DETECTIVE WESTERN
DETECTIVE WESTERN 15 ~ 新世界の誘い ~ 10
ウエスタン小説、第10話。
袂別。
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10.
自分たちの父親の、その醜い素顔を知ってしまった二人は、重い足取りでアジトへの帰路に就いていた。
「このまま帰ったらまずいわよね。まだ2人だってバラすわけには行かないもの」
「そうね……。まずあたしが先に帰るわ。いい?」
「ええ。夜になったら玄関開けてね」
「分かってる。……ねえ、フィー。この16年、言わないようにしてたけど、でも、どうしても今、聞きたい」
アンジェはフィーの手をぐっと握り、不安そうな目で見つめる。
「あんたは、どっちが、誰の子だと思う?」
「分かんないわよ、そんなの。どうだっていいことだし」
フィーは手を優しく握り返し、アンジェに向き直る。
「そもそもの話だけど、あんた、あのろくでなしが本当のこと言ってたと思う? あんなハッパ臭い奴の話、真に受けるわけ?」
「……そうね。普通に考えたら嘘か妄想よね、あんなの」
「あのクズはありもしない、とんでもない大ボラを吹いてあんたを油断させ、襲おうとした。あの晩のことは、それが全てよ」
「うん……」
しゅんとなるアンジェの肩を、フィーは優しく抱きしめる。
「ね、こうしましょうよ。あたしもあんたも、あのろくでなしの子供じゃなく、妖精(Fée)みたいに木のうろから産まれたってことにするのよ。それか、天使(Ange)みたいに神様が遣わしたってことでも、……ね?」
「マジに言ってんの? それこそ妄想じゃないの」
「いいじゃない。あんた、組織にいる奴が誰から産まれたか、全員知ってるわけ?」
「……知らないけど」
「でしょ? 他人が誰からどんな風にして産まれたかだなんて、見て分かんないのよ。じゃあもう適当ブッこいてごまかせばいいじゃない。だからもう、この話はおしまい。いいわよね?」
「分かった。とりあえず、……今は、考えない」
フィーといったん別れ、アンジェはアジトに戻った。と、アジトの中央、元は町の広場であったところに、何かが立っていることに気付く。
「……!」
とっさに近寄り、アンジェはそれが、この16年間自分とフィーを育ててくれた義父、ジュリウスを吊るした絞首台であることを理解した。
「な……んで……!?」
「戻ったな、トリーシャ」
と、絞首台を挟んで反対側からJJが、ジュリウスの実の息子であるトリスタンを伴って現れた。
「一体どこへ行っていたのだ?」
「あ……あたしの、ことよりっ」
アンジェは風に揺られているジュリウスを指差し、ほとんど絶叫に近い声で尋ねる。
「どうして、ジュリウスおじさまが吊るされているのよ!?」
「責任を取ってもらったのだ。お前が逃げた罪を問うたのだが、皆目見当も付かんと、とぼけたことを抜かしたものでな。監督不行き届きも甚(はなは)だしい。であるが故、その命を以て償ってもらった。
さあ、トリーシャ。何日も講義を怠っているだろう? すぐに続きを……」
「ふ……ふざけないでッ!」
アンジェは拳銃を抜き、JJに向けた。
「あたした、……あたしは、あたしの意志で外出しただけよ! 殺すことないじゃない!」
「それが監督不行き届きだと言っておるのだ。ジュリウスにはお前の管理を命じていた。こうして逃げ出す隙があった以上、その責務を全うできておらんと言うことだ。であれば生きる資格など無い」
「なんですって……!?」
JJの、あまりにも心無い、自分とジュリウスを見下した物言いに、アンジェは激昂する。
「『管理』って何よ!? あたしを家畜扱いするの!?」
「なんだ? 自覚しておらんかったのか?」
JJは呆れた目を、アンジェに向けた。
「お前は籠の鳥、単なる牛馬と同列に過ぎん身だ。ちょっと血統書が付いていると言うだけのな。地位を渡す、跡を継がせると言う話も、仮に余亡き後のことだ。生きている間は、お前にはびた一文やりはせん。そんなことも分かっておらんとはな。身の程を知れ、カスめが」
JJが杖を振り上げると同時に、どこからか手下たちが10名ほど、ぞろぞろと現れる。
「あの女に自分がただの卑しい雌豚に過ぎんことを、体で分からせてやれ」
「はっ……」
言われるがまま、手下たちは得物を手に、アンジェへと近付いて来た。その光景を見て、アンジェはすべてのことを、瞬時に理解する。
(……結局……)
アンジェは拳銃を構え、手下たちに発砲した。
(徹頭徹尾、最初から最後まで、何もかもこいつが――この大閣下なんて呼ばれていい気になってるクソジジイが、諸悪の根源だったのよ。こいつがいなきゃ、あたしとフィーが16年閉じ込められることだって、ジュリウスおじさまが死ぬことだって、絶対に無かった。
こいつを殺さなきゃ、あたしにも、フィーにも、未来なんて永遠にやって来やしない!)
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袂別。
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自分たちの父親の、その醜い素顔を知ってしまった二人は、重い足取りでアジトへの帰路に就いていた。
「このまま帰ったらまずいわよね。まだ2人だってバラすわけには行かないもの」
「そうね……。まずあたしが先に帰るわ。いい?」
「ええ。夜になったら玄関開けてね」
「分かってる。……ねえ、フィー。この16年、言わないようにしてたけど、でも、どうしても今、聞きたい」
アンジェはフィーの手をぐっと握り、不安そうな目で見つめる。
「あんたは、どっちが、誰の子だと思う?」
「分かんないわよ、そんなの。どうだっていいことだし」
フィーは手を優しく握り返し、アンジェに向き直る。
「そもそもの話だけど、あんた、あのろくでなしが本当のこと言ってたと思う? あんなハッパ臭い奴の話、真に受けるわけ?」
「……そうね。普通に考えたら嘘か妄想よね、あんなの」
「あのクズはありもしない、とんでもない大ボラを吹いてあんたを油断させ、襲おうとした。あの晩のことは、それが全てよ」
「うん……」
しゅんとなるアンジェの肩を、フィーは優しく抱きしめる。
「ね、こうしましょうよ。あたしもあんたも、あのろくでなしの子供じゃなく、妖精(Fée)みたいに木のうろから産まれたってことにするのよ。それか、天使(Ange)みたいに神様が遣わしたってことでも、……ね?」
「マジに言ってんの? それこそ妄想じゃないの」
「いいじゃない。あんた、組織にいる奴が誰から産まれたか、全員知ってるわけ?」
「……知らないけど」
「でしょ? 他人が誰からどんな風にして産まれたかだなんて、見て分かんないのよ。じゃあもう適当ブッこいてごまかせばいいじゃない。だからもう、この話はおしまい。いいわよね?」
「分かった。とりあえず、……今は、考えない」
フィーといったん別れ、アンジェはアジトに戻った。と、アジトの中央、元は町の広場であったところに、何かが立っていることに気付く。
「……!」
とっさに近寄り、アンジェはそれが、この16年間自分とフィーを育ててくれた義父、ジュリウスを吊るした絞首台であることを理解した。
「な……んで……!?」
「戻ったな、トリーシャ」
と、絞首台を挟んで反対側からJJが、ジュリウスの実の息子であるトリスタンを伴って現れた。
「一体どこへ行っていたのだ?」
「あ……あたしの、ことよりっ」
アンジェは風に揺られているジュリウスを指差し、ほとんど絶叫に近い声で尋ねる。
「どうして、ジュリウスおじさまが吊るされているのよ!?」
「責任を取ってもらったのだ。お前が逃げた罪を問うたのだが、皆目見当も付かんと、とぼけたことを抜かしたものでな。監督不行き届きも甚(はなは)だしい。であるが故、その命を以て償ってもらった。
さあ、トリーシャ。何日も講義を怠っているだろう? すぐに続きを……」
「ふ……ふざけないでッ!」
アンジェは拳銃を抜き、JJに向けた。
「あたした、……あたしは、あたしの意志で外出しただけよ! 殺すことないじゃない!」
「それが監督不行き届きだと言っておるのだ。ジュリウスにはお前の管理を命じていた。こうして逃げ出す隙があった以上、その責務を全うできておらんと言うことだ。であれば生きる資格など無い」
「なんですって……!?」
JJの、あまりにも心無い、自分とジュリウスを見下した物言いに、アンジェは激昂する。
「『管理』って何よ!? あたしを家畜扱いするの!?」
「なんだ? 自覚しておらんかったのか?」
JJは呆れた目を、アンジェに向けた。
「お前は籠の鳥、単なる牛馬と同列に過ぎん身だ。ちょっと血統書が付いていると言うだけのな。地位を渡す、跡を継がせると言う話も、仮に余亡き後のことだ。生きている間は、お前にはびた一文やりはせん。そんなことも分かっておらんとはな。身の程を知れ、カスめが」
JJが杖を振り上げると同時に、どこからか手下たちが10名ほど、ぞろぞろと現れる。
「あの女に自分がただの卑しい雌豚に過ぎんことを、体で分からせてやれ」
「はっ……」
言われるがまま、手下たちは得物を手に、アンジェへと近付いて来た。その光景を見て、アンジェはすべてのことを、瞬時に理解する。
(……結局……)
アンジェは拳銃を構え、手下たちに発砲した。
(徹頭徹尾、最初から最後まで、何もかもこいつが――この大閣下なんて呼ばれていい気になってるクソジジイが、諸悪の根源だったのよ。こいつがいなきゃ、あたしとフィーが16年閉じ込められることだって、ジュリウスおじさまが死ぬことだって、絶対に無かった。
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