「双月千年世界 短編・掌編・設定など」
央中神学事始
央中神学事始 10
ペドロの話、第10話。
暴君の如く。
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10.
ペドロは3世に要請し、彼を伴って古巣の神学府を訪ねた。
「ようこそゴールドマン卿、そしてラウバッハ卿」
一見、にこやかに応じているようではあったが、ペドロは相手が複雑な思いを抱いて自分たちに接していることを察していた。
「どうも、サラテガ枢機卿。お忙しい中、お手数おかけしますで」
一方の3世は、言葉こそやんわりとしたものではあったが、その態度からは明らかに、相手を軽んじている気配がにじみ出ていた。その態度をたしなめる様子も無く、サラテガ卿はすっと頭を下げ、笑顔を作って応じてきた。
「お気遣い、痛み入ります。本日のご用件について確認させていただきますが、我々の書庫を確認いたしたいとのお話でしたか」
「ええ。央中天帝教の聖書編纂には、あなた方の持っとる資料が不可欠ですからな」
ピク、とサラテガ卿の目尻が動いたが、3世に動じた様子は無い。
「さようでございますか。私個人といたしましては、探求心のある方を応援することはやぶさかではございません。しかしですな、原則的に神学府の書庫は、一般開放を行ってはおりません。ですので私の一存では、すぐにはお返事がいたしかね……」
と、サラテガ卿の返答をさえぎるように、3世はがしゃ、がしゃんと金袋を机に置いた。
「本日中に色良いお返事がいただけるようでしたら、こちらを今すぐ寄進いたします。また、書庫の使用期間中は使用料をお支払いいたします。どうぞ、よろしくご検討なさって下さい」
「……っ」
金袋を見た瞬間のサラテガ卿の顔色を見て、ペドロも顔をひきつらせた。
「3世、あの……」
ペドロは思わず声を上げていたが、3世は彼をにらみつけて黙らせる。
「今は私が話してんねん。君は大人しく座っとき」
「……」
それ以上何も言えず、ペドロは口をつぐむ。と、その間にサラテガ卿は人を呼び、二言、三言耳打ちした。
「少々お待ち下さい。管理責任者を呼んでおります」
「そうでっか」
3世は机に出された紅茶をぐい、と一息に飲み、金袋をつかんだ。
「ほんで、お次はなんです? その管理者さんが鍵番さん呼ばはるんですか? ほんで鍵番さんが『ちょうど今、鍵貸しとるとこなんですわ』とか言うて、その人探し回って2日、3日待って下さい言うて、ほんでそれっぽい人仕立ててその人に『鍵無くしましたわー』言わせて、いやーこれやと開けられませんなー、鍵作るんでもう1ヶ月待って下さーい、……ってとこですか。ずいぶん気ぃ長いことで」
「えっ!? い、いや、私はそんな……」
「あんたはやらんでも、他の誰かがいらん気ぃ利かしてやらはるかも知れませんな。ええですか、私は単純明快に話を進める方が好きですし、ありがたいんですわ。ヒマやありまへんからな。次々人呼んで人呼んであれやこれやグダグダグダグダしょうもない工作やらはるより、サラテガ枢機卿、あなたが今ここでスパっと動いてもろてええですか? それがでけへんっちゅうんやったら話はここまでです。当然お金は払いませんし、このまま帰らせてもらいます。
ほなお茶、ごちそうさんでした。ラウバッハ卿、失礼しましょか」
金袋をしまい込み、そそくさと席を立とうとしたところで、サラテガ卿は血相を変えた。
「おっ、お待ち下さい! お待ち下さい! 分かりました! ご、ご案内いたします!」
「そらどうも。ちゃっちゃとやって下さい」
慌てて立ち上がり、僧衣の裾を持ち上げて、自ら応接室の扉を開け頭を垂れたサラテガ卿にぺら、と手を振って続いた3世に対し、ペドロはまだ、椅子から立ち上がれずにいた。
「何をボーッとしてんねや。行くで」
そのペドロに対しても、3世は横柄に声をかけ、動くよう促した。
神学府への滞在中、3世は始終こんな調子で、我が物顔に振る舞っていた。当然、神学府の人間からは蛇蝎のごとく嫌われたが――。
「滑稽やな」
3世はそれを、鼻で笑っていた。
「そんなに私が嫌やったら、さっさと追い出したったらええねん。それがでけへんのんは、私のカネが目当てやからや。まったく、『聖職者』が聞いて呆れるっちゅうもんや。なあ、ペドロ君?」
「……」
ペドロはマルティーノ師からの言葉を思い出し、3世をいさめようかとも考えたが、結局それはできなかった。それをすれば自分も3世からの制裁を受け、聖書編纂事業から外されてしまうおそれがあったからだ。
この時代――誰も彼も3世に逆らうことはおろか、意見することすらもできなかった。
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暴君の如く。
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10.
ペドロは3世に要請し、彼を伴って古巣の神学府を訪ねた。
「ようこそゴールドマン卿、そしてラウバッハ卿」
一見、にこやかに応じているようではあったが、ペドロは相手が複雑な思いを抱いて自分たちに接していることを察していた。
「どうも、サラテガ枢機卿。お忙しい中、お手数おかけしますで」
一方の3世は、言葉こそやんわりとしたものではあったが、その態度からは明らかに、相手を軽んじている気配がにじみ出ていた。その態度をたしなめる様子も無く、サラテガ卿はすっと頭を下げ、笑顔を作って応じてきた。
「お気遣い、痛み入ります。本日のご用件について確認させていただきますが、我々の書庫を確認いたしたいとのお話でしたか」
「ええ。央中天帝教の聖書編纂には、あなた方の持っとる資料が不可欠ですからな」
ピク、とサラテガ卿の目尻が動いたが、3世に動じた様子は無い。
「さようでございますか。私個人といたしましては、探求心のある方を応援することはやぶさかではございません。しかしですな、原則的に神学府の書庫は、一般開放を行ってはおりません。ですので私の一存では、すぐにはお返事がいたしかね……」
と、サラテガ卿の返答をさえぎるように、3世はがしゃ、がしゃんと金袋を机に置いた。
「本日中に色良いお返事がいただけるようでしたら、こちらを今すぐ寄進いたします。また、書庫の使用期間中は使用料をお支払いいたします。どうぞ、よろしくご検討なさって下さい」
「……っ」
金袋を見た瞬間のサラテガ卿の顔色を見て、ペドロも顔をひきつらせた。
「3世、あの……」
ペドロは思わず声を上げていたが、3世は彼をにらみつけて黙らせる。
「今は私が話してんねん。君は大人しく座っとき」
「……」
それ以上何も言えず、ペドロは口をつぐむ。と、その間にサラテガ卿は人を呼び、二言、三言耳打ちした。
「少々お待ち下さい。管理責任者を呼んでおります」
「そうでっか」
3世は机に出された紅茶をぐい、と一息に飲み、金袋をつかんだ。
「ほんで、お次はなんです? その管理者さんが鍵番さん呼ばはるんですか? ほんで鍵番さんが『ちょうど今、鍵貸しとるとこなんですわ』とか言うて、その人探し回って2日、3日待って下さい言うて、ほんでそれっぽい人仕立ててその人に『鍵無くしましたわー』言わせて、いやーこれやと開けられませんなー、鍵作るんでもう1ヶ月待って下さーい、……ってとこですか。ずいぶん気ぃ長いことで」
「えっ!? い、いや、私はそんな……」
「あんたはやらんでも、他の誰かがいらん気ぃ利かしてやらはるかも知れませんな。ええですか、私は単純明快に話を進める方が好きですし、ありがたいんですわ。ヒマやありまへんからな。次々人呼んで人呼んであれやこれやグダグダグダグダしょうもない工作やらはるより、サラテガ枢機卿、あなたが今ここでスパっと動いてもろてええですか? それがでけへんっちゅうんやったら話はここまでです。当然お金は払いませんし、このまま帰らせてもらいます。
ほなお茶、ごちそうさんでした。ラウバッハ卿、失礼しましょか」
金袋をしまい込み、そそくさと席を立とうとしたところで、サラテガ卿は血相を変えた。
「おっ、お待ち下さい! お待ち下さい! 分かりました! ご、ご案内いたします!」
「そらどうも。ちゃっちゃとやって下さい」
慌てて立ち上がり、僧衣の裾を持ち上げて、自ら応接室の扉を開け頭を垂れたサラテガ卿にぺら、と手を振って続いた3世に対し、ペドロはまだ、椅子から立ち上がれずにいた。
「何をボーッとしてんねや。行くで」
そのペドロに対しても、3世は横柄に声をかけ、動くよう促した。
神学府への滞在中、3世は始終こんな調子で、我が物顔に振る舞っていた。当然、神学府の人間からは蛇蝎のごとく嫌われたが――。
「滑稽やな」
3世はそれを、鼻で笑っていた。
「そんなに私が嫌やったら、さっさと追い出したったらええねん。それがでけへんのんは、私のカネが目当てやからや。まったく、『聖職者』が聞いて呆れるっちゅうもんや。なあ、ペドロ君?」
「……」
ペドロはマルティーノ師からの言葉を思い出し、3世をいさめようかとも考えたが、結局それはできなかった。それをすれば自分も3世からの制裁を受け、聖書編纂事業から外されてしまうおそれがあったからだ。
この時代――誰も彼も3世に逆らうことはおろか、意見することすらもできなかった。
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