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    DETECTIVE WESTERN

    DETECTIVE WESTERN 15 ~ 新世界の誘い ~ 3

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    ウエスタン小説、第3話。
    ジュリウスの討伐劇。

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    3.
     ようやくジュリウスがマイヨンのところに行き着いたところ、彼はジュリウスの前にひざまずき、深々と頭を垂れた。
    「申し訳ございません、アルジャン様! どうかこのまま、何も見なかったことにして、お帰りいただけませんか」
    「それは無理な相談だ。こうして見付け出した以上、私は任務を遂行する義務がある」
     マイヨンの願いをにべもなく却下し、ジュリウスは小銃を彼の頭に向けた。
    「君はやってはならぬことをしでかした。閣下は命を持って償うことを望まれている」
    「……では、せめて」
     マイヨンは顔を上げ、涙を流しながら懇願する。
    「姫のことは、見逃しては」
    「それもならぬ」
     ジュリウスは大きくかぶりを振り、淡々と告げた。
    「姫は連れて帰るように申し付けられている。君がこの1年、姫とどんな生活を送っていたか、想像に難くない。だからこそ、閣下は君のことを絶対に許しはしないし、何があろうとも、命令は撤回しないだろう。そして君からのどんな要望も、私は聞き届けることはできない。私は下された命令を、忠実にこなすのみだ」
    「……せめて」
     マイヨンはもう一度頭を下げるが――。
    「姫のむす……」
     その言葉は、途中で発砲音にさえぎられた。
    「すまない、マイヨン」
     血溜まりに沈んだマイヨンの背中を眺め、ジュリウスは最後まで淡々と述べた。
    「君がどんな頼みごとをしようと、私がそれを聞くことはできぬのだ」
     マイヨンを仕留めたジュリウスはそのまま、彼の背後にあった家屋へと足を向けた。
    (大草原の小さな家、……か。この国の大多数の西部民と同様に、慎ましく暮らしていたと見える。姫にこんな不自由をさせてまで、お前は自分の勝手を通そうとしたのか? ……いや、違うな)
     背後から漂う血の臭いをわずかに感じながら、ジュリウスはあばら家同然のその家の様子を眺める。
    (組織が、そして閣下が恐ろしかったのだろう。そして姫も恐らくは、同じ感情を抱いていたに違いない。だからこそ組織での地位も、生活も全て捨てて、二人でこんな僻地にまで逃げて来たのであろう)
     あばら家の前に到着したところで、ジュリウスはまたも、血の臭いが漂っていることに気付いた。
    (マイヨンの……? いや、恐らくは)
     玄関の戸を開け、ジュリウスはその予感に誤りが無かったことを確かめ、そして嘆いた。
    「……おいたわしや」
     テーブルに突っ伏す形で、ミカエルは事切れていた。その右手に握られた拳銃からはまだ、硝煙が立ち上っている。
    (マイヨンの最期を見て、後を追った形か。……心苦しいが、そう言う経緯であれば、私にはどうすることもできなかっただろう)
     たった5メートル四方の、小ぢんまりとした居間を周り、ジュリウスは閣下への言い訳を考える。
    (ありのままを伝えるべきか? となれば『マイヨンを仕留めたところで姫も後を追った』となるが、……閣下からは姫を止めなかったことを咎められるだろう。余計な罰を負う羽目になりかねんな。であれば『私が訪ねた時には既に心中していた』とでも言っておくか。
     ……しかし何だ? この、妙な違和感は)
     居間を何度か見渡し、ジュリウスは首をかしげた。
    (1年寝食を共にしていた男女の家にしては、生活感に乏しい。衣服も道具も、こんな荒野にそぐわぬほどに、異様にぴっちりと整頓されている。よそよそしさすら感じるほどだ。この家からは到底、仲睦まじい男女の空気を嗅ぎ付けることができぬ。
     それにマイヨンの言葉遣いも妙だった。自分が愛した女であったならば『ミカエル』と、名前で呼んだはずだ。だが奴は『姫』と呼んでいた。やはりそこにも、愛を匂わせるものが一切無い。これではまるで、マイヨンが組織にいた時と一切変わらず、単なる従者として姫に接し続けていたかのようだ。
     一体、二人はこの1年、どう過ごしていたのだ? 姫とマイヨンは駆け落ちするような間柄では無かったのか? だと言うのならば何故、姫はマイヨンと心中したのだ?)
     と、その時だった。隣の部屋から、赤ん坊の泣く声が聞こえてきたのである。
    「ぬ……?」
     ジュリウスは隣に移り、片隅にあった揺り籠に近付いた。
    「お前は……」
     中にいた赤ん坊の顔を見て、ジュリウスの脳裏にマイヨンが言いかけた、最期の言葉がよぎる。
    (『姫のむす……』と言っていたか。あれは娘と言いたかったのだな。……それもまた妙だ。他人行儀にも程がある。姫とマイヨンの間に産まれた娘であったのならば、『姫の娘』などとは決して言うまい。『私の娘』、あるいは『私たちの娘』と言うはずだ。となると……)
     そこまで思案したところで、その娘がわんわんと、一際けたたましく泣き出した。
    「……新たな言い訳を考えねばならんな」
     仕方無く、ジュリウスは手と両袖をぱんぱんとはたき、その娘を揺り籠の中から抱き上げた。
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