「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第5部
蒼天剣・闘凪録 5
晴奈の話、第265話。
ロウの苦悩。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
5.
「そっか、やっぱり」
「ええ。……流石ですね、ナラサキさん。やっぱり、年の功ってヤツかな」
「はは……」
大会11日目(6月1日)の夕方、二日連続の雨。
シルビアの妊娠が発覚し、それを指摘してくれた楢崎に、ロウは改めて礼を言おうと宿を訪れていた。
「いやね、うちの時も同じ感じだったんだ。あんまり気分が悪そうだったから、何かの病かと思って慌ててたんだ、最初は」
「へぇ……」
ここ数ヶ月で、ロウと楢崎は非常に親しくなっていた。
「生まれるのは、いつくらいかな?」
「あ、えっと、医者の話では年末くらいだって」
「そうか、それは楽しみだね」
「ええ、はい。……へへへっ」
ロウの顔はにやけきっている。それを見た楢崎も、何だか嬉しくなった。
「近いうち、また教会へ遊びに行かせてもらうよ。何かお祝い、持っていくからね」
「あ、いやいや。そんな気ぃ遣ってもらわなくても」
「気にしないでくれよ、ロウくん。僕と君の仲じゃないか」
「へへ、どうも……」
嬉しそうにはにかむロウを見て、楢崎はふとあることが気になった。
「そう言えば、ロウくんは今回優勝すれば2連覇達成となるよね」
「ええ、まあ」
「新しい『キング』を名乗ったりはしないのかい?」
「……うーん」
ロウは腕を組んで考え込み、そのまま黙る。
「……キング、ねぇ。オレの器じゃないですよ、ハハハ」
「いやぁ、君ならできると思うんだけどな。と言うよりも、もう世代交代の時期だろうと思うんだ。
現キング、クラウンはあまりにも衰えていた。戦った時、僕は何とも言えない臭いを感じたんだ」
「臭い、ですか」
「言うなれば加齢臭。それも肉体から来るものではなく、その奥、魂が枯れた臭いだ」
「魂の加齢臭……?」
楢崎はあご全体を覆うように掌を当て、視線を床に落としながら語る。
「僕も正直、クラウンのいいうわさは聞かない。特にここ数年は、キングの座を守るために汚い裏工作を続けていると言う。
出場選手を闇討ちしたり、脅して出場をやめさせたりと、およそ公正とは言えないやり方で勝ちを拾おうとしている。そのこと自体、既に彼がまともに勝つことができない、勝つ力を失ったと物語っている」
「それはまあ、確かに。近頃じゃ引退もうわさされてますしね」
「枯れた花は二度と咲かない。魂もそれと同じだ。一度衰え、枯れた心は、元の形には戻し難い」
「じゃあ、もうキング復権は無いってコトですか」
「恐らくは。……僕はね、ロウくん。君こそが次世代のキングだと思っているんだ」
楢崎は顔を挙げ、ロウの目をじっと見た。お世辞や冗談で言っているようには見えず、ロウは思わず聞き返す。
「オレ、……が?」
「ああ。強く、そして清い。君ならきっと、キングの称号を受け継ぐことができる。そしてその名を清浄にすることも。
君こそ、闘技場の真の王者だよ」
「オレが、ねぇ」
熱く語る楢崎に対し、ロウは終始はにかんでいた。
教会へ帰る道中、傘を差して歩くロウの心の中で楢崎の熱い言葉が何度も繰り返される。
(『君こそ、王者だ』か。……どうなのかな。確かに、オレは強い。でもオレが清いなんて思えないぜ、ナラサキさん。
記憶が戻ったわけじゃないけど、心のどこかで覚えてるんだ。オレが悪者――衝動に駆られるまま敵を屠り続けた『修羅』だったことを。それを思い出す度、オレはひどく嫌な気分になる。
あの白い『猫』は、オレはもう過去に執着していないと言っていた。……違うぜ、それ。執着していないんじゃない、逃げたいんだ。過去に犯した過ちから、オレは逃げたい。新しい自分になって、何もかもやり直したいんだ。
……オレはいいヤツなんかじゃ無い。教会にいるのも、孤児院とか子供を養うとか言ってるのも、いいヤツになりたいからやっているんだ)
いつの間にか傘を持つ手は下がり、雨が直にロウの頭を叩いていた。
(オレは……、父親になると、言うけれど……、そんな資格が、このオレにあるのか……?)
雨は次第に激しくなっていく。体中に打ちつける雨が、なぜか泣き出したロウの涙を紛らわせ、覆い隠していた。
ゴールドコーストで最も熱く燃え、最も人を熱狂させる大会。
今期の闘いは参加する選手たちさえも一際、熱い思いで戦っている。
蒼天剣・闘凪録 終
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ロウの苦悩。
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「そっか、やっぱり」
「ええ。……流石ですね、ナラサキさん。やっぱり、年の功ってヤツかな」
「はは……」
大会11日目(6月1日)の夕方、二日連続の雨。
シルビアの妊娠が発覚し、それを指摘してくれた楢崎に、ロウは改めて礼を言おうと宿を訪れていた。
「いやね、うちの時も同じ感じだったんだ。あんまり気分が悪そうだったから、何かの病かと思って慌ててたんだ、最初は」
「へぇ……」
ここ数ヶ月で、ロウと楢崎は非常に親しくなっていた。
「生まれるのは、いつくらいかな?」
「あ、えっと、医者の話では年末くらいだって」
「そうか、それは楽しみだね」
「ええ、はい。……へへへっ」
ロウの顔はにやけきっている。それを見た楢崎も、何だか嬉しくなった。
「近いうち、また教会へ遊びに行かせてもらうよ。何かお祝い、持っていくからね」
「あ、いやいや。そんな気ぃ遣ってもらわなくても」
「気にしないでくれよ、ロウくん。僕と君の仲じゃないか」
「へへ、どうも……」
嬉しそうにはにかむロウを見て、楢崎はふとあることが気になった。
「そう言えば、ロウくんは今回優勝すれば2連覇達成となるよね」
「ええ、まあ」
「新しい『キング』を名乗ったりはしないのかい?」
「……うーん」
ロウは腕を組んで考え込み、そのまま黙る。
「……キング、ねぇ。オレの器じゃないですよ、ハハハ」
「いやぁ、君ならできると思うんだけどな。と言うよりも、もう世代交代の時期だろうと思うんだ。
現キング、クラウンはあまりにも衰えていた。戦った時、僕は何とも言えない臭いを感じたんだ」
「臭い、ですか」
「言うなれば加齢臭。それも肉体から来るものではなく、その奥、魂が枯れた臭いだ」
「魂の加齢臭……?」
楢崎はあご全体を覆うように掌を当て、視線を床に落としながら語る。
「僕も正直、クラウンのいいうわさは聞かない。特にここ数年は、キングの座を守るために汚い裏工作を続けていると言う。
出場選手を闇討ちしたり、脅して出場をやめさせたりと、およそ公正とは言えないやり方で勝ちを拾おうとしている。そのこと自体、既に彼がまともに勝つことができない、勝つ力を失ったと物語っている」
「それはまあ、確かに。近頃じゃ引退もうわさされてますしね」
「枯れた花は二度と咲かない。魂もそれと同じだ。一度衰え、枯れた心は、元の形には戻し難い」
「じゃあ、もうキング復権は無いってコトですか」
「恐らくは。……僕はね、ロウくん。君こそが次世代のキングだと思っているんだ」
楢崎は顔を挙げ、ロウの目をじっと見た。お世辞や冗談で言っているようには見えず、ロウは思わず聞き返す。
「オレ、……が?」
「ああ。強く、そして清い。君ならきっと、キングの称号を受け継ぐことができる。そしてその名を清浄にすることも。
君こそ、闘技場の真の王者だよ」
「オレが、ねぇ」
熱く語る楢崎に対し、ロウは終始はにかんでいた。
教会へ帰る道中、傘を差して歩くロウの心の中で楢崎の熱い言葉が何度も繰り返される。
(『君こそ、王者だ』か。……どうなのかな。確かに、オレは強い。でもオレが清いなんて思えないぜ、ナラサキさん。
記憶が戻ったわけじゃないけど、心のどこかで覚えてるんだ。オレが悪者――衝動に駆られるまま敵を屠り続けた『修羅』だったことを。それを思い出す度、オレはひどく嫌な気分になる。
あの白い『猫』は、オレはもう過去に執着していないと言っていた。……違うぜ、それ。執着していないんじゃない、逃げたいんだ。過去に犯した過ちから、オレは逃げたい。新しい自分になって、何もかもやり直したいんだ。
……オレはいいヤツなんかじゃ無い。教会にいるのも、孤児院とか子供を養うとか言ってるのも、いいヤツになりたいからやっているんだ)
いつの間にか傘を持つ手は下がり、雨が直にロウの頭を叩いていた。
(オレは……、父親になると、言うけれど……、そんな資格が、このオレにあるのか……?)
雨は次第に激しくなっていく。体中に打ちつける雨が、なぜか泣き出したロウの涙を紛らわせ、覆い隠していた。
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今日の旅岡さん

~ Comment ~
NoTitle
枯れたものを咲かすのは難しいですね。
プロ野球でも再度復活する人は結構一部だったりしますよね。
楽天の山崎とかは中日で干されて、楽天で復活しましたけどね。。。なかなか恐ろしい努力と運が必要になってきますよね。
プロ野球でも再度復活する人は結構一部だったりしますよね。
楽天の山崎とかは中日で干されて、楽天で復活しましたけどね。。。なかなか恐ろしい努力と運が必要になってきますよね。
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NoTitle
だからこそ、憧れられるのかも知れませんが。