DETECTIVE WESTERN
DETECTIVE WESTERN 15 ~ 新世界の誘い ~ 1
ウエスタン小説、最終作。
闇の叡智、新大陸へ。
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1.
19世紀のヨーロッパ大陸は、ほとんど常にフランスの動向に左右されていたと言っても過言では無い。2度の帝政と王政の復古、そしてその合間、合間に立ち上がってくる共和制と、フランスと言う国家そのものが目まぐるしく形を変え、その度に、周辺国は翻弄され続けてきた。
そして当時既に60の大台を超えていたこの小男もまた、フランスに翻弄された者の一人と言えた。
「忌々しい……! まったくもって忌々しいわッ!」
遠ざかっていく自分の故郷をにらみつけながら、彼は船上で呪詛(じゅそ)を吐き散らしていた。
「なにがナポレオンだ! なにが新たな皇帝だ! 一枚皮を剥けば、そこいらの凡百と変わらぬ浪人風情ではないか! ほんのちょっと運が良かっただけの、ただのチンピラだ! なのに何故、彼奴などよりもっと才と実力を持つこの余が、割りを食わねばならぬと言うのだ!?」
「まあ、まあ、閣下。そのへんで……」
下卑た顔をくしゃくしゃに歪めつつ、わめき散らしていた老人――数日前までフランスの裏社会で名を馳せていた悪の首魁、「大閣下」ジャン=ジャック・ノワール・シャタリーヌの周りに、やはり品の無さげな男たちが集まって来る。
「確かに国を追われる形となってしまったのは残念でなりませんが、いい機会ととらえればよろしいではないですか」
「なんだと!?」
顔を真っ赤にして憤るJJに、カイゼルひげをたくわえた、恰幅のいい男がこう続ける。
「アメリカにはチャンスが山のようにあります。旧大陸はおろか、アフリカやアジアからもヒトとカネが集まる東部、そして黄金眠る西部! そのくせ結束力に乏しく、東部と西部では最早異国、異邦、いいえ、異世界と言っていいほど、国としてのまとまりはバラバラに等しい。当然、警察力などと言ったものは皆無。我々のような者が取り入り財と権力を成すには、絶好の土地ではないですか」
「しかしアルテュールよ……」
渋い顔をするJJに、身長2メートルはありそうな大男が、幼い子供を胸に抱きながら声をかける。
「閣下のことですから、祖国に馴染みのない土地は好まれないのではと察しております。ですがルイジアナは元々、我がフランスのものだったではないですか。少なからず我々に縁(ゆかり)ある土地と考えて、何の問題もございますまい」
「……ふーむ、ふむ」
途端に、JJの顔が嬉しそうににやける。
「なるほどジュリウス、お前の言う通りだ。そもそもそのルイジアナ自体、ナポレオンが相場に釣り合わぬ端金(はしたがね)で売り払ったのだ。そのナポレオンも祖国に背を向けられたことであるし、その三世だの何だのを名乗るあの醜男もまた、フランスを代表する権利なぞ無いクズだ。
よって結論として――ルイジアナ売却に正当性があるなど、正当なるフランス国民、旧大陸の闇の叡智と畏(おそ)れられたこの余は、断固として認めん。であればルイジアナは余がその手中に収めたとて、何の問題も無かろう。いいや、その買収も半世紀以上昔のこと。その半世紀分の利子を付けて、フランス国民の手に返してもらうべきだ」
「つまり閣下」
アルテュールはカイゼルひげを指先で撫で付けながら、JJにニヤニヤと笑みを向けた。
「奪(と)る気ですな、アメリカ全土を」
「うむ」
それまでの憮然とした態度を一転させ、JJは握っていた杖の先を西へ向けた。
「征くぞ、新大陸へ! 征くぞ、新世界へ! アメリカは余のものだ! ぐふっ、ぐふっ、ぐふふふふっ……!」
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闇の叡智、新大陸へ。
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19世紀のヨーロッパ大陸は、ほとんど常にフランスの動向に左右されていたと言っても過言では無い。2度の帝政と王政の復古、そしてその合間、合間に立ち上がってくる共和制と、フランスと言う国家そのものが目まぐるしく形を変え、その度に、周辺国は翻弄され続けてきた。
そして当時既に60の大台を超えていたこの小男もまた、フランスに翻弄された者の一人と言えた。
「忌々しい……! まったくもって忌々しいわッ!」
遠ざかっていく自分の故郷をにらみつけながら、彼は船上で呪詛(じゅそ)を吐き散らしていた。
「なにがナポレオンだ! なにが新たな皇帝だ! 一枚皮を剥けば、そこいらの凡百と変わらぬ浪人風情ではないか! ほんのちょっと運が良かっただけの、ただのチンピラだ! なのに何故、彼奴などよりもっと才と実力を持つこの余が、割りを食わねばならぬと言うのだ!?」
「まあ、まあ、閣下。そのへんで……」
下卑た顔をくしゃくしゃに歪めつつ、わめき散らしていた老人――数日前までフランスの裏社会で名を馳せていた悪の首魁、「大閣下」ジャン=ジャック・ノワール・シャタリーヌの周りに、やはり品の無さげな男たちが集まって来る。
「確かに国を追われる形となってしまったのは残念でなりませんが、いい機会ととらえればよろしいではないですか」
「なんだと!?」
顔を真っ赤にして憤るJJに、カイゼルひげをたくわえた、恰幅のいい男がこう続ける。
「アメリカにはチャンスが山のようにあります。旧大陸はおろか、アフリカやアジアからもヒトとカネが集まる東部、そして黄金眠る西部! そのくせ結束力に乏しく、東部と西部では最早異国、異邦、いいえ、異世界と言っていいほど、国としてのまとまりはバラバラに等しい。当然、警察力などと言ったものは皆無。我々のような者が取り入り財と権力を成すには、絶好の土地ではないですか」
「しかしアルテュールよ……」
渋い顔をするJJに、身長2メートルはありそうな大男が、幼い子供を胸に抱きながら声をかける。
「閣下のことですから、祖国に馴染みのない土地は好まれないのではと察しております。ですがルイジアナは元々、我がフランスのものだったではないですか。少なからず我々に縁(ゆかり)ある土地と考えて、何の問題もございますまい」
「……ふーむ、ふむ」
途端に、JJの顔が嬉しそうににやける。
「なるほどジュリウス、お前の言う通りだ。そもそもそのルイジアナ自体、ナポレオンが相場に釣り合わぬ端金(はしたがね)で売り払ったのだ。そのナポレオンも祖国に背を向けられたことであるし、その三世だの何だのを名乗るあの醜男もまた、フランスを代表する権利なぞ無いクズだ。
よって結論として――ルイジアナ売却に正当性があるなど、正当なるフランス国民、旧大陸の闇の叡智と畏(おそ)れられたこの余は、断固として認めん。であればルイジアナは余がその手中に収めたとて、何の問題も無かろう。いいや、その買収も半世紀以上昔のこと。その半世紀分の利子を付けて、フランス国民の手に返してもらうべきだ」
「つまり閣下」
アルテュールはカイゼルひげを指先で撫で付けながら、JJにニヤニヤと笑みを向けた。
「奪(と)る気ですな、アメリカ全土を」
「うむ」
それまでの憮然とした態度を一転させ、JJは握っていた杖の先を西へ向けた。
「征くぞ、新大陸へ! 征くぞ、新世界へ! アメリカは余のものだ! ぐふっ、ぐふっ、ぐふふふふっ……!」
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