DETECTIVE WESTERN
DETECTIVE WESTERN 14 ~ 西の果て、遠い夜明け ~ 13
ウエスタン小説、第13話。
にぎやかで穏やかな西部町。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
13.
「ピクニックに行く程度のつもりだったけど、……そんな雰囲気じゃ無いわね」
エミルは駅を出るなり、こんなことを言い出した。
「副局長は田舎だろうって言ってたわよね」
「だな」
「ここが田舎だって言うなら、マンハッタン島は人口過密で沈没するわよ」
「っスね」
その町は東部沿岸と遜色無いくらいに、人と馬でにぎわっていたからだ。
「件のミズ・キャリコは相当のやり手のようだね。私も当初、大草原の小さな家と言うような、のどかな風景を想像していたのだが、これはあまりにも予想外だったよ。道理でチケット代が妙に高かったわけだ」
局長も面食らった様子で、往来を見渡していた。と、往来の向こうからこちらへ向かって来た者に目を留め、手を挙げる。
「やあ、A」
「来たな、諸君」
アーサー老人は駅の時計に目をやり、満足げにうなずく。
「定刻通りの到着だな。この町は近隣路線で、一番の稼ぎ頭のようだからな。西部有数の正確さだ」
「鉄道会社の元社長らしい意見だね。だが今は、探偵局の手先としての意見を伺いたいところだ」
「うむ。2日前に到着し、諸君が来るまでの間に町の調査を行っていた。
結論から言えば、ここは裏も後ろ暗いところも無い、極めてクリーンな町だ。どうやら町の名士、ミズ・キャリコがにらみを利かしているらしい。乱暴狼藉を働くような輩は即刻ムチ打ちにされると言う話だし、説得力も十分なようだ。この2日間に何度か、すねに傷のありそうな者を何人か見たことがあったが、彼らもそのうわさを聞いていたのだろう、実に大人しくしていたよ」
「珍しいな。西部の町が、それほどまでに平和をたたえているとは。ふーむ……」
局長は町の奥にうっすら見えている農場に目をやり、それからエミルに顔を向けた。
「エミル、君は顔を隠しておいた方がいいだろう。相当似ていると言うなら、声をかけられるかも知れん。妙な受け答えをして変なうわさが立てば、彼女に迷惑がかかるだろうからな」
「そうね。あたしも会う前にひと悶着起きてムチ打ちなんて、ゴメンだし」
エミルは素直にバンダナを上げ、口元を覆った。
町の往来は活気にあふれ、とても明るかった。そして――少なくとも、アデルやエミルがこれまで見てきたどの西部町よりも――人々の顔は穏やかだった。また、確かに他の町であれば腰の拳銃や背負った小銃をチラつかせ、我が物顔で振る舞っているであろう風体の男たちも、ここでは大人しくポンチョやコートを着込み、武器の類を人目にさらさないよう配慮しているようだった。
「不思議な町だ」
その様子を眺めていた局長が、そんなことをつぶやく。
「活気に満ちている。だが、その割に平和だ。人が集まれば騒ぎが起こるものだが、ここにはそれが見当たらない。酒を呑んでいる者さえ、大人しく座っている」
「単に規律が厳しいだけなら、反発する。無法者ならなおさらだ。だが、そう見える輩でさえ、にこやかに振る舞っている。魔法か何かでも使えるのか、ミズ・キャリコは?」
首をひねるアーサー老人に、エミルがこう応じた。
「そんなんじゃないわよ、きっと。あなたも直に彼女に会ったんだから、分かってるんじゃない?」
「……そうだな。まだ、何となく、ではあるがな」
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にぎやかで穏やかな西部町。
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13.
「ピクニックに行く程度のつもりだったけど、……そんな雰囲気じゃ無いわね」
エミルは駅を出るなり、こんなことを言い出した。
「副局長は田舎だろうって言ってたわよね」
「だな」
「ここが田舎だって言うなら、マンハッタン島は人口過密で沈没するわよ」
「っスね」
その町は東部沿岸と遜色無いくらいに、人と馬でにぎわっていたからだ。
「件のミズ・キャリコは相当のやり手のようだね。私も当初、大草原の小さな家と言うような、のどかな風景を想像していたのだが、これはあまりにも予想外だったよ。道理でチケット代が妙に高かったわけだ」
局長も面食らった様子で、往来を見渡していた。と、往来の向こうからこちらへ向かって来た者に目を留め、手を挙げる。
「やあ、A」
「来たな、諸君」
アーサー老人は駅の時計に目をやり、満足げにうなずく。
「定刻通りの到着だな。この町は近隣路線で、一番の稼ぎ頭のようだからな。西部有数の正確さだ」
「鉄道会社の元社長らしい意見だね。だが今は、探偵局の手先としての意見を伺いたいところだ」
「うむ。2日前に到着し、諸君が来るまでの間に町の調査を行っていた。
結論から言えば、ここは裏も後ろ暗いところも無い、極めてクリーンな町だ。どうやら町の名士、ミズ・キャリコがにらみを利かしているらしい。乱暴狼藉を働くような輩は即刻ムチ打ちにされると言う話だし、説得力も十分なようだ。この2日間に何度か、すねに傷のありそうな者を何人か見たことがあったが、彼らもそのうわさを聞いていたのだろう、実に大人しくしていたよ」
「珍しいな。西部の町が、それほどまでに平和をたたえているとは。ふーむ……」
局長は町の奥にうっすら見えている農場に目をやり、それからエミルに顔を向けた。
「エミル、君は顔を隠しておいた方がいいだろう。相当似ていると言うなら、声をかけられるかも知れん。妙な受け答えをして変なうわさが立てば、彼女に迷惑がかかるだろうからな」
「そうね。あたしも会う前にひと悶着起きてムチ打ちなんて、ゴメンだし」
エミルは素直にバンダナを上げ、口元を覆った。
町の往来は活気にあふれ、とても明るかった。そして――少なくとも、アデルやエミルがこれまで見てきたどの西部町よりも――人々の顔は穏やかだった。また、確かに他の町であれば腰の拳銃や背負った小銃をチラつかせ、我が物顔で振る舞っているであろう風体の男たちも、ここでは大人しくポンチョやコートを着込み、武器の類を人目にさらさないよう配慮しているようだった。
「不思議な町だ」
その様子を眺めていた局長が、そんなことをつぶやく。
「活気に満ちている。だが、その割に平和だ。人が集まれば騒ぎが起こるものだが、ここにはそれが見当たらない。酒を呑んでいる者さえ、大人しく座っている」
「単に規律が厳しいだけなら、反発する。無法者ならなおさらだ。だが、そう見える輩でさえ、にこやかに振る舞っている。魔法か何かでも使えるのか、ミズ・キャリコは?」
首をひねるアーサー老人に、エミルがこう応じた。
「そんなんじゃないわよ、きっと。あなたも直に彼女に会ったんだから、分かってるんじゃない?」
「……そうだな。まだ、何となく、ではあるがな」
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