「双月千年世界 短編・掌編・設定など」
央中神学事始
央中神学事始 12
ペドロの話、第12話。
3世の罠。
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12.
2冊目の聖書が刊行され、央中天帝教の支持者、信奉者が増加するに伴い、その教主であるペドロに対する信用と信頼は、右肩上がりに増していった。
こうなってくると――実に勝手なことに――3世は一転、ペドロの存在を疎み始めた。
「独立……ですか?」
331年、ペドロは3世の屋敷に呼び出され、彼から央中正教会を金火狐財団の一部門から、完全に独立した組織に改編してはどうかと打診された。
「せや。何やかんや言うても、央中正教会もこの10年で相当大きくなったからな。もう十分、寄進でやりくりでける状況になっとるはずや。このまんま私がカネ出しっぱの状態も、君にはきゅうくつやろからな。君も私からやいやい言われて聖書書くより、自分の思うままにやってみたいやろ?」
「いや……しかし……今まで3世が私の編纂事業に口を出されたことはございませんよね?」
「ま、ま、今まではな。ほんでも歳食ってくるとな、色々いらん口出したくなるもんやねん。下手したら今まで書いてきたヤツまでケチ付けたなるかも分からん。そこできっちり財団から離れて、独立性を保てるようにした方がええんとちゃうやろか、と」
「はあ」
元来人の良いペドロは、3世の本心・本意に気付くことも無く、その提案を受け入れた。
しかしこの提案がかえって正教会の独立性を損ね、より一層、3世による支配を強める結果となってしまった。
「寄進で正教会の運営をまかなえる」として独立を果たしたものの、実際はそこまでの収入は得られなかった。と言うよりも獲得できる収入に対し、支出が大きすぎたのだ。即ち、財団から資金を与えられていた頃と同様の、大々的な活動を行ったために、あっと言うまに赤字経営に陥ってしまったのである。
まもなく債務超過となり、1冊目の聖書を上梓した際にペドロが得た報酬10億クラムを投じてもなお足りず、事実上破綻した正教会が頼れるのは、3世を置いて他に無かった。だが3世は「あんたらがでける言うて独立したんやろ? 自分で何とかせえや」と冷たくあしらい、それでもなおすがってきた彼らに、「情け」と称して多額のカネを貸し付け、同時に金火狐商会の銀行・金融部門から、会計監査員・財務指導員を大量に出向させた。
これにより正教会は莫大な負債で縛られ、完全に3世の言いなり、傀儡の存在となってしまった。その上で3世は正教会をそそのかして、この負債の原因が教主ペドロの資金濫用にあると糾弾させて、ペドロを教主の座から追い出してしまったのである。
ふたたび野に下ることとなったペドロではあったが、それでも20年前のように、誰一人手を差し伸べる者の無い、不遇の中に落ちるようなことにはならなかった。関係修復を果たした神学府から招かれたのである。
流石に異教徒となったペドロを正規雇用することは難しかったが、それを差し引いても、彼の見識と神学研究に対する姿勢は神学府の規範、鑑とするにふさわしかったことから、ペドロは客員教授として在籍することとなった。また、ペドロの恩師であるマルティーノ師も、同様の待遇で招聘されたのだが――。
「どうしても、来てはいただけませんか……?」
「ええ。山や海を渡るには、最早歳を取りすぎました。この老体では残念ながら、央北へ行くことはできないでしょう」
マルティーノ師は市国に残ることを選び、ペドロに別れを告げた。その代わり――。
「孫のロレーナを連れて行って下さい。私の欲目を差し引いても、優秀な娘です。きっと君の助けとなってくれるでしょう。彼女もこのまま市国に住み、3世の意向に沿うような研究をさせられるよりは、君の下に付いて真理を追求する道を選びたいと言っていましたから」
「分かりました」
こうしてペドロはマルティーノ師の孫娘、ロレーナを伴い、央北へと戻った。
マルティーノ師は、未だ独身のペドロに娶(めあわ)せるつもりでロレーナを随行させた節があり、また、ロレーナの方も――20歳以上の年の差はあったものの――ペドロを敬愛しており、二人は央北に渡って2年後、結婚することとなった。
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3世の罠。
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12.
2冊目の聖書が刊行され、央中天帝教の支持者、信奉者が増加するに伴い、その教主であるペドロに対する信用と信頼は、右肩上がりに増していった。
こうなってくると――実に勝手なことに――3世は一転、ペドロの存在を疎み始めた。
「独立……ですか?」
331年、ペドロは3世の屋敷に呼び出され、彼から央中正教会を金火狐財団の一部門から、完全に独立した組織に改編してはどうかと打診された。
「せや。何やかんや言うても、央中正教会もこの10年で相当大きくなったからな。もう十分、寄進でやりくりでける状況になっとるはずや。このまんま私がカネ出しっぱの状態も、君にはきゅうくつやろからな。君も私からやいやい言われて聖書書くより、自分の思うままにやってみたいやろ?」
「いや……しかし……今まで3世が私の編纂事業に口を出されたことはございませんよね?」
「ま、ま、今まではな。ほんでも歳食ってくるとな、色々いらん口出したくなるもんやねん。下手したら今まで書いてきたヤツまでケチ付けたなるかも分からん。そこできっちり財団から離れて、独立性を保てるようにした方がええんとちゃうやろか、と」
「はあ」
元来人の良いペドロは、3世の本心・本意に気付くことも無く、その提案を受け入れた。
しかしこの提案がかえって正教会の独立性を損ね、より一層、3世による支配を強める結果となってしまった。
「寄進で正教会の運営をまかなえる」として独立を果たしたものの、実際はそこまでの収入は得られなかった。と言うよりも獲得できる収入に対し、支出が大きすぎたのだ。即ち、財団から資金を与えられていた頃と同様の、大々的な活動を行ったために、あっと言うまに赤字経営に陥ってしまったのである。
まもなく債務超過となり、1冊目の聖書を上梓した際にペドロが得た報酬10億クラムを投じてもなお足りず、事実上破綻した正教会が頼れるのは、3世を置いて他に無かった。だが3世は「あんたらがでける言うて独立したんやろ? 自分で何とかせえや」と冷たくあしらい、それでもなおすがってきた彼らに、「情け」と称して多額のカネを貸し付け、同時に金火狐商会の銀行・金融部門から、会計監査員・財務指導員を大量に出向させた。
これにより正教会は莫大な負債で縛られ、完全に3世の言いなり、傀儡の存在となってしまった。その上で3世は正教会をそそのかして、この負債の原因が教主ペドロの資金濫用にあると糾弾させて、ペドロを教主の座から追い出してしまったのである。
ふたたび野に下ることとなったペドロではあったが、それでも20年前のように、誰一人手を差し伸べる者の無い、不遇の中に落ちるようなことにはならなかった。関係修復を果たした神学府から招かれたのである。
流石に異教徒となったペドロを正規雇用することは難しかったが、それを差し引いても、彼の見識と神学研究に対する姿勢は神学府の規範、鑑とするにふさわしかったことから、ペドロは客員教授として在籍することとなった。また、ペドロの恩師であるマルティーノ師も、同様の待遇で招聘されたのだが――。
「どうしても、来てはいただけませんか……?」
「ええ。山や海を渡るには、最早歳を取りすぎました。この老体では残念ながら、央北へ行くことはできないでしょう」
マルティーノ師は市国に残ることを選び、ペドロに別れを告げた。その代わり――。
「孫のロレーナを連れて行って下さい。私の欲目を差し引いても、優秀な娘です。きっと君の助けとなってくれるでしょう。彼女もこのまま市国に住み、3世の意向に沿うような研究をさせられるよりは、君の下に付いて真理を追求する道を選びたいと言っていましたから」
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