「双月千年世界 短編・掌編・設定など」
央中神学事始
央中神学事始 6
ペドロの話、第6話。
カネモチの力技。
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6.
ペドロが酒場を出たところで、ニコル3世は単刀直入に尋ねてきた。
「どこで働いてはるんです?」
「今はゴメス運送って言って、えっと、この通りを西に」
「案内してもろてええです?」
「あっ、はい」
連れ立って歩き出したところで、3世は彼にいくつか質問する。
「歳は?」
「27です」
「奥さんとか付き合うてる子とか、いてます?」
「全然いません」
「家は? ここには出稼ぎしとるとかそう言う話は?」
「ありません。実家も追い出されました」
「他に資産は、……あるわけあらへんな。ほな身一つっちゅうことですな」
「そうなります」
「なるほどなるほど」
3世はチラ、とペドロを一瞥する。
「あんたの話は、神学に詳しいある情報筋から聞いとります。『ヘンな研究していきなり投獄されよった子供がおる』と。旧政府下では期待の神童や何やと持てはやされとったけども、思想犯として10年に渡って投獄。ほんで3年前にタイカさん、……いや、カツミ氏の思想犯一斉恩赦を受けて釈放された、……っちゅうとこまではすぐ分かったんですが、その後の行方をたどるのには、ホンマ苦労しましたで」
「はあ」
「ほんでもさっきの答えを聞く限り、どうやら私の依頼を請けられるだけの力はちゃんと残っとるみたいですな。となれば後の心配は、身辺整理だけですな」
「そうですね。でも」
懸念を口にしかけたペドロをさえぎるように、ニコル3世が続ける。
「私もそうヒマやありまへんから、ちゃっちゃと済ましてしまいましょ。……っと、ここですな?」
「あ、はい。でもゴールド……」「邪魔しますでー」
心配するペドロをよそに、3世はずかずかと事務所の中に入る。
「なんだ? 今日はもう閉めてんだけど」
事務所の奥から出てきた商会主に、3世が会釈する。
「単刀直入にお話さしてもらいますで。ここのラウバッハ君ですけども、今日で契約期間、終わりにしたって下さい」
「はあ?」
途端に、商会主の顔に朱が差す。
「何を寝言抜かしてやがる? そいつはあと3ヶ月はウチで……」「ほれ」
相手の言葉をさえぎるように、3世はかばんから袋を取り出し、事務机にどかっと置く。袋の口からじゃらじゃらと音を立てて銀貨があふれてきた途端、商会主は目を点にした。
「んなっ……!?」
「これでどないです? 他に何や言うときたいこと、あらはりますか?」
「……へ、へっへへへ」
商会主はころっと態度を変え、ペドロにぎこちない笑みを向けた。
「ご、ごくろうさん、ラウバッハ君! ありがとう! じゃあね!」
商会主は袋をひったくるようにして抱え込み、そのまま事務所の奥へ走り去ってしまった。
「はい一丁上がり。ほんで次、宿でしたな」
「……え、……えー、……えええ?」
ペドロは目の前で行われたことが現実とはとても思えず、呆然とするしかなかった。
その後、宿屋でも同様のことを行い、ペドロの身辺はあっさり片付けられてしまった。3年間を素寒貧で過ごしてきたペドロには、「カネで言うことを聞かせる」などと言う話はどこか絵空事、自分には一生縁の無い、別世界の寓話程度にしか思っていなかったが、こうして実際に、ニコル3世が二度、三度とその「力技」を行使するところを見せ付けられ、すっかり辟易してしまった。
「……なんか……その……何て言うか……汚い……って言うか……」
思わず、ペドロはそんなことを口走ってしまったが、3世は意に介した様子をチラリとも見せない。
「さっき言うた通りです。私は忙しい身ですからな、ごちゃごちゃ悪口陰口減らず口叩かれながらぐだぐだ交渉するより、二つ返事で了解してくれる方がええんですわ。向こうさんにしても、長々とごねられるよりも100万、200万をポンともらえる話をしてもろた方がありがたいでしょうしな。双方に利のある提案を、形として見せただけですわ」
「……はあ」
そう説明されても、ペドロにはまだ納得が行かない。しかし、彼の依頼を請けると言ってしまった以上は、彼のやることを黙って見ているしかなかった。
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ペドロが酒場を出たところで、ニコル3世は単刀直入に尋ねてきた。
「どこで働いてはるんです?」
「今はゴメス運送って言って、えっと、この通りを西に」
「案内してもろてええです?」
「あっ、はい」
連れ立って歩き出したところで、3世は彼にいくつか質問する。
「歳は?」
「27です」
「奥さんとか付き合うてる子とか、いてます?」
「全然いません」
「家は? ここには出稼ぎしとるとかそう言う話は?」
「ありません。実家も追い出されました」
「他に資産は、……あるわけあらへんな。ほな身一つっちゅうことですな」
「そうなります」
「なるほどなるほど」
3世はチラ、とペドロを一瞥する。
「あんたの話は、神学に詳しいある情報筋から聞いとります。『ヘンな研究していきなり投獄されよった子供がおる』と。旧政府下では期待の神童や何やと持てはやされとったけども、思想犯として10年に渡って投獄。ほんで3年前にタイカさん、……いや、カツミ氏の思想犯一斉恩赦を受けて釈放された、……っちゅうとこまではすぐ分かったんですが、その後の行方をたどるのには、ホンマ苦労しましたで」
「はあ」
「ほんでもさっきの答えを聞く限り、どうやら私の依頼を請けられるだけの力はちゃんと残っとるみたいですな。となれば後の心配は、身辺整理だけですな」
「そうですね。でも」
懸念を口にしかけたペドロをさえぎるように、ニコル3世が続ける。
「私もそうヒマやありまへんから、ちゃっちゃと済ましてしまいましょ。……っと、ここですな?」
「あ、はい。でもゴールド……」「邪魔しますでー」
心配するペドロをよそに、3世はずかずかと事務所の中に入る。
「なんだ? 今日はもう閉めてんだけど」
事務所の奥から出てきた商会主に、3世が会釈する。
「単刀直入にお話さしてもらいますで。ここのラウバッハ君ですけども、今日で契約期間、終わりにしたって下さい」
「はあ?」
途端に、商会主の顔に朱が差す。
「何を寝言抜かしてやがる? そいつはあと3ヶ月はウチで……」「ほれ」
相手の言葉をさえぎるように、3世はかばんから袋を取り出し、事務机にどかっと置く。袋の口からじゃらじゃらと音を立てて銀貨があふれてきた途端、商会主は目を点にした。
「んなっ……!?」
「これでどないです? 他に何や言うときたいこと、あらはりますか?」
「……へ、へっへへへ」
商会主はころっと態度を変え、ペドロにぎこちない笑みを向けた。
「ご、ごくろうさん、ラウバッハ君! ありがとう! じゃあね!」
商会主は袋をひったくるようにして抱え込み、そのまま事務所の奥へ走り去ってしまった。
「はい一丁上がり。ほんで次、宿でしたな」
「……え、……えー、……えええ?」
ペドロは目の前で行われたことが現実とはとても思えず、呆然とするしかなかった。
その後、宿屋でも同様のことを行い、ペドロの身辺はあっさり片付けられてしまった。3年間を素寒貧で過ごしてきたペドロには、「カネで言うことを聞かせる」などと言う話はどこか絵空事、自分には一生縁の無い、別世界の寓話程度にしか思っていなかったが、こうして実際に、ニコル3世が二度、三度とその「力技」を行使するところを見せ付けられ、すっかり辟易してしまった。
「……なんか……その……何て言うか……汚い……って言うか……」
思わず、ペドロはそんなことを口走ってしまったが、3世は意に介した様子をチラリとも見せない。
「さっき言うた通りです。私は忙しい身ですからな、ごちゃごちゃ悪口陰口減らず口叩かれながらぐだぐだ交渉するより、二つ返事で了解してくれる方がええんですわ。向こうさんにしても、長々とごねられるよりも100万、200万をポンともらえる話をしてもろた方がありがたいでしょうしな。双方に利のある提案を、形として見せただけですわ」
「……はあ」
そう説明されても、ペドロにはまだ納得が行かない。しかし、彼の依頼を請けると言ってしまった以上は、彼のやることを黙って見ているしかなかった。
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