつ、辛うじて声を上げたが、女は先程と同じ言葉を繰り返す。
「いいから。しゃがんで耳押さえてて」
「……っ」
ともかく言われた通りに、全員が耳を押さえて姿勢を低くする。と同時に、女はトリスタンが投げ捨てていたホルスターから、あのホットロード化されたリボルバーを取り出した。
「Oh, c'est un très grand garçon(あら、わんぱく坊主ね)」
女は両手で拳銃を構え、ドゴン、と途方も無い音を立てて弾を放った。次の瞬間――。
「……うおおおっ……」
既に30ヤード以上は離れていた船から、大閣下のものらしき悲鳴が届く。エミルたちがそちらを向くと、甲板上に露出していたエンジンが真っ赤に光っているのが見えた。
「Encore(もう一発)」
ふたたび女は、拳銃を撃つ。この2発目でエンジンは爆発し、人影が一つ、炎に包まれながら宙へ飛んで行った。
「ぎゃああああー……」
今度の叫び声には張りがあり、どうやらそれはディミトリのようだった。と、まだ甲板にしがみついていた大閣下が、しわがれた声で叫ぶ。
「Trichat! Trichat! C'est toi! Trichaaaaaat!(貴様だな、トリーシャあああああッ!)」
「Bonne réponse(ご名答)」
彼女はさらにもう1発、発砲する。既に黒煙と炎に包まれ、船の様子はほとんど分からなかったが、それでも大閣下がいた場所から血しぶきが上がったのが、わずかながら確認できた。
「Bon voyage en enfer, Grand-Excellence(地獄までの良い旅を、大閣下)」
女は拳銃にキスし、それをぽい、と海に投げ捨てた。
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ブログ「妄想の荒野」の矢端想さんに挿絵を描いていただきました。
ありがとうございます!
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