DETECTIVE WESTERN
DETECTIVE WESTERN 15 ~ 新世界の誘い ~ 4
ウエスタン小説、第4話。
奇妙な相談。
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4.
悪の道に堕ちた身ではあるが、ジュリウス・アルジャンは元々貴族の出であり、高潔と品行方正を己の誇りにする男である。親を失った赤ん坊を荒野のあばら家に放っておくような、非道で恥ずべき行いをするはずも無く、彼は赤ん坊を、組織のアジトにしている廃坑そばのゴーストタウンに連れ帰った。
と――。
「おお、ジュリウス! 久しぶりじゃねえか、……って、そいつは?」
自分と同様に赤ん坊を抱えた相棒、ダビッド・ヴェルヌと出会い、互いに面食らった顔を見せた。
「お前も、……それは誰の子供だ? お前のか?」
尋ねたジュリウスに、ダビッドは辺りを見回しつつ、肩をすくめて返す。
「大っぴらにゃ言えねえ話だ。ちっと人のいないトコ行こうぜ」
「ああ」
人気の無い場所に移り、ダビッドは声を潜めて話し始めた。
「ほら、閣下から若、……いや、もうそんな呼び方しなくていいか、あのバカ息子の討伐命令を俺が受けてただろ? で、あいつあっちこっち逃げ回ってたもんでよ、どうにか始末付けるまでにほとんど1年かかっちまったんだわ。聞いた話だけどお前も姫とマイヨンの行方、1年かけてあっちこっち探して回ってたんだってな」
「そうだ。だが姫もマイヨンも、私が探し当てた時には既に心中していてな」
あらかじめ作っておいた言い訳を聞かせつつ、ジュリウスも自分の腕の中で眠る赤ん坊の事情を話した。
「……じゃあ、その子は姫の娘ってことになんのか」
「間違い無いだろう」
「まずいな、ソレ」
そう返され、ジュリウスはまたも面食らった。
「何だと?」
「何となく察してるだろうけどな、コイツも孫なんだよ、閣下の」
そう言ってダビッドは、抱きかかえていた赤ん坊の背中をトントンと叩く。
「つまり若、……いや、ルシフェルの?」
「って話だ」
妙な言い回しに、ジュリウスは首をかしげた。
「話が見えて来ないな。確かではないのか?」
「かいつまんで説明すると、だ。1ヶ月前、俺たちの部隊はルシフェルのアジトを見付けて強襲した。アイツはろくでなしだったからな、カスみてえな取り巻きと、あとは女を何人か囲ってたんだが、ソイツらは襲撃ん時に巻き添え食っちまってな、全員死んだ。で、そのうちの一人が死ぬ前に『ルシフェルの子だ』つって、俺にこの娘を渡したんだよ」
「ルシフェル本人は?」
「逃げやがったよ。取り巻きを囮にしてな。だがもう、俺たちが追う必要も無いだろう。
アイツ、はっきり言ってバカだからさ。北にも南にも無節操にケンカ売りまくってるらしくてな、今や南北併せて賞金5千ドルを超えるお尋ね者だ。俺たちが追わなくても、その内どっちかに殺されるだろうさ」
「だといいが。……それでダビッド、まずいと言ったのは?」
「ああ」
ダビッドは赤ん坊を撫でながら、げんなりした顔を見せた。
「連れて帰って来たワケだからよ、とりあえず報告するわな、閣下に。そしたらよ、顔を真っ赤にしてブチ切れたってワケよ。『あの穀潰しの娘だと!? 顔も見たくないわ! 殺してしまえ!』つって」
「やはりそうなるか……」
赤ん坊を抱えながら、自分の頭も抱えたジュリウスに、ダビッドは「ま、ま」と続ける。
「そんでも幹部総出でなだめすかしてな、どうにか育てるってコトで話はまとめた。流石にこんな赤ん坊を殺すなんてよ、いくら俺たちが筋金入りの無法者だっつっても、やりたかねーもんなぁ。
だけどもジュリウスよ、お前さんも赤ん坊連れて来たってなると、閣下がもっぺん爆発しちまうぜ」
「ああ、想像に難くない」
「そしたらまた殺せだの何だのって怒鳴られちまうぜ。下手すりゃこの娘まで殺せって命令しかねないだろ?」
「だろうな」
「んで、今ちっと思い付いたんだがよ」
ダビッドはジュリウスの横に立ち、赤ん坊を並べて見比べた。
「歳も近そうだし、従姉妹ってコトになるから顔立ちもソレなりに似ちゃいる。ちっとごまかせば、1人ってコトにできるんじゃねえか?」
「なに?」
「ソレしか無いぜ、ジュリウス。娘が2人いましたって正直に言うのは、少なくとも今は絶対にまずいだろ? しばらくの間は、1人だっつってごまかすしかねえよ」
「……やむなしだな」
こうして2人の赤ん坊は「エミル・トリーシャ・シャタリーヌ」と言う1人の娘として扱われ、座敷牢同然の離れに住まわせた上で、ダビッドとジュリウスが交代でお守りをすることとなった。このことは組織の者はおろか、ジュリウスたちの実の息子にさえ、真実が知らされることは無かった。
「ドコから話が漏れるか分からんからな。ま、閣下も相当なお歳だし、そう遠くない内にポックリ逝くだろうさ。その後で皆に明かせば、万事問題無しってワケだ」
ダビッドはそう言って気楽に構えていたが――娘を引き取ってからわずか2年後、逆にダビッドの方が腸チフスにかかり、病死してしまったのである。
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奇妙な相談。
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悪の道に堕ちた身ではあるが、ジュリウス・アルジャンは元々貴族の出であり、高潔と品行方正を己の誇りにする男である。親を失った赤ん坊を荒野のあばら家に放っておくような、非道で恥ずべき行いをするはずも無く、彼は赤ん坊を、組織のアジトにしている廃坑そばのゴーストタウンに連れ帰った。
と――。
「おお、ジュリウス! 久しぶりじゃねえか、……って、そいつは?」
自分と同様に赤ん坊を抱えた相棒、ダビッド・ヴェルヌと出会い、互いに面食らった顔を見せた。
「お前も、……それは誰の子供だ? お前のか?」
尋ねたジュリウスに、ダビッドは辺りを見回しつつ、肩をすくめて返す。
「大っぴらにゃ言えねえ話だ。ちっと人のいないトコ行こうぜ」
「ああ」
人気の無い場所に移り、ダビッドは声を潜めて話し始めた。
「ほら、閣下から若、……いや、もうそんな呼び方しなくていいか、あのバカ息子の討伐命令を俺が受けてただろ? で、あいつあっちこっち逃げ回ってたもんでよ、どうにか始末付けるまでにほとんど1年かかっちまったんだわ。聞いた話だけどお前も姫とマイヨンの行方、1年かけてあっちこっち探して回ってたんだってな」
「そうだ。だが姫もマイヨンも、私が探し当てた時には既に心中していてな」
あらかじめ作っておいた言い訳を聞かせつつ、ジュリウスも自分の腕の中で眠る赤ん坊の事情を話した。
「……じゃあ、その子は姫の娘ってことになんのか」
「間違い無いだろう」
「まずいな、ソレ」
そう返され、ジュリウスはまたも面食らった。
「何だと?」
「何となく察してるだろうけどな、コイツも孫なんだよ、閣下の」
そう言ってダビッドは、抱きかかえていた赤ん坊の背中をトントンと叩く。
「つまり若、……いや、ルシフェルの?」
「って話だ」
妙な言い回しに、ジュリウスは首をかしげた。
「話が見えて来ないな。確かではないのか?」
「かいつまんで説明すると、だ。1ヶ月前、俺たちの部隊はルシフェルのアジトを見付けて強襲した。アイツはろくでなしだったからな、カスみてえな取り巻きと、あとは女を何人か囲ってたんだが、ソイツらは襲撃ん時に巻き添え食っちまってな、全員死んだ。で、そのうちの一人が死ぬ前に『ルシフェルの子だ』つって、俺にこの娘を渡したんだよ」
「ルシフェル本人は?」
「逃げやがったよ。取り巻きを囮にしてな。だがもう、俺たちが追う必要も無いだろう。
アイツ、はっきり言ってバカだからさ。北にも南にも無節操にケンカ売りまくってるらしくてな、今や南北併せて賞金5千ドルを超えるお尋ね者だ。俺たちが追わなくても、その内どっちかに殺されるだろうさ」
「だといいが。……それでダビッド、まずいと言ったのは?」
「ああ」
ダビッドは赤ん坊を撫でながら、げんなりした顔を見せた。
「連れて帰って来たワケだからよ、とりあえず報告するわな、閣下に。そしたらよ、顔を真っ赤にしてブチ切れたってワケよ。『あの穀潰しの娘だと!? 顔も見たくないわ! 殺してしまえ!』つって」
「やはりそうなるか……」
赤ん坊を抱えながら、自分の頭も抱えたジュリウスに、ダビッドは「ま、ま」と続ける。
「そんでも幹部総出でなだめすかしてな、どうにか育てるってコトで話はまとめた。流石にこんな赤ん坊を殺すなんてよ、いくら俺たちが筋金入りの無法者だっつっても、やりたかねーもんなぁ。
だけどもジュリウスよ、お前さんも赤ん坊連れて来たってなると、閣下がもっぺん爆発しちまうぜ」
「ああ、想像に難くない」
「そしたらまた殺せだの何だのって怒鳴られちまうぜ。下手すりゃこの娘まで殺せって命令しかねないだろ?」
「だろうな」
「んで、今ちっと思い付いたんだがよ」
ダビッドはジュリウスの横に立ち、赤ん坊を並べて見比べた。
「歳も近そうだし、従姉妹ってコトになるから顔立ちもソレなりに似ちゃいる。ちっとごまかせば、1人ってコトにできるんじゃねえか?」
「なに?」
「ソレしか無いぜ、ジュリウス。娘が2人いましたって正直に言うのは、少なくとも今は絶対にまずいだろ? しばらくの間は、1人だっつってごまかすしかねえよ」
「……やむなしだな」
こうして2人の赤ん坊は「エミル・トリーシャ・シャタリーヌ」と言う1人の娘として扱われ、座敷牢同然の離れに住まわせた上で、ダビッドとジュリウスが交代でお守りをすることとなった。このことは組織の者はおろか、ジュリウスたちの実の息子にさえ、真実が知らされることは無かった。
「ドコから話が漏れるか分からんからな。ま、閣下も相当なお歳だし、そう遠くない内にポックリ逝くだろうさ。その後で皆に明かせば、万事問題無しってワケだ」
ダビッドはそう言って気楽に構えていたが――娘を引き取ってからわずか2年後、逆にダビッドの方が腸チフスにかかり、病死してしまったのである。
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