「双月千年世界 短編・掌編・設定など」
央中神学事始
央中神学事始 7
ペドロの話、第7話。
神話の血筋。
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7.
ニコル3世は確かに、多忙の人であるらしかった。
「……うん、ほんなら500万で事足りるやろ、送金するわ。……ほんでな、南海のアレやけど……さよか、それやったらロクミンさんとこに一筆書いたら十分やな。……ホンマかいな、ほな私の方から先方さんに連絡しとくから……」
3世の本拠地、ゴールドコースト市国に戻る船の上でも、彼はずっと魔術頭巾を頭に巻き、あちこちと連絡を取り合っていた。
「ほんでな、……あ、ちょいゴメンな、10分くらいしてからまた連絡するわ」
と、手持ち無沙汰で甲板に突っ立っていたペドロと目が合い、3世は頭巾を外してちょいちょいと手招きした。
「な、なんでしょうか?」
やって来たペドロに、3世は「あんな」と前置きしてから、こう続けた。
「君、ホンマに青春丸ごとドブに捨てたんやなって」
「な、……何ですって?」
「連れて来てから毎日ずっと、甲板の上で朝から晩までボーッとしっぱなしやないか。海鳥かてもうちょっと表情あるで?」
「そう言われたって……」
ペドロがまごついている間に、3世は近くの長椅子に腰掛け、ペドロにも座るよう促す。
「ま、ちょいお話しようや」
「はあ」
素直にペドロが座ったところで、3世は渋い表情を浮かべつつ腕を組む。
「素直なんはええ。ええけどもな、27歳の態度やないな、それ」
「そうですか」
「何ちゅうかな、君、ええ意味での『クセ』が無いねんな。淡白っちゅうか、単調っちゅうか。こんな言い方したらアレやろけども、ムショ暮らし終わってからずっと、他人の言うこと片っ端からハイ、ハイ言うて過ごしてきたんやろ」
「そうですね」
「その理由は? 『特に反対する理由も無いですから』とか、そんなんか?」
「ええ、まあ」
「そやろなぁ」
3世は空を仰ぎ、それからペドロの肩をポンと叩く。
「人が反対する理由は大抵、自分が持っとる考えと合わへんからや。その『自分の考え』ちゅうもんは、これまでの人生で積み重ねてきた経験が素になる。君が反対も何もせえへんのは、その積み重ねがほとんどあらへんからやろうな。ま、流石に央中天帝教の聖書作ってって話は断りかけたけど、逆に言うたら、君が今持っとるもんはそれ、ただ一つなわけや。
私がこんなこと言うんは図々しいやろけども、央中に来たら、君には絶対、色んな経験さしたる。私に対しても、面と向かって嫌や言えるくらいにな」
「はあ……」
と、3世の狐耳がピク、と動く。どうやら耳に付けていた飾りが、通信術を検知したらしい。
「なんやな、10分待てっちゅうたのに……。ほな仕事に戻るわ」
「あ、はい」
3世はそそくさと立ち上がり、また頭巾を頭に巻き始めた。
「『トランスワード:リプライ』。はいよ、ゴールドマンや。……あのな、あのとかそのとかいらんから、ちゃっちゃと用件言うてや。……うん、うん、……あーはいはいはい、それか。ほんならな……」
話しながら、3世はどこかに歩き去って行く。彼の付き人たちも、それに追従してぞろぞろと移動していった。
(やっぱり僕なんかとは、生きてる世界が違うんだなぁ。それとも、彼が相当の変わり者なのか)
長椅子に座ったままでその後姿を見送りつつ、ペドロはため息をついた。
(そう言えばゴールドマン家は、エリザを開祖とする一族だったっけ。エリザも相当な変わり者だったらしいけど、……ああ言う性格は血筋なのかな? 何しろエリザは、悪口を言われても笑って返したって話だし。『大卿行北記』第3章で、ゼロ帝から密かに誹(そし)られていることをハンニバルから伝えられたエリザが『悪口は手立ての一切を失った者の、最後の悪あがきだ』と笑って返した、と。
多分3世も、その逸話を引用したんだろう。彼は彼で敬虔なんだろうな、……多分)
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神話の血筋。
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7.
ニコル3世は確かに、多忙の人であるらしかった。
「……うん、ほんなら500万で事足りるやろ、送金するわ。……ほんでな、南海のアレやけど……さよか、それやったらロクミンさんとこに一筆書いたら十分やな。……ホンマかいな、ほな私の方から先方さんに連絡しとくから……」
3世の本拠地、ゴールドコースト市国に戻る船の上でも、彼はずっと魔術頭巾を頭に巻き、あちこちと連絡を取り合っていた。
「ほんでな、……あ、ちょいゴメンな、10分くらいしてからまた連絡するわ」
と、手持ち無沙汰で甲板に突っ立っていたペドロと目が合い、3世は頭巾を外してちょいちょいと手招きした。
「な、なんでしょうか?」
やって来たペドロに、3世は「あんな」と前置きしてから、こう続けた。
「君、ホンマに青春丸ごとドブに捨てたんやなって」
「な、……何ですって?」
「連れて来てから毎日ずっと、甲板の上で朝から晩までボーッとしっぱなしやないか。海鳥かてもうちょっと表情あるで?」
「そう言われたって……」
ペドロがまごついている間に、3世は近くの長椅子に腰掛け、ペドロにも座るよう促す。
「ま、ちょいお話しようや」
「はあ」
素直にペドロが座ったところで、3世は渋い表情を浮かべつつ腕を組む。
「素直なんはええ。ええけどもな、27歳の態度やないな、それ」
「そうですか」
「何ちゅうかな、君、ええ意味での『クセ』が無いねんな。淡白っちゅうか、単調っちゅうか。こんな言い方したらアレやろけども、ムショ暮らし終わってからずっと、他人の言うこと片っ端からハイ、ハイ言うて過ごしてきたんやろ」
「そうですね」
「その理由は? 『特に反対する理由も無いですから』とか、そんなんか?」
「ええ、まあ」
「そやろなぁ」
3世は空を仰ぎ、それからペドロの肩をポンと叩く。
「人が反対する理由は大抵、自分が持っとる考えと合わへんからや。その『自分の考え』ちゅうもんは、これまでの人生で積み重ねてきた経験が素になる。君が反対も何もせえへんのは、その積み重ねがほとんどあらへんからやろうな。ま、流石に央中天帝教の聖書作ってって話は断りかけたけど、逆に言うたら、君が今持っとるもんはそれ、ただ一つなわけや。
私がこんなこと言うんは図々しいやろけども、央中に来たら、君には絶対、色んな経験さしたる。私に対しても、面と向かって嫌や言えるくらいにな」
「はあ……」
と、3世の狐耳がピク、と動く。どうやら耳に付けていた飾りが、通信術を検知したらしい。
「なんやな、10分待てっちゅうたのに……。ほな仕事に戻るわ」
「あ、はい」
3世はそそくさと立ち上がり、また頭巾を頭に巻き始めた。
「『トランスワード:リプライ』。はいよ、ゴールドマンや。……あのな、あのとかそのとかいらんから、ちゃっちゃと用件言うてや。……うん、うん、……あーはいはいはい、それか。ほんならな……」
話しながら、3世はどこかに歩き去って行く。彼の付き人たちも、それに追従してぞろぞろと移動していった。
(やっぱり僕なんかとは、生きてる世界が違うんだなぁ。それとも、彼が相当の変わり者なのか)
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(そう言えばゴールドマン家は、エリザを開祖とする一族だったっけ。エリザも相当な変わり者だったらしいけど、……ああ言う性格は血筋なのかな? 何しろエリザは、悪口を言われても笑って返したって話だし。『大卿行北記』第3章で、ゼロ帝から密かに誹(そし)られていることをハンニバルから伝えられたエリザが『悪口は手立ての一切を失った者の、最後の悪あがきだ』と笑って返した、と。
多分3世も、その逸話を引用したんだろう。彼は彼で敬虔なんだろうな、……多分)
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