DETECTIVE WESTERN
DETECTIVE WESTERN 15 ~ 新世界の誘い ~ 12
ウエスタン小説、第12話。
フェアリーとエンジェル(Fairy and Angel)。
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12.
「はぁ……はぁ……」
「ぜぇ……ぜぇ……」
組織のあった廃村が火の手に包まれ、JJの屋敷が音を立てて崩れるのを背中越しに聞き付けながら、二人は肩を貸し合う形で、よろよろとその場を後にした。
「あんた……大丈夫……?」
「こっちの……セリフよ……」
たった2人で300人以上の手勢がいた組織を壊滅させると言う、超人的な働きを見せたアンジェとフィーだったが、それでも多勢に無勢だったらしい。二人は全身傷だらけになり、どうにか生き残っていた馬に乗って、荒野へと出た。
「撃たれた?」
「かすり傷。あんたは?」
「あたしも。でも痛い」
「そうね。町、どこ行く?」
「50キロ西、……は、行っちゃダメよ。確かアンリ=ルイが基地作ってた」
「分かってる。反対方向ね」
「でも町は、80キロも向こうよ」
「大丈夫。……大丈夫、きっと」
切れ切れに言葉を交わしていたが、やがて二人は力尽き、途中で見付けた小屋に転がり込んだ。
「傷の手当て……しなきゃ……」
「……うん……あたし……大丈夫だから……あんたから……」
フィーが促したが、アンジェは答えず、フィーのシャツをまくった。
「……やっぱり……!」
フィーの肩には大穴が空いており、そこからどくどくと、血が噴き出していた。
「……大丈夫……どうってこと……無いわ……」
「バカ、放っといたら死んじゃうわよ!」
慌ててフィーの止血を施そうとしたが――アンジェも既に限界に達していたらしく、途中で強い疲労感に襲われ、包帯代わりのシャツの切れ端を握ったまま、意識が途切れてしまった。
「……!」
ふっと目を覚まし、アンジェは飛び起きた。
「フィー? どこ?」
辺りを見回したが、フィーの姿はどこにも無い。
「フィー! あんな傷でうろうろしてたら、マジに死んじゃうわよ! どこにいるのよ?」
小屋を飛び出し、アンジェは馬がいなくなっていることに気付いた。そして馬がいたところに、おびただしい血が残っていたことにも。
「……フィー……!?」
「……ってところまでが、あたしとあんたが一緒にいた思い出ね」
トリーシャの話が終わってもなお、エミルは真っ青な顔でうずくまっていたが、いつの間にか彼女は自分の肩をつかんでいた。
「……そうね。そこを大ケガしてたのよね、あんた」
「でも……でも……思い出せない……」
エミルはもう一方の手をこめかみに当て、震えている。
「あんたは……あんたは……誰?」
「あんたがあたしに言ってくれたことよ」
トリーシャはエミルの頭を優しく抱きしめ、こう続けた。
「あたしもあんたも、妖精(Fairy)みたいに木のうろから産まれたのよ。それか、天使(Angel)みたいに神様が遣わしたってことでもいいんだし。過去のことなんてもう、思い出す必要なんか無いわ」
「……でも……」
顔を上げたエミルに、トリーシャはにこ、と微笑みかけた。
「だから――はじめまして。あたしはトリーシャ・“エンジェル”・キャリコ。あなたのお名前は?」
「……エミル。エミル・“フェアリー”・ミヌー、よ」
「よろしくね。あたしに良く似た、さっきまで名前も知らなかった人」
「……うん。……よろしく、トリーシャ」
「ってことで、……いいでしょ?」
エミルから離れ、もう一度にこっと微笑んだトリーシャに、エミルは小さくうなずいて返した。
「そう、……そうね。あたしたちの過去はもう、どこにも無いってことで、いいのよね」
「そう言うことよ。誰だって、人の『本当の』過去のことなんか分からない。今話したことだって誰も――あたし本人でさえも――証明することなんか、永遠にできやしないわ。あたしたちの手に、いま確実にあるのは、未来だけ。まっさらな、新しい世界だけよ。
誰も知らない新しい世界で、あたしたちはあたしたちの人生を始めるのよ」
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フェアリーとエンジェル(Fairy and Angel)。
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「はぁ……はぁ……」
「ぜぇ……ぜぇ……」
組織のあった廃村が火の手に包まれ、JJの屋敷が音を立てて崩れるのを背中越しに聞き付けながら、二人は肩を貸し合う形で、よろよろとその場を後にした。
「あんた……大丈夫……?」
「こっちの……セリフよ……」
たった2人で300人以上の手勢がいた組織を壊滅させると言う、超人的な働きを見せたアンジェとフィーだったが、それでも多勢に無勢だったらしい。二人は全身傷だらけになり、どうにか生き残っていた馬に乗って、荒野へと出た。
「撃たれた?」
「かすり傷。あんたは?」
「あたしも。でも痛い」
「そうね。町、どこ行く?」
「50キロ西、……は、行っちゃダメよ。確かアンリ=ルイが基地作ってた」
「分かってる。反対方向ね」
「でも町は、80キロも向こうよ」
「大丈夫。……大丈夫、きっと」
切れ切れに言葉を交わしていたが、やがて二人は力尽き、途中で見付けた小屋に転がり込んだ。
「傷の手当て……しなきゃ……」
「……うん……あたし……大丈夫だから……あんたから……」
フィーが促したが、アンジェは答えず、フィーのシャツをまくった。
「……やっぱり……!」
フィーの肩には大穴が空いており、そこからどくどくと、血が噴き出していた。
「……大丈夫……どうってこと……無いわ……」
「バカ、放っといたら死んじゃうわよ!」
慌ててフィーの止血を施そうとしたが――アンジェも既に限界に達していたらしく、途中で強い疲労感に襲われ、包帯代わりのシャツの切れ端を握ったまま、意識が途切れてしまった。
「……!」
ふっと目を覚まし、アンジェは飛び起きた。
「フィー? どこ?」
辺りを見回したが、フィーの姿はどこにも無い。
「フィー! あんな傷でうろうろしてたら、マジに死んじゃうわよ! どこにいるのよ?」
小屋を飛び出し、アンジェは馬がいなくなっていることに気付いた。そして馬がいたところに、おびただしい血が残っていたことにも。
「……フィー……!?」
「……ってところまでが、あたしとあんたが一緒にいた思い出ね」
トリーシャの話が終わってもなお、エミルは真っ青な顔でうずくまっていたが、いつの間にか彼女は自分の肩をつかんでいた。
「……そうね。そこを大ケガしてたのよね、あんた」
「でも……でも……思い出せない……」
エミルはもう一方の手をこめかみに当て、震えている。
「あんたは……あんたは……誰?」
「あんたがあたしに言ってくれたことよ」
トリーシャはエミルの頭を優しく抱きしめ、こう続けた。
「あたしもあんたも、妖精(Fairy)みたいに木のうろから産まれたのよ。それか、天使(Angel)みたいに神様が遣わしたってことでもいいんだし。過去のことなんてもう、思い出す必要なんか無いわ」
「……でも……」
顔を上げたエミルに、トリーシャはにこ、と微笑みかけた。
「だから――はじめまして。あたしはトリーシャ・“エンジェル”・キャリコ。あなたのお名前は?」
「……エミル。エミル・“フェアリー”・ミヌー、よ」
「よろしくね。あたしに良く似た、さっきまで名前も知らなかった人」
「……うん。……よろしく、トリーシャ」
「ってことで、……いいでしょ?」
エミルから離れ、もう一度にこっと微笑んだトリーシャに、エミルは小さくうなずいて返した。
「そう、……そうね。あたしたちの過去はもう、どこにも無いってことで、いいのよね」
「そう言うことよ。誰だって、人の『本当の』過去のことなんか分からない。今話したことだって誰も――あたし本人でさえも――証明することなんか、永遠にできやしないわ。あたしたちの手に、いま確実にあるのは、未来だけ。まっさらな、新しい世界だけよ。
誰も知らない新しい世界で、あたしたちはあたしたちの人生を始めるのよ」
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トリーシャの言葉ですが、ブログ「矢端想さんの作品、
「さよならアトランタ」から引用させていただきました。
何故この言葉をトリーシャが発したのか。
そこにはある秘密があるのですが、それはまた、おいおい……。
トリーシャの言葉ですが、ブログ「矢端想さんの作品、
「さよならアトランタ」から引用させていただきました。
何故この言葉をトリーシャが発したのか。
そこにはある秘密があるのですが、それはまた、おいおい……。
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