「双月千年世界 短編・掌編・設定など」
央中神学事始
央中神学事始 13
ペドロの話、第13話。
聖書をめぐる騒動。
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13.
神学府に出戻って以降も、ペドロは央中天帝教の聖書編纂を続けていた。正教会を追い出された身であるため、例え聖書が完成したとしても、それは外典扱い、まともな書物として扱ってもらえないのは明らかであったが、それでも彼は没頭していた。神学者、聖職者として以前に、彼自身がエリザと言う存在に惹かれていたからである。
そして妻ロレーナや、異教であるはずの神学府からも厚い協力を得て336年、ペドロは3冊目となる聖書、「北方見聞記」を上梓した。これはエリザが二天戦争に従軍した頃の記録を元にしたものであり、単に生活の規範となる聖書としてだけではなく、英雄譚、戦記としての面白さも併せ持っていた。
神学府から刊行されたこの本は央北、央中を問わず人気を博し、神学府にとっては空前の収益を記録し、ペドロは大いに感謝された。一方で央中正教会の人間も、これ以上聖書となる書物が製作されることは無いだろうと諦めていたところへの、この発刊である。3世の手前、この書物を大っぴらに持てはやすことはできなかったが、それでも密かに誰もが所有し、着実に広まっていた。
勿論、この状況でただ一人、業を煮やしたのは3世である。放逐したはずのペドロが、この期に及んでまだ聖書を書いていたこと、そしてその聖書が新たな人気を博したこと、さらには徹底的に評判を貶めたはずのペドロが再評価されてしまったことに、3世は憤慨した。
そして翌年の337年、3世は実力行使に出た。「『北方見聞記』は正教会を追い出された破戒僧が正当な権利無く製作した、正教会を貶める書物である」と、正教会に主張させたのである。さらにはこの書物で得た利益に対しても、ペドロ及び天帝教教会に受け取る権利は無いとし、それまで得た収益全額と、その20倍に相当する巨額の賠償金、さらにペドロの逮捕・処刑までをも請求させた。
当然、こんな法外な額を天帝教教会が支払えるはずも無く、ましてや当代最高の神学者、聖書編纂の第一人者であるペドロに罰を与えてよしとするはずも無い。天帝教教会側はこれらの無法な請求が正教会の主張とは到底考えられない、3世の利己的な要求でしかないとして、断固反対した。
これを受けて3世は、主張が自分自身のものであると悪びれる様子も無く認めた上で、この要求が通るまで央北天帝教信者、及び央北天帝教に通じる商会・商店との取引と融資をすべて停止すると答えた。当然、こんなことをされては天帝教教会の収入は激減してしまう。慌てた天帝教教会は神学府に、ペドロを引き渡すよう命令したが――。
「そんなことはできるはずもございません」
神学府のトップ、サラテガ枢機卿はその要求をきっぱり跳ね除けた。
「考えてもみて下さい。その要求を呑むことは即ち、我々が央中天帝教の、いや、ゴールドマンの言いなりになったと、世界中から認識されると言うことです。もし要求を呑めば、以後、我々がどれほど努力を重ねたとしても、決して人々は、天帝教を神聖なもの、規範とすべきものとは見なさないでしょう。あの悪逆非道の『狐』に、いや、カネの力に屈した、単なる拝金主義者の集団として嘲られ、軽んじられる日々が待つのみです」
この主張ももっともなものであり、天帝教教会も考えを改め、3世の要求を再度退けた。だが一方、3世が温情など見せるはずも無く、彼は宣言通りに経済制裁を実行した。
以後、340年までの3年間、央北の経済は大幅に冷え込むこととなったが――それでも天帝教教会も、神学府も、そしてペドロも屈服することは無かった。
そしてその内に、2つの転機が訪れることとなった。
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聖書をめぐる騒動。
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13.
神学府に出戻って以降も、ペドロは央中天帝教の聖書編纂を続けていた。正教会を追い出された身であるため、例え聖書が完成したとしても、それは外典扱い、まともな書物として扱ってもらえないのは明らかであったが、それでも彼は没頭していた。神学者、聖職者として以前に、彼自身がエリザと言う存在に惹かれていたからである。
そして妻ロレーナや、異教であるはずの神学府からも厚い協力を得て336年、ペドロは3冊目となる聖書、「北方見聞記」を上梓した。これはエリザが二天戦争に従軍した頃の記録を元にしたものであり、単に生活の規範となる聖書としてだけではなく、英雄譚、戦記としての面白さも併せ持っていた。
神学府から刊行されたこの本は央北、央中を問わず人気を博し、神学府にとっては空前の収益を記録し、ペドロは大いに感謝された。一方で央中正教会の人間も、これ以上聖書となる書物が製作されることは無いだろうと諦めていたところへの、この発刊である。3世の手前、この書物を大っぴらに持てはやすことはできなかったが、それでも密かに誰もが所有し、着実に広まっていた。
勿論、この状況でただ一人、業を煮やしたのは3世である。放逐したはずのペドロが、この期に及んでまだ聖書を書いていたこと、そしてその聖書が新たな人気を博したこと、さらには徹底的に評判を貶めたはずのペドロが再評価されてしまったことに、3世は憤慨した。
そして翌年の337年、3世は実力行使に出た。「『北方見聞記』は正教会を追い出された破戒僧が正当な権利無く製作した、正教会を貶める書物である」と、正教会に主張させたのである。さらにはこの書物で得た利益に対しても、ペドロ及び天帝教教会に受け取る権利は無いとし、それまで得た収益全額と、その20倍に相当する巨額の賠償金、さらにペドロの逮捕・処刑までをも請求させた。
当然、こんな法外な額を天帝教教会が支払えるはずも無く、ましてや当代最高の神学者、聖書編纂の第一人者であるペドロに罰を与えてよしとするはずも無い。天帝教教会側はこれらの無法な請求が正教会の主張とは到底考えられない、3世の利己的な要求でしかないとして、断固反対した。
これを受けて3世は、主張が自分自身のものであると悪びれる様子も無く認めた上で、この要求が通るまで央北天帝教信者、及び央北天帝教に通じる商会・商店との取引と融資をすべて停止すると答えた。当然、こんなことをされては天帝教教会の収入は激減してしまう。慌てた天帝教教会は神学府に、ペドロを引き渡すよう命令したが――。
「そんなことはできるはずもございません」
神学府のトップ、サラテガ枢機卿はその要求をきっぱり跳ね除けた。
「考えてもみて下さい。その要求を呑むことは即ち、我々が央中天帝教の、いや、ゴールドマンの言いなりになったと、世界中から認識されると言うことです。もし要求を呑めば、以後、我々がどれほど努力を重ねたとしても、決して人々は、天帝教を神聖なもの、規範とすべきものとは見なさないでしょう。あの悪逆非道の『狐』に、いや、カネの力に屈した、単なる拝金主義者の集団として嘲られ、軽んじられる日々が待つのみです」
この主張ももっともなものであり、天帝教教会も考えを改め、3世の要求を再度退けた。だが一方、3世が温情など見せるはずも無く、彼は宣言通りに経済制裁を実行した。
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そしてその内に、2つの転機が訪れることとなった。
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