DETECTIVE WESTERN
DETECTIVE WESTERN 15 ~ 新世界の誘い ~ 9
ウエスタン小説、第9話。
最低の男。
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9.
フィーもアンジェも、自分とそっくりな相手の顔のことを、それなりに美人な方だと互いに認識していたし、ジュリウスを始めとする、周囲の評価も高いものだった。だから何となく、自分たちのそれぞれの親――どちらかの母であるミカエルと、そしてもう一方の父であるルシフェルのことも、美しい顔立ちなのだろうと夢想していた。
「……っ」
だが今、目の前でフラフラとおぼつかない足取りでよろけているこのみすぼらしい中年男からは、美しいと評価できる要素を、どこにも感じ取ることができなかった。
「もう一度、聞くわよ。あんた、ルシフェル?」
「るし……? ふあぁあぁ? どうして知ってる? おぉ、俺の名前じゃねぇか! すごいな、何で分かったんだぁ~……?」
焦点の定まらぬ目をぎょろぎょろと動かし、ルシフェルは目の前にいる少女たちを眺めている。
「で、一人いくらだ? 2ドル? 3ドルか? いくらでも出すぜ。げへへ、いっぱい出すぜ。何回でも行けるぜぇ」
「あんたに聞きたいことがある」
思わず、アンジェの口からそんな言葉が漏れた。
「アンジェ?」
予定に無い行動を取ったアンジェを、フィーが止めようとする。
「何してんのよ? さっさと……」
「いいから。……ねえ、ルシフェル。あんた、なんで組織を抜けたのよ?」
「そぉーしきー? 行くわけねぇじゃねえか。誰が死んだなんてぇ、どぉだって~えよおぉ」
「葬式じゃない。組織よ。あんたが16年前にいた組織」
「そし……き? んあ、ぁ?」
何を聞いてもとぼけた返答しかせず、どうやらルシフェルはこの16年間の間に、すっかり廃人同然になってしまったようだった。
「何聞いても無駄って感じね。早く殺しましょ」
「待って。……ねえ、あたしたちのこと、分かる?」
「かわいいお嬢ちゃんたちだろぉ?」
「どーも。ねえ、16年前、あんたが組織を離れた直後くらいに、『なにか』無かったかしら?」
「なにか? なにが?」
「あたし、16歳なの。ピンと来るでしょ?」
「16歳……16年……」
ルシフェルはもごもごと何かをつぶやいていたが、突然目を見開いた。
「……お前……まさか」
「分かった? そうよ、あたし、……かあっちのあの娘のどっちかは、あんたの娘よ」
「娘? 俺の、娘? マジなのか?」
とろんとしていたルシフェルの目が、驚愕の色を帯びる。
「……へー……」
JJに似た、下卑た笑みを浮かべたルシフェルに、アンジェは危険を感じた。
「変なこと考えないでよ?」
「わ……分かってる、へへ、分かってるさ。だけどよ、あっちの娘も似てるなぁ、お前と。そいつも俺の娘か?」
「あんた、他にも子供作ってたの?」
「俺が知ってる限りじゃ5、6人はいるぜぇ、へっへへ。全部母親違いだけどな」
「クズね。……あっちはあんたの娘じゃないわよ。あんたの妹の娘よ」
「そんなら似たようなもんだ」
ルシフェルはにやぁ、と気持ちの悪い笑みを浮かべた。
「知ってるか? ミカエルが誰の子を産んだのか」
「は?」
「俺は知ってる。いや、俺だけしか知らない。……言ってる意味、分かるか?」
「なにを、……!」
思わず、アンジェはフィーの方を振り返る。その瞬間――。
「げへへ……っ」
ルシフェルがアンジェに抱きつき、そのまま組み敷いてきた。
「たまんねぇなぁ、ええ、おい? いい匂いだぜぇ、いひっ」
「な、……何すんのよ!?」
「母親が誰か知らねえけどよ、きっと母親似だろうぜ、お前。俺の好みだもんなぁ」
「……っ」
言葉にできないほどの嫌悪感を覚え、アンジェは抵抗する。
「離れなさいよ、この……っ!」
「ふへ、ふへ、へへへぇ……」
どうやらこの時完全に、ルシフェルは感情と本能だけで行動しており、理性が一切働いていないようだった。何故なら3メートルと離れていないはずのフィーのことをもう、すっかり忘れている様子だったからである。
なので――ルシフェルは簡単に、フィーが放った弾丸を食らった。
「ぷきゅ」
荒い息を吐き出していた口と鼻から気味の悪い音を吹きながら、ルシフェルはアンジェの横にごろんと転がり、そのまま息絶えた。
「ひっ……ひっ……」
涙混じりの、引きつった呼吸をしていたアンジェに、フィーが声を掛ける。
「大丈夫?」
「……だ……だい、じょう、……っ」
アンジェは立ち上がりかけ、自分のシャツが破られていることに気付き、息を詰まらせた。
「……こ、の」
頭の中に噴き出した様々な感情を、アンジェは拳銃を抜いて発散した。
「このクズ野郎! この! このッ! このおおおッ!」
既に死んでいるルシフェルの体に、アンジェは弾丸を撃ち込み続けた。
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フィーもアンジェも、自分とそっくりな相手の顔のことを、それなりに美人な方だと互いに認識していたし、ジュリウスを始めとする、周囲の評価も高いものだった。だから何となく、自分たちのそれぞれの親――どちらかの母であるミカエルと、そしてもう一方の父であるルシフェルのことも、美しい顔立ちなのだろうと夢想していた。
「……っ」
だが今、目の前でフラフラとおぼつかない足取りでよろけているこのみすぼらしい中年男からは、美しいと評価できる要素を、どこにも感じ取ることができなかった。
「もう一度、聞くわよ。あんた、ルシフェル?」
「るし……? ふあぁあぁ? どうして知ってる? おぉ、俺の名前じゃねぇか! すごいな、何で分かったんだぁ~……?」
焦点の定まらぬ目をぎょろぎょろと動かし、ルシフェルは目の前にいる少女たちを眺めている。
「で、一人いくらだ? 2ドル? 3ドルか? いくらでも出すぜ。げへへ、いっぱい出すぜ。何回でも行けるぜぇ」
「あんたに聞きたいことがある」
思わず、アンジェの口からそんな言葉が漏れた。
「アンジェ?」
予定に無い行動を取ったアンジェを、フィーが止めようとする。
「何してんのよ? さっさと……」
「いいから。……ねえ、ルシフェル。あんた、なんで組織を抜けたのよ?」
「そぉーしきー? 行くわけねぇじゃねえか。誰が死んだなんてぇ、どぉだって~えよおぉ」
「葬式じゃない。組織よ。あんたが16年前にいた組織」
「そし……き? んあ、ぁ?」
何を聞いてもとぼけた返答しかせず、どうやらルシフェルはこの16年間の間に、すっかり廃人同然になってしまったようだった。
「何聞いても無駄って感じね。早く殺しましょ」
「待って。……ねえ、あたしたちのこと、分かる?」
「かわいいお嬢ちゃんたちだろぉ?」
「どーも。ねえ、16年前、あんたが組織を離れた直後くらいに、『なにか』無かったかしら?」
「なにか? なにが?」
「あたし、16歳なの。ピンと来るでしょ?」
「16歳……16年……」
ルシフェルはもごもごと何かをつぶやいていたが、突然目を見開いた。
「……お前……まさか」
「分かった? そうよ、あたし、……かあっちのあの娘のどっちかは、あんたの娘よ」
「娘? 俺の、娘? マジなのか?」
とろんとしていたルシフェルの目が、驚愕の色を帯びる。
「……へー……」
JJに似た、下卑た笑みを浮かべたルシフェルに、アンジェは危険を感じた。
「変なこと考えないでよ?」
「わ……分かってる、へへ、分かってるさ。だけどよ、あっちの娘も似てるなぁ、お前と。そいつも俺の娘か?」
「あんた、他にも子供作ってたの?」
「俺が知ってる限りじゃ5、6人はいるぜぇ、へっへへ。全部母親違いだけどな」
「クズね。……あっちはあんたの娘じゃないわよ。あんたの妹の娘よ」
「そんなら似たようなもんだ」
ルシフェルはにやぁ、と気持ちの悪い笑みを浮かべた。
「知ってるか? ミカエルが誰の子を産んだのか」
「は?」
「俺は知ってる。いや、俺だけしか知らない。……言ってる意味、分かるか?」
「なにを、……!」
思わず、アンジェはフィーの方を振り返る。その瞬間――。
「げへへ……っ」
ルシフェルがアンジェに抱きつき、そのまま組み敷いてきた。
「たまんねぇなぁ、ええ、おい? いい匂いだぜぇ、いひっ」
「な、……何すんのよ!?」
「母親が誰か知らねえけどよ、きっと母親似だろうぜ、お前。俺の好みだもんなぁ」
「……っ」
言葉にできないほどの嫌悪感を覚え、アンジェは抵抗する。
「離れなさいよ、この……っ!」
「ふへ、ふへ、へへへぇ……」
どうやらこの時完全に、ルシフェルは感情と本能だけで行動しており、理性が一切働いていないようだった。何故なら3メートルと離れていないはずのフィーのことをもう、すっかり忘れている様子だったからである。
なので――ルシフェルは簡単に、フィーが放った弾丸を食らった。
「ぷきゅ」
荒い息を吐き出していた口と鼻から気味の悪い音を吹きながら、ルシフェルはアンジェの横にごろんと転がり、そのまま息絶えた。
「ひっ……ひっ……」
涙混じりの、引きつった呼吸をしていたアンジェに、フィーが声を掛ける。
「大丈夫?」
「……だ……だい、じょう、……っ」
アンジェは立ち上がりかけ、自分のシャツが破られていることに気付き、息を詰まらせた。
「……こ、の」
頭の中に噴き出した様々な感情を、アンジェは拳銃を抜いて発散した。
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