DETECTIVE WESTERN
DETECTIVE WESTERN 15 ~ 新世界の誘い ~ 8
ウエスタン小説、第8話。
狂い始めた歯車。
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8.
「どうしたのだ、トリーシャ? 今のは前回、お前が仕掛けた手ではないか」
アンジェがアレーニェと出会って1週間後、とうとうJJがチェスの席で詰問してきた。
「えっ? そう……だったかしら」
「忘れたと言うのか? 頭脳明晰なお前らしくない。つい3日、いや、4日前のことを覚えておらんとは。いや、と言うよりも……」
フィーが倒した白いキングをつかみ、JJはじろ、と彼女の顔を疑い深そうな目で見つめて来た。
「まるで初めてこの展開を見た、と言うような打ち筋だったぞ。いつもの機知に富んだお前ならば、見抜いて仕掛けをかわすなり何なりできたであろうに」
「す……すみません、おじいさま。あたし、ちょっと、考え事をしていて」
「考え事だと? それは余との勝負と会話をないがしろにするほどのことか?」
「……いえ……」
「ふん、まあ良い。……興が冷めてしまったわい。今日はもう下がれ」
「……は、はい」
「いい加減にしてよ、アンジェ!」
離れに戻ったところで、フィーはアンジェを怒鳴り付けた。
「やめてよ、フィー。あんまり大声出さないでよ。こんなことでバレたら、元も子も……」
「もう寸前よ! 今日なんかおじいさまに怪しまれたのよ!? 何とかごまかしたけど、これ以上こんなのが続いたら、全部おしまいになっちゃうわ!」
「……そ、そうね。どうにか、しなきゃね」
それだけ返し、アンジェはベッドの上で膝を抱えてしまった。そのまま動かないアンジェをにらみ、フィーはまた声を荒げる。
「あんた、どうにかする気あんの!?」
「……」
「ねえ?」
「……」
「ねえってば!」
何度も苛立たしげに声を掛けられ、アンジェはようやく顔を上げた。
「……とりあえず、いっこずつ、片付けない?」
「いっこずつ?」
「あたしたちの問題。あたしたちの周りには、問題が多すぎるわ」
「そうね。一番の問題は、あんたがおかしくなってるってことよね」
「違う」
アンジェはベッドを離れ、フィーの肩をつかんだ。
「ちょっと、アンジェ? 何よ?」
「元々無茶だったのよ。2人で1人を演じるだなんて。16年もそんな無茶しなきゃならなくなったのは、誰のせいなのよ?」
「……あんた、まさか」
「そのまさかよ。でも」
アンジェは爛々(らんらん)と目を光らせ、フィーに提案した。
「おじいさまから教えられたわよね――脅威は小勢から潰せ、って」
2日後、アンジェとフィーは密かにアジトを抜け出し、ルシフェルを狙ってO州とC州の境に向かった。
「この辺りかしらね」
「いるとしたら、だけど」
二人の計画はこうだった。まずルシフェルを「トリーシャ1人」で討ち、JJの信頼を得る。その上で寝首を掻き、自分たちが組織のトップに就く、と言うものである。自分たちに相当都合良く展開が動くことを期待した、杜撰で幼稚な計画ではあったが、今の二人にはこれ以上の案を思い付くことも、これ以外の案にすがることもできなかった。
「確かなの?」
「組織の情報よ? 間違いなんてそうそう……」
幼く、アジトの外に出た経験すら無い、世間知らずの彼女たちではあったが、それでも運は人一倍に強かったらしい。彼女たちの前に、その男は現れた。
「……」
男の目はせわしなく、まるで彼女たちの全身をぬらぬらと舐め回すように動いている。
「あなた……シャタリーヌ? ルシフェル・ブラン・シャタリーヌかしら?」
アンジェが尋ねたが、相手は応じない。
「答えなさいよ」
フィーがしびれを切らし、拳銃を向けたところで、男はようやく口を開いた。
「よお、お姉ちゃん方。こんなところで商売か? 精が出るねぇ、げひゃひゃひゃひゃ」
その口からは甘ったるく、鼻腔にまとわりつくような、気持ちの悪い植物臭が漂って来る。どうやらマリファナの類を、大量に吸っているようだった。
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狂い始めた歯車。
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8.
「どうしたのだ、トリーシャ? 今のは前回、お前が仕掛けた手ではないか」
アンジェがアレーニェと出会って1週間後、とうとうJJがチェスの席で詰問してきた。
「えっ? そう……だったかしら」
「忘れたと言うのか? 頭脳明晰なお前らしくない。つい3日、いや、4日前のことを覚えておらんとは。いや、と言うよりも……」
フィーが倒した白いキングをつかみ、JJはじろ、と彼女の顔を疑い深そうな目で見つめて来た。
「まるで初めてこの展開を見た、と言うような打ち筋だったぞ。いつもの機知に富んだお前ならば、見抜いて仕掛けをかわすなり何なりできたであろうに」
「す……すみません、おじいさま。あたし、ちょっと、考え事をしていて」
「考え事だと? それは余との勝負と会話をないがしろにするほどのことか?」
「……いえ……」
「ふん、まあ良い。……興が冷めてしまったわい。今日はもう下がれ」
「……は、はい」
「いい加減にしてよ、アンジェ!」
離れに戻ったところで、フィーはアンジェを怒鳴り付けた。
「やめてよ、フィー。あんまり大声出さないでよ。こんなことでバレたら、元も子も……」
「もう寸前よ! 今日なんかおじいさまに怪しまれたのよ!? 何とかごまかしたけど、これ以上こんなのが続いたら、全部おしまいになっちゃうわ!」
「……そ、そうね。どうにか、しなきゃね」
それだけ返し、アンジェはベッドの上で膝を抱えてしまった。そのまま動かないアンジェをにらみ、フィーはまた声を荒げる。
「あんた、どうにかする気あんの!?」
「……」
「ねえ?」
「……」
「ねえってば!」
何度も苛立たしげに声を掛けられ、アンジェはようやく顔を上げた。
「……とりあえず、いっこずつ、片付けない?」
「いっこずつ?」
「あたしたちの問題。あたしたちの周りには、問題が多すぎるわ」
「そうね。一番の問題は、あんたがおかしくなってるってことよね」
「違う」
アンジェはベッドを離れ、フィーの肩をつかんだ。
「ちょっと、アンジェ? 何よ?」
「元々無茶だったのよ。2人で1人を演じるだなんて。16年もそんな無茶しなきゃならなくなったのは、誰のせいなのよ?」
「……あんた、まさか」
「そのまさかよ。でも」
アンジェは爛々(らんらん)と目を光らせ、フィーに提案した。
「おじいさまから教えられたわよね――脅威は小勢から潰せ、って」
2日後、アンジェとフィーは密かにアジトを抜け出し、ルシフェルを狙ってO州とC州の境に向かった。
「この辺りかしらね」
「いるとしたら、だけど」
二人の計画はこうだった。まずルシフェルを「トリーシャ1人」で討ち、JJの信頼を得る。その上で寝首を掻き、自分たちが組織のトップに就く、と言うものである。自分たちに相当都合良く展開が動くことを期待した、杜撰で幼稚な計画ではあったが、今の二人にはこれ以上の案を思い付くことも、これ以外の案にすがることもできなかった。
「確かなの?」
「組織の情報よ? 間違いなんてそうそう……」
幼く、アジトの外に出た経験すら無い、世間知らずの彼女たちではあったが、それでも運は人一倍に強かったらしい。彼女たちの前に、その男は現れた。
「……」
男の目はせわしなく、まるで彼女たちの全身をぬらぬらと舐め回すように動いている。
「あなた……シャタリーヌ? ルシフェル・ブラン・シャタリーヌかしら?」
アンジェが尋ねたが、相手は応じない。
「答えなさいよ」
フィーがしびれを切らし、拳銃を向けたところで、男はようやく口を開いた。
「よお、お姉ちゃん方。こんなところで商売か? 精が出るねぇ、げひゃひゃひゃひゃ」
その口からは甘ったるく、鼻腔にまとわりつくような、気持ちの悪い植物臭が漂って来る。どうやらマリファナの類を、大量に吸っているようだった。
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