DETECTIVE WESTERN
DETECTIVE WESTERN 15 ~ 新世界の誘い ~ 15
ウエスタン小説、最終話。
新世界へ!
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15.
「むぐ、もぐ……。一体何で、兄貴を追い出すようなことしたんスか?」
ベーコンをかじりながら尋ねたロバートに、エミルはクスクス笑いながら答える。
「気ままな旅に一つ、スパイスが欲しくてね」
「スパイス?」
「本当に単なる一人旅じゃ、退屈だもの。あたしを追いかけるような奴が一人くらいいてくれなきゃ、面白くないじゃない」
「ひっでーなぁ、姉御は」
そう返しつつも、ロバートの目は笑っている。
「ま、それにね。ある程度の期限も作っとかなきゃ、いつまで経っても終わりそうにないってのもあるし。だから旅は、あいつがあたしに追いついたらそこでおしまい。それから先は、もう二度と旅しないって決めたわ」
「あら。そんなこと、もう決めちゃっていいの?」
尋ねたトリーシャに、エミルは肩をすくめて返す。
「決めちゃうって言うか、きっと、決まっちゃうのよ。あいつがあたしに惚れてるってこと、十分分かってるつもりだし。あいつがあたしに追い付いたらきっと、それはもう熱烈なプロポーズをしてくれるはずよ。あたしが思わず一発オーケーしちゃうような、すっごいのをね。だからその時が、旅の終わりってわけ」
「今、素直にオーケーすりゃいいじゃないっスか。兄貴が可哀想っスよ」
突っ込んだロバートに、エミルはパチ、とウインクする。
「残念だけど今のあいつは、あたしの好みにまだほんのちょっと届かないのよ。未熟って感じなの」
「それで彼も放浪させて、熟成させようと言うわけか」
「なかなかに手ひどいことをするね、君は」
アーサー老人と局長も笑いながら、エミルをなじって来る。
「しかしまあ、私の目から見ても、アデルには今ひとつ貫禄が足りていないと感じることも事実だ。この旅を通じて、ちょっとくらいは成長してもらいたいものだ。と言うわけで、私も君の行動を評価する。恐らくここにいる皆もそうだろう」
「うむ。率直に言って今の赤毛君では、君には到底釣り合わん。君を射止めたいと彼が切に願っているのならば、是非とも荒野の風と砂で、彼自身の器を磨いてもらわねばな」
「俺も同感っス。ぶっちゃけ今の兄貴と姉御って、お姉ちゃんと弟って感じっスもん。似合いのカップルって感じじゃ……」
同調しかけたロバートの鼻を、エミルがぎゅっとつまむ。
「あへっ!?」
「あんたが言う筋合い無いでしょ? アデルに輪を掛けてヒヨッコのくせに。あたしやアデルのことをあれこれ言う前に、まず自分の相手探しなさいよ」
「……はひ。ふんまへん」
ロバートから手を離したところで、エミルは食卓を離れた。
「じゃ、もう行くわね。後片付けは任せちゃっていいかしら?」
「ええ、お安い御用よ。……じゃ、気を付けてね、フェアリー」
「あんたも無理しないようにね、エンジェル」
ぱし、とトリーシャと手を交わし、エミルは彼女の家を後にした。
「さて、と」
厩(うまや)に向かおうとして振り向いたところで、アレンが馬を引いてエミルのところへやって来た。
「エミル・ミヌー。あなたには、とても感謝しています」
「どーも」
ぺら、と手を振って答えたが、アレンは首をぶんぶんと横に振る。
「最後まで言わせて下さい」
「……どーぞ」
「あなたがいなければ、私はきっと、何一つ成し遂げられぬまま、荒野の土となっていたでしょう。あなたが助けてくれたからこそ、私は今、ここにいる。愛する女(ひと)と家族になれた。その御恩、一生忘れません」
「はぁ」
エミルは肩をすくめ、アレンの片眼鏡をひょい、と奪った。
「あっ」
「あたしから一つだけ忠告よ。こんな西部の真っ只中に、ヨーロピアンな片眼鏡なんて似合わないわ」
そう言いつつ、エミルは懐から眼鏡のフレームを取り出して片眼鏡のレンズをはめ込み、アレンの顔にかけた。
「結婚祝いよ。これからはそれ付けて過ごしなさい、アレン・キャリコ」
「……ありがとう」
頭を下げるアレンに構わず、エミルはアレンが引いてきた馬に乗った。
「じゃ、さよなら」
「あ、あの!」
アレンが慌てて顔を上げ、ずれた眼鏡を直しながら尋ねた。
「あなたは、これからどこへ?」

エミルは馬上でパチ、とウインクし、こう答えた。
「新しい世界よ」
DETECTIVE WESTERN 15 ~新世界の誘い~ THE END
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15.
「むぐ、もぐ……。一体何で、兄貴を追い出すようなことしたんスか?」
ベーコンをかじりながら尋ねたロバートに、エミルはクスクス笑いながら答える。
「気ままな旅に一つ、スパイスが欲しくてね」
「スパイス?」
「本当に単なる一人旅じゃ、退屈だもの。あたしを追いかけるような奴が一人くらいいてくれなきゃ、面白くないじゃない」
「ひっでーなぁ、姉御は」
そう返しつつも、ロバートの目は笑っている。
「ま、それにね。ある程度の期限も作っとかなきゃ、いつまで経っても終わりそうにないってのもあるし。だから旅は、あいつがあたしに追いついたらそこでおしまい。それから先は、もう二度と旅しないって決めたわ」
「あら。そんなこと、もう決めちゃっていいの?」
尋ねたトリーシャに、エミルは肩をすくめて返す。
「決めちゃうって言うか、きっと、決まっちゃうのよ。あいつがあたしに惚れてるってこと、十分分かってるつもりだし。あいつがあたしに追い付いたらきっと、それはもう熱烈なプロポーズをしてくれるはずよ。あたしが思わず一発オーケーしちゃうような、すっごいのをね。だからその時が、旅の終わりってわけ」
「今、素直にオーケーすりゃいいじゃないっスか。兄貴が可哀想っスよ」
突っ込んだロバートに、エミルはパチ、とウインクする。
「残念だけど今のあいつは、あたしの好みにまだほんのちょっと届かないのよ。未熟って感じなの」
「それで彼も放浪させて、熟成させようと言うわけか」
「なかなかに手ひどいことをするね、君は」
アーサー老人と局長も笑いながら、エミルをなじって来る。
「しかしまあ、私の目から見ても、アデルには今ひとつ貫禄が足りていないと感じることも事実だ。この旅を通じて、ちょっとくらいは成長してもらいたいものだ。と言うわけで、私も君の行動を評価する。恐らくここにいる皆もそうだろう」
「うむ。率直に言って今の赤毛君では、君には到底釣り合わん。君を射止めたいと彼が切に願っているのならば、是非とも荒野の風と砂で、彼自身の器を磨いてもらわねばな」
「俺も同感っス。ぶっちゃけ今の兄貴と姉御って、お姉ちゃんと弟って感じっスもん。似合いのカップルって感じじゃ……」
同調しかけたロバートの鼻を、エミルがぎゅっとつまむ。
「あへっ!?」
「あんたが言う筋合い無いでしょ? アデルに輪を掛けてヒヨッコのくせに。あたしやアデルのことをあれこれ言う前に、まず自分の相手探しなさいよ」
「……はひ。ふんまへん」
ロバートから手を離したところで、エミルは食卓を離れた。
「じゃ、もう行くわね。後片付けは任せちゃっていいかしら?」
「ええ、お安い御用よ。……じゃ、気を付けてね、フェアリー」
「あんたも無理しないようにね、エンジェル」
ぱし、とトリーシャと手を交わし、エミルは彼女の家を後にした。
「さて、と」
厩(うまや)に向かおうとして振り向いたところで、アレンが馬を引いてエミルのところへやって来た。
「エミル・ミヌー。あなたには、とても感謝しています」
「どーも」
ぺら、と手を振って答えたが、アレンは首をぶんぶんと横に振る。
「最後まで言わせて下さい」
「……どーぞ」
「あなたがいなければ、私はきっと、何一つ成し遂げられぬまま、荒野の土となっていたでしょう。あなたが助けてくれたからこそ、私は今、ここにいる。愛する女(ひと)と家族になれた。その御恩、一生忘れません」
「はぁ」
エミルは肩をすくめ、アレンの片眼鏡をひょい、と奪った。
「あっ」
「あたしから一つだけ忠告よ。こんな西部の真っ只中に、ヨーロピアンな片眼鏡なんて似合わないわ」
そう言いつつ、エミルは懐から眼鏡のフレームを取り出して片眼鏡のレンズをはめ込み、アレンの顔にかけた。
「結婚祝いよ。これからはそれ付けて過ごしなさい、アレン・キャリコ」
「……ありがとう」
頭を下げるアレンに構わず、エミルはアレンが引いてきた馬に乗った。
「じゃ、さよなら」
「あ、あの!」
アレンが慌てて顔を上げ、ずれた眼鏡を直しながら尋ねた。
「あなたは、これからどこへ?」

エミルは馬上でパチ、とウインクし、こう答えた。
「新しい世界よ」
DETECTIVE WESTERN 15 ~新世界の誘い~ THE END
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ブログ「妄想の荒野」の矢端想さんに挿絵を描いていただきました。
ありがとうございます!
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これにてDETECTIVE WESTERN、完結です。
7年にわたる長期連載となりましたが、ようやく終わりました。
次回作については以前お伝えした通り、まだ構想の段階です。
もし制作されたとしたら、恐らく来年の下半期くらいに連載されるかも知れません。
そして今月下旬に、今作「DW15」を加えた「DW III」を刊行する予定です。
こちらには書き下ろし「OW3 ~黒い雨が降る町~」を収録します。
今作で示したある謎についての回答みたいなものを、この行間から読み解けるかも。
ブログ「妄想の荒野」の矢端想さんに挿絵を描いていただきました。
ありがとうございます!
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これにてDETECTIVE WESTERN、完結です。
7年にわたる長期連載となりましたが、ようやく終わりました。
次回作については以前お伝えした通り、まだ構想の段階です。
もし制作されたとしたら、恐らく来年の下半期くらいに連載されるかも知れません。
そして今月下旬に、今作「DW15」を加えた「DW III」を刊行する予定です。
こちらには書き下ろし「OW3 ~黒い雨が降る町~」を収録します。
今作で示したある謎についての回答みたいなものを、この行間から読み解けるかも。
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携帯待受

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今日の旅岡さん

~ Comment ~
完結おめでとうございます☆
「DETECTIVE WESTERN」完結、誠におめでとうございます。
こちらこそありがとうございました。
お付き合いさせていただいて、とても楽しかったです。足掛け8年もやってた気がしませんね。物語の中では8年も経っていないせいかも知れません。
今後ますますのご活躍にご期待申し上げます。
さあ、新しい世界へ!
こちらこそありがとうございました。
お付き合いさせていただいて、とても楽しかったです。足掛け8年もやってた気がしませんね。物語の中では8年も経っていないせいかも知れません。
今後ますますのご活躍にご期待申し上げます。
さあ、新しい世界へ!
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NoTitle
2012年暮れくらいに思いついて、
矢端さんに恐る恐る挿絵のお願いをしたのも、
今ではいい思い出です。
(その思い出があるので7年だか8年だか、
あやふやになっていますが)
次の世界でもご一緒できれば幸いです。