DETECTIVE WESTERN
DETECTIVE WESTERN 15 ~ 新世界の誘い ~ 2
ウエスタン小説、第2話。
天使と悪魔。
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2.
JJが合衆国の地に足を踏み入れた時、手下はわずか――腹心のジュリウス・アルジャンと、ダビッド・ヴェルヌ。パトロンであり、アメリカへの逃走ルートを用意したアルテュール・リゴーニ。そして下僕のアンリ=ルイ・ギルマンと、エイミッシュ・マイヨンの5人しか残っていなかった。
そして彼の家族も元々、子供がわずかに2人――兄のルシフェル・ブラン・シャタリーヌと、妹のミカエル・マルーン・シャタリーヌだけしかおらず、このまま何事も起きなければきっと、彼の野望は西部の土の下に埋もれるばかりだっただろう。
ところがやはり、JJには未曾有の強運が取り憑いていたらしい。彼が渡米した翌年から、合衆国南北の情勢が悪化。瞬く間に合衆国を二分する内戦、南北戦争が勃発したのである。
これに乗じ、JJは一挙に人員と資金を獲得した。北部の海上封鎖の間隙を突いて闇取引を繰り返し、北部から武器を横流しし、さらには南部の大物代議士をたばかり、総資産価値300万ドル強に及ぶ、強大な地下帝国を築き上げたのである。
そして5人の部下も少なからず、その恩恵を受けることとなった。アルテュールは組織への出資した以上の莫大な収益を獲得し、手柄を立てたジュリウスたちもそれぞれ、大勢の部下を従える部隊長の地位を与えられた。さらに息子のルシフェルもまた、この頃から頭角を現し始め、戦乱の最中にある合衆国各地を荒らし回る、恐るべき犯罪者(テロリスト)となっていった。
だがこの過程で2つ、JJにとって好まざることが起こった。1つは、そのルシフェルが自分の制御を外れ始め、不必要な略奪・殺戮を行い始めたことだった。
「いい加減にせぬか、ブラン! 戦時中といえども、警察が動いておらんわけでは無いのだぞ!?」
「知ったことじゃないさ」
顔を真っ赤にして怒鳴り散らす父親に目もくれず、ルシフェルは拳銃を磨いている。
「それより親父、M州にまた北軍が来てるらしいぜ。懲りもせずによくもまあ、ノコノコやって来るもんだ。そう思わないかい?」
「何の話だ?」
自分の話をさえぎられ、憤るJJに、ルシフェルはやはり目を合わせず話を続ける。
「分からないの? ブン捕るチャンスだって言ってるのさ」
「そんな必要はもう無い!」
JJは声を荒げ、息子の提案を却下した。
「既に人員も物資も十分確保してある。現状は襲撃と略奪より、練兵と拠点構築を優先すべき状態にある。むしろ、これ以上物資を集めても無駄にしかならん」
「そんなもんかねぇ」
ルシフェルはニタニタと下品な薄ら笑いを浮かべながら、拳銃を腰のホルスターに収める。その態度に、JJはますます怒り出した。
「いいかブラン、しばらくアジトの外には出るな! これは余の……」「命令だ、って?」
と、ルシフェルは収めたばかりの拳銃を抜き、JJの顔に向けた。
「うっ……!?」
「実の息子にまで『命令』すんのかい、親父? そんな調子だからあんた、フランスを追い出されたんだぜ?」
「な、何を言うかッ!」
「図星だからってそんなに怒んなよ。残り少ない寿命があっと言う間に燃え尽きるぜ」
「貴様……!」
「話は終わりだろ? じゃあな」
ルシフェルはくるんと拳銃を戻し、JJの前から去り――どうやらこの時点で既に、自身が疎まれていることを察していたらしく――集めた資金の一部を盗み、行方をくらましてしまったのである。
親である自分に対して憎たらしい態度を執るだけに留まらず、組織にとって害をなすルシフェルを、JJが許すはずは無かった。JJはダビッドに命令を下し、ルシフェルの討伐に向かわせた。
そしてもう一つの誤算は、地位を引き上げ、取り立てたばかりのマイヨンが、ミカエルと共に姿を消したことだった。
「なんたることだ! 折角余が目をかけてやったものを……!」
憤慨し、禿げ上がった頭のてっぺんまで真っ赤に染めるJJの前に、ジュリウスがかしずく。
「閣下。私が娘御とマイヨンを連れ戻して参ります」
「……」
申し出たジュリウスを半ばにらみつけるように見つめて、JJはこう返した。
「娘は、……連れ戻せ。マイヨンは殺せ」
「承知」
ジュリウスがミカエルとマイヨンの行方を探り当てるまでに、実に1年近くを費やすこととなった。そしてその結果、JJにとって想定外の事態が、新たに1つ起こることとなった。
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JJが合衆国の地に足を踏み入れた時、手下はわずか――腹心のジュリウス・アルジャンと、ダビッド・ヴェルヌ。パトロンであり、アメリカへの逃走ルートを用意したアルテュール・リゴーニ。そして下僕のアンリ=ルイ・ギルマンと、エイミッシュ・マイヨンの5人しか残っていなかった。
そして彼の家族も元々、子供がわずかに2人――兄のルシフェル・ブラン・シャタリーヌと、妹のミカエル・マルーン・シャタリーヌだけしかおらず、このまま何事も起きなければきっと、彼の野望は西部の土の下に埋もれるばかりだっただろう。
ところがやはり、JJには未曾有の強運が取り憑いていたらしい。彼が渡米した翌年から、合衆国南北の情勢が悪化。瞬く間に合衆国を二分する内戦、南北戦争が勃発したのである。
これに乗じ、JJは一挙に人員と資金を獲得した。北部の海上封鎖の間隙を突いて闇取引を繰り返し、北部から武器を横流しし、さらには南部の大物代議士をたばかり、総資産価値300万ドル強に及ぶ、強大な地下帝国を築き上げたのである。
そして5人の部下も少なからず、その恩恵を受けることとなった。アルテュールは組織への出資した以上の莫大な収益を獲得し、手柄を立てたジュリウスたちもそれぞれ、大勢の部下を従える部隊長の地位を与えられた。さらに息子のルシフェルもまた、この頃から頭角を現し始め、戦乱の最中にある合衆国各地を荒らし回る、恐るべき犯罪者(テロリスト)となっていった。
だがこの過程で2つ、JJにとって好まざることが起こった。1つは、そのルシフェルが自分の制御を外れ始め、不必要な略奪・殺戮を行い始めたことだった。
「いい加減にせぬか、ブラン! 戦時中といえども、警察が動いておらんわけでは無いのだぞ!?」
「知ったことじゃないさ」
顔を真っ赤にして怒鳴り散らす父親に目もくれず、ルシフェルは拳銃を磨いている。
「それより親父、M州にまた北軍が来てるらしいぜ。懲りもせずによくもまあ、ノコノコやって来るもんだ。そう思わないかい?」
「何の話だ?」
自分の話をさえぎられ、憤るJJに、ルシフェルはやはり目を合わせず話を続ける。
「分からないの? ブン捕るチャンスだって言ってるのさ」
「そんな必要はもう無い!」
JJは声を荒げ、息子の提案を却下した。
「既に人員も物資も十分確保してある。現状は襲撃と略奪より、練兵と拠点構築を優先すべき状態にある。むしろ、これ以上物資を集めても無駄にしかならん」
「そんなもんかねぇ」
ルシフェルはニタニタと下品な薄ら笑いを浮かべながら、拳銃を腰のホルスターに収める。その態度に、JJはますます怒り出した。
「いいかブラン、しばらくアジトの外には出るな! これは余の……」「命令だ、って?」
と、ルシフェルは収めたばかりの拳銃を抜き、JJの顔に向けた。
「うっ……!?」
「実の息子にまで『命令』すんのかい、親父? そんな調子だからあんた、フランスを追い出されたんだぜ?」
「な、何を言うかッ!」
「図星だからってそんなに怒んなよ。残り少ない寿命があっと言う間に燃え尽きるぜ」
「貴様……!」
「話は終わりだろ? じゃあな」
ルシフェルはくるんと拳銃を戻し、JJの前から去り――どうやらこの時点で既に、自身が疎まれていることを察していたらしく――集めた資金の一部を盗み、行方をくらましてしまったのである。
親である自分に対して憎たらしい態度を執るだけに留まらず、組織にとって害をなすルシフェルを、JJが許すはずは無かった。JJはダビッドに命令を下し、ルシフェルの討伐に向かわせた。
そしてもう一つの誤算は、地位を引き上げ、取り立てたばかりのマイヨンが、ミカエルと共に姿を消したことだった。
「なんたることだ! 折角余が目をかけてやったものを……!」
憤慨し、禿げ上がった頭のてっぺんまで真っ赤に染めるJJの前に、ジュリウスがかしずく。
「閣下。私が娘御とマイヨンを連れ戻して参ります」
「……」
申し出たジュリウスを半ばにらみつけるように見つめて、JJはこう返した。
「娘は、……連れ戻せ。マイヨンは殺せ」
「承知」
ジュリウスがミカエルとマイヨンの行方を探り当てるまでに、実に1年近くを費やすこととなった。そしてその結果、JJにとって想定外の事態が、新たに1つ起こることとなった。
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