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    DETECTIVE WESTERN

    DETECTIVE WESTERN 15 ~ 新世界の誘い ~ 6

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    ウエスタン小説、第6話。
    大閣下の後継者。

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    6.
     彼女との会話を交わすにつれ、どうやらJJはトリーシャのことを、「ろくでなしが作った子供」ではなく、「愛しい孫娘」と認識し直したらしい。彼女が16歳になった頃には、JJはトリーシャを、己の正当な後継者として扱うことを明言した。
    「チェックメイトです、おじいさま」
    「なんと!?」
     白黒の盤面に視線を落として苦々しげにうなり、やがてJJは黒いキングをことん、と倒した。
    「見事だ、トリーシャ。余がチェスで後塵を拝したのは半世紀ぶりだぞ」
    「ありがとうございます」
    「こちらこそ。……うーむむむ」
     JJは腕を組んでもう一度うなり――倒したキングをす、とトリーシャの前に置いた。
    「決めたぞ、トリーシャ。余の後を継ぐのはやはり、お前を置いて他にはおらぬ」
    「えっ?」
     驚くトリーシャに背を向け、JJは語り出した。
    「思えば余の人生には、今ひとつ、ふたつと、運が足らなかったものよ。祖国では共和政府を相手に八面六臂、跳梁跋扈の活躍を繰り広げるも、ついに日の目を見られなかった。この国を訪れてからも、娘が裏切り者と心中するわ、ろくでなしの息子にカネを持ち逃げされるわ。その上、戦中に稼いだ大金も、ほとんどが南部のドルばかり! おかげでこの地に本拠地を築き上げてから約20年、何度も何度も苦杯を喫したものだ。
     それでもどうにか軍資金を北部のカネに換え切り、千に届く兵を集めて鍛え上げ、ようやく我が組織は合衆国と戦える水準に達した。本当に、本当に長かった。余の寿命が先に尽きてしまうのではないかと危惧するほどにな。いや、実際のところ、余も既に齢80に達した身だ。いつ何時、ふとしたはずみで死神が家の戸を叩くか分からん。もしそうなった時、後継者を定めておらんと言うのは、混乱の元でしか無い。
     故にトリーシャ! 余がもし死んだら、お前が余の後を継ぐのだ」
    「でも、おじいさま」
     いくら聡明で胆力のあるトリーシャでも、ティーンエイジャーの身でいきなりそんな話を振られては、狼狽するばかりである。
    「あたしはまだ、そんなこと、考えられません」
    「いいやトリーシャ、お前以外には絶対に無い!」
     JJはきっぱりと断言し――ようとしたようだが、次の一瞬、ぽろっとこぼした。
    「……いや、ブランが先日、……いやいやいや! やはりお前だけだ! お前しかおらん!」
    「あの、ブランとは?」
    「お前が知る必要の無いことだ。いいかトリーシャ、早い内に覚悟を決めておくように。いいな!」
     半ばまくし立てるように言葉を並べて、JJはそそくさと立ち去ってしまった。

     離れに戻ったトリーシャは――本日外に出たのは、「アンジェ」の方だった――中でひっそり籠もっていた「フィー」に、その日の講義内容とチェスの勝敗、そして会話の中でJJがこぼしていた、「ブラン」と言う人物のことを伝えた。
    「ブラン? 誰かしら」
    「分からないわ。あたしも、一度も聞いたこと無いもの」
    「おじいさまが後継者にしようと、一瞬でも考えるような相手ってことよね?」
     フィーにそう尋ねられ、アンジェは首をかしげて返す。
    「そんな人、いるかしら。例えばジュリウスおじさまは? 幹部陣の中では筆頭だと思うけれど」
    「おじいさまは偏屈な方ですもの。よほど近しい人間でない限り、後継者に指名しようなんて思わないでしょうね。それが例え30年以上共に戦った人間、ジュリウスおじさまであっても。でも今までに一度だって、おじいさまは『後継者はジュリウスだ』だとか、そんなことを仰ってた覚えは無いわ。あんたもそうでしょ?」
    「そうね。となるとそれは、ジュリウスおじさまよりもさらに近しい人間ってことよね」
    「……ねえアンジェ、あたし今、ピンと来たんだけど」
    「そうね、フィー。あたしもよ」
     二人は顔を見合わせ、異口同音にその予想を口に出した。
    「肉親、……でしょうね」
    「そうね。そして孫のあたしより優先的に、指名を考えさせるくらいの近さの」
    「つまり、……父親の、ことよね」
    「……多分、ね」
     JJからは、父親の名前や思い出などは聞かされて来なかったが、評価についてはあらゆる悪口雑言と共に散々聞かされていたため、二人はその予想を同時に否定しようとした。
    「ありえるの? だっておじいさまは……」
    「そうよね、だってあれほど嫌っていたもの」
    「ええ、本当に。フランス語の悪口辞典って感じで徹底的に罵ってたんだから、例え地獄が凍り付くようなことがあっても絶対、後継者にしようなんて、……ねえ?」
    「でも、アンジェ。あたしたちだって、何年か前まではとっても嫌われていたじゃない。でもたった一度、ちょっとフランス喜劇の台詞を引用したってだけで、おじいさまはころっと態度を変えた。今だってもしかしたら、そうなるんじゃない?」
    「つまり10年以上忌み嫌っていた息子がひょっこり帰って来て話し込んだら、途端に『やはり後継者にするなら息子か』って心変わりするかもってこと?」
    「かも、だけどね。あんた、それで納得する?」
    「……」
     尋ねられ、アンジェは黙り込んだ。それを眺めていたフィーが、こう続けた。
    「あんたはあたし。あたしはあんた。あんたが考えてること、あたしだって考えてるわ、きっと」
    「……そうね」
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