「双月千年世界 短編・掌編・設定など」
央中神学事始
央中神学事始 20
ペドロの話、第20話。
博士の復讐。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
20.
時間と場所は349年、モールが拘束されていた宿に戻る。
話し疲れ、休憩を取っていたモールのところへ、ナイジェル博士が訪ねて来た。
「休憩中、失礼する」
「失礼なんかしないでほしいんだけどね」
「言葉の綾だ。用がある」
「私にゃ無いね」
つっけんどんに対応するモールに、ナイジェル博士はこう切り出した。
「3世には腹が立つだろう?」
「そりゃまあねぇ」
「私もだ」
「へーぇ?」
煙草を口にくわえたまま、モールはナイジェル博士を横目で捉える。
「何されたね?」
「あらゆる嫌がらせを受けている。基本的に私と言う人間が気に入らんらしい」
「ま、人間関係ダメな時はダメだろうしね。で?」
「少しばかり『お返し』をしてやろうと考えている」
「少しで済むかねぇ?」
そう問われ、ナイジェル博士の顔がこわばる。
「どうしてそんなことを?」
「私にわざわざ声かけて『仕返ししよう』なんて、少しで済む話じゃなさそうだしね」
「……」
しばらく黙り込んでいたが、やがて決心したような面持ちで、ナイジェル博士は話を再開した。
「あなたにお願いする内容自体は単純だ。今回の経緯を、悪しざまに吹聴してくれればそれでいい」
「何て言ってほしいね?」
「どうとでも。とにかく3世が悪者になるように、そして、あなたが吹聴した本人だと分かるような内容で」
「私と分かるように?」
モールは煙草を床に捨て、ナイジェル博士を薄目でにらんだ。
「そうなりゃ増上慢ストップ高状態のフォコは間違い無く、私を追い回すだろうね」
「だが相手の手の内も知っていて、捕まえようと目論んでいることも分かっていれば、あなたは捕まるような方ではない。そうだろう?」
「まーね」
「決して捕まえられない相手を捕まえようと血道を上げている間に、私は別の工作を仕掛けるつもりだ。それが功を奏せば、3世に大きなダメージを与えられるだろう」
「やっぱりオオゴトになるんじゃないね。……ま」
新しい煙草を手に取り、モールはニヤッと笑った。
「40年ほど前にしてあげたお説教を、すっかり忘れてるみたいだしね。ここいらでちょっと、痛い目見させとかなきゃならないね」
「説教?」
「こう言ったのさ――全人類の中で自分が一番だなんてコトを決める権利なんか、誰にだって無い。君自身にさえもね、……ってね」
3世が執拗にモールを捜索していたその陰で、ナイジェル博士は密かに3世の子供たちを招集していた。
「話と言うのは、他でも無い。君たちもそろそろ『親離れ』してみてはどうかと思ってね」
「はあ……?」
この頃、3世の子供世代はいずれも30代後半から40代半ばとなっており、金火狐財団の要職に就いた者もいたが、ここに集められた3人はそうではなく、はっきり言えば凡庸な者たちばかりだった。大した仕事もせず、また、大任を与えられることも無く、半ば遊び呆け、半ば飼い殺しとなっているような彼らに、ナイジェル博士はずばりと言ってのけた。
「君たちはいずれも既に家庭を持ち、子供もいる身だ。傍から見れば成功せし者と言えるだろう。だが、感じはしないかね? 配偶者、あるいは子供から、『そろそろ大きな仕事をしないの?』『そろそろ偉くなれないの?』『この人はあのニコル3世の血を引いているはずなのに』『この人はあの金火狐一族のはずなのに』と言いたげな視線を」
「う……」
子供たちは、揃って苦い顔をする。
「とは言え、その主たる理由は君たちが無能だからでも、いつまでも子供気分でいるからでもあるまい? ズバリ言ってやろう。3世がいつまでもいつまでも引退も隠居もせず、金火狐一族総帥の座に収まり続けているからに他ならない」
「いや、しかし、長姉のイヴォラは市政局長になりましたし、公安局にも……」「では君たちはいつそうなるのかね?」
問われるが、誰も答えない。
「答えてやろうか? 答えは『いつまでもなれない』だ。その理由も言ってほしいかね?」
「……」
「沈黙は肯定と受け取るぞ。どうだ?」
「……」
「よろしい。でははっきり言ってやろう。君たち姉弟は全員が全員、3世に愛されてはいない。もっとはっきり言えば、君たち3名がその、愛されていない側の人間だ」
「……っ」
「愛されていないから機会も地位も与えられず、十分なカネも与えられない。他の姉弟には十分以上に与えられていたモノが、だ」
「な、ナイジェルさん、あなた……っ」
一人が憤った顔をし、立ち上がりかけたが、ナイジェル博士はやんわりと手をかざしてさえぎる。
「しかし勘違いしないでもらいたいが、私は君たちをさげすむつもりも憐れむつもりも毛頭無い。むしろ私は君たちを評価している。だからこそ、機会を与えに来たのだ」
この言葉に、3人はまた揃って首をかしげる。
「機会?」
「そうとも。君たちが晩成できる、最後の機会をだ」
ナイジェル博士はそう言って、ニヤッと悪辣な笑みを浮かべた。
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時間と場所は349年、モールが拘束されていた宿に戻る。
話し疲れ、休憩を取っていたモールのところへ、ナイジェル博士が訪ねて来た。
「休憩中、失礼する」
「失礼なんかしないでほしいんだけどね」
「言葉の綾だ。用がある」
「私にゃ無いね」
つっけんどんに対応するモールに、ナイジェル博士はこう切り出した。
「3世には腹が立つだろう?」
「そりゃまあねぇ」
「私もだ」
「へーぇ?」
煙草を口にくわえたまま、モールはナイジェル博士を横目で捉える。
「何されたね?」
「あらゆる嫌がらせを受けている。基本的に私と言う人間が気に入らんらしい」
「ま、人間関係ダメな時はダメだろうしね。で?」
「少しばかり『お返し』をしてやろうと考えている」
「少しで済むかねぇ?」
そう問われ、ナイジェル博士の顔がこわばる。
「どうしてそんなことを?」
「私にわざわざ声かけて『仕返ししよう』なんて、少しで済む話じゃなさそうだしね」
「……」
しばらく黙り込んでいたが、やがて決心したような面持ちで、ナイジェル博士は話を再開した。
「あなたにお願いする内容自体は単純だ。今回の経緯を、悪しざまに吹聴してくれればそれでいい」
「何て言ってほしいね?」
「どうとでも。とにかく3世が悪者になるように、そして、あなたが吹聴した本人だと分かるような内容で」
「私と分かるように?」
モールは煙草を床に捨て、ナイジェル博士を薄目でにらんだ。
「そうなりゃ増上慢ストップ高状態のフォコは間違い無く、私を追い回すだろうね」
「だが相手の手の内も知っていて、捕まえようと目論んでいることも分かっていれば、あなたは捕まるような方ではない。そうだろう?」
「まーね」
「決して捕まえられない相手を捕まえようと血道を上げている間に、私は別の工作を仕掛けるつもりだ。それが功を奏せば、3世に大きなダメージを与えられるだろう」
「やっぱりオオゴトになるんじゃないね。……ま」
新しい煙草を手に取り、モールはニヤッと笑った。
「40年ほど前にしてあげたお説教を、すっかり忘れてるみたいだしね。ここいらでちょっと、痛い目見させとかなきゃならないね」
「説教?」
「こう言ったのさ――全人類の中で自分が一番だなんてコトを決める権利なんか、誰にだって無い。君自身にさえもね、……ってね」
3世が執拗にモールを捜索していたその陰で、ナイジェル博士は密かに3世の子供たちを招集していた。
「話と言うのは、他でも無い。君たちもそろそろ『親離れ』してみてはどうかと思ってね」
「はあ……?」
この頃、3世の子供世代はいずれも30代後半から40代半ばとなっており、金火狐財団の要職に就いた者もいたが、ここに集められた3人はそうではなく、はっきり言えば凡庸な者たちばかりだった。大した仕事もせず、また、大任を与えられることも無く、半ば遊び呆け、半ば飼い殺しとなっているような彼らに、ナイジェル博士はずばりと言ってのけた。
「君たちはいずれも既に家庭を持ち、子供もいる身だ。傍から見れば成功せし者と言えるだろう。だが、感じはしないかね? 配偶者、あるいは子供から、『そろそろ大きな仕事をしないの?』『そろそろ偉くなれないの?』『この人はあのニコル3世の血を引いているはずなのに』『この人はあの金火狐一族のはずなのに』と言いたげな視線を」
「う……」
子供たちは、揃って苦い顔をする。
「とは言え、その主たる理由は君たちが無能だからでも、いつまでも子供気分でいるからでもあるまい? ズバリ言ってやろう。3世がいつまでもいつまでも引退も隠居もせず、金火狐一族総帥の座に収まり続けているからに他ならない」
「いや、しかし、長姉のイヴォラは市政局長になりましたし、公安局にも……」「では君たちはいつそうなるのかね?」
問われるが、誰も答えない。
「答えてやろうか? 答えは『いつまでもなれない』だ。その理由も言ってほしいかね?」
「……」
「沈黙は肯定と受け取るぞ。どうだ?」
「……」
「よろしい。でははっきり言ってやろう。君たち姉弟は全員が全員、3世に愛されてはいない。もっとはっきり言えば、君たち3名がその、愛されていない側の人間だ」
「……っ」
「愛されていないから機会も地位も与えられず、十分なカネも与えられない。他の姉弟には十分以上に与えられていたモノが、だ」
「な、ナイジェルさん、あなた……っ」
一人が憤った顔をし、立ち上がりかけたが、ナイジェル博士はやんわりと手をかざしてさえぎる。
「しかし勘違いしないでもらいたいが、私は君たちをさげすむつもりも憐れむつもりも毛頭無い。むしろ私は君たちを評価している。だからこそ、機会を与えに来たのだ」
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「機会?」
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ナイジェル博士はそう言って、ニヤッと悪辣な笑みを浮かべた。
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