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    DETECTIVE WESTERN

    DETECTIVE WESTERN 14 ~ 西の果て、遠い夜明け ~ 10

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    ウエスタン小説、第10話。
    半死人の証言。

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    10.
     と、ベッドの上の包帯男が、「うぐ……」とうなる。
    「あら?」
     エミルが目を向けたところで、ディミトリが息も絶え絶えと言った様子で口を開けた。
    「こ……ここ……は?」
    「ニューマルセイルのサルーン。まだこの世よ」
    「……ぼ……くは……」
    「あんたはディミトリ・アルジャン。ついさっきまでクソ組織の幹部サマだったけど、今は棺桶に片足突っ込んでるところよ」
    「そ……組織……閣下……うう……」
    「ディミトリ君」
     様子を眺めていたアーサー老人が声をかける。
    「いくつか質問させてもらう。君たちはどうやって、州軍の強襲を察知したのだ?」
    「……あ……うう……」
    「覚えていないかね? それとも答える気力が無いのか?」
     尋ね直したところで、ディミトリは切れ切れながらも答える。
    「閣下が……突然……兄貴と一緒に……すぐ島を出るぞと……僕にも……なんでか……良く……」
    「君はいつの間に船を出した?」
    「兄貴が……のど押さえた……ヤバいって思って……閣下を背負って……」
    「爆発の原因は?」
    「……エンジン……閣下は……ハイパワーって注文……でも出力がヤバすぎて……熱が……だから上……ラジエータ(放熱装置)……でも……桟橋から……撃たれ……ラジエータ……吹っ飛んで……すぐ真っ赤になって……また撃たれて……それで……うう……」
    「ふーむ……? 分かるかね、L?」
     尋ねられ、リロイはあごに手をやりながら推測する。
    「察するに――高出力のエンジンを大閣下に言われて作ってはみたものの、発生する熱量がすさまじすぎてあっと言う間に灼け付いちゃうから、そのままじゃ使えなかったんだろう。で、エンジン上部にラジエータを取り付けて放熱させることでどうにか使えるようにはしたけど、桟橋から誰かがそのラジエータを撃って破壊。途端に放熱できなくなったエンジンが灼け出し、真っ赤になって爆発寸前になったところに、とどめの一発を受けてついに爆発した、……と言ったところかな」
    「なるほど、理解できた。体は動かせるかね?」
    「……痛い……熱い……し……死ぬのか……僕は……?」
    「それは君の頑張り次第だ」
     アーサー老人はディミトリに背を向け、リロイに手招きした。
    「彼に聞くことは、今はこの辺りで十分だろう。他の幹部は?」
    「何人か島にいたよ。根こそぎ捕まえて、只今絶賛尋問中さ」
    「それなら彼を何としてでも生かして、余罪を一つ残らず白状するまで追求するような必要も無さそうだな」
    「さっきも言ったけど、この容態じゃ今夜が峠ってとこだろうしね。エミルの言った通り、30分後だって怪しいくらいだ。温情を見せてやるとすれば、このまま見殺しの方がいいかもってくらいだろう」
    「賛否が分かれるところだな。……さて」
     アーサー老人はエミルに顔を向け、彼女にも手招きした。
    「君も『あの件』を詳しく話さねばならんだろう」
    「……そうね。さっきから一人で考え込んでたけど、あたし一人の頭で推理するにはわけが分からなさすぎるもの」
    「そんなに奇妙なことが起きたって言うの?」
     けげんな顔をするリロイに、アーサー老人とエミル、そして部屋の隅で黙々と銃の手入れをしていたロバートまでもが、同時にうなずいた。
    「そりゃもう、奇妙どころの話じゃないわよ」
    「一体、何があったのさ? 君がそんなことを言うなんて」
     尋ねたリロイに、エミルはしばらく悩む仕草を見せた後、言葉を選ぶように話し始めた。
    「そうね、まず何から言ったらいいかしら。……率直に、目の前にあった事実を挙げてくとするなら――大閣下を逃したと思って、絶望しかけたあたしたちのところに」
     そこで言葉を切り、エミルは困った表情を浮かべながら、こう続けた。
    「あたしがいたのよ。あたしたちの、目の前に」
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