「双月千年世界 短編・掌編・設定など」
央中神学事始
央中神学事始 22
ペドロの話、第22話。
最後の依頼。
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22.
第4冊目となる「モール師事記」を刊行した後も、ペドロは変わらず聖書編纂事業に勤しんでいた。一方で、歳を重ねるごとに妄執を強め、剣呑な行動を繰り返す3世に、さしもの聖人ペドロも辟易しており、彼は352年、今度は南海へと旅立った。建前上は「エリザの最晩年についての資料を集めること」を目的としたものであったが、3世から距離を置きたいと言う思いも、少なからず彼の中にはあった。
その3世から357年、市国に戻ってきて欲しいと直接頼まれ、ペドロは面食らっていた。
「一体どうされたのですか? あなたが今更、……その、私に声をおかけになるなど」
《頼みがあんねん》
魔術を通じてペドロの耳に届いた3世の声は、いつになく憔悴したものだった。
《君は私が知る限り、最高の文章書きや。君にしか頼まれへんことやねん》
「聖書の件……ではありませんよね」
《せや》
3世はぽつりぽつりと、経緯を説明した。
《その……な。私、ボチボチ、……な。ボチボチ、……総帥、辞めんねん》
「なんですって?」
《色々あってん。……いや、……せやな、君にはちゃんと説明しとかなな。私のバ、……子供らがな、ちょっと、反乱っちゅうかな、独立……、そう、独立しよってな、まあ、ほんでな、……子供らが協力して、私を、っちゅうか、財団を央中の商売ごとから全部、締め出しよってんな。ほんならもう、どないもこないも、……な、でけへんくなってしもてな。……で、財団のやつらみんな、私やもうアカン、頭すげ替えろっちゅうて、……って、わけや》
「……そうですか」
そのまま両者とも黙り込み、沈黙が流れる。そこで沈黙を破ったのは、父同様に神学者となり彼の旅に同行していたペドロの長子、ヤゼスだった。
「3世、それで父に頼みたいこととは、一体……?」
《……ああ、せやったな》
以前の3世であれば、話に割って入った者を恫喝じみた口調で怒鳴りつけ、黙らせるところであったが、この時の彼は素直に、ヤゼスに答えた。
《まあ、今言うた通り、総帥辞めよっかっちゅう話になったわけやけども、せやから言うて、じゃあコイツ総帥にするわ、みたいにすぐには決められへん。私がそんな風に決めたところで、そんなん誰も納得しいひんやろ。『どうせコイツ3世の傀儡やろ』と思われて、そっぽ向かれるんがオチや》
「一理ございますね」
《と言って、他の局長やら何やらが無理無理推しても同じことやんか? ほんで今んとこ、誰を後継者にするかで揉めとるワケや。せやけどそんなもんを話し合いで決めようと思ても、簡単に決められるもんとちゃう。と言うて、このまんまあーでもないこーでもないと言い合いしとっても、時間の無駄や。で、ある程度ルール定めた上で、投票したらどないやっちゅう話になってんねん》
「ルール?」
《公平を期すために、っちゅうことでな。今んとこ、私と局長らの最高幹部で何人か指名して、そいつらん中から選ぶ形にしようと考えとる。で、その指名するヤツについて、条件を定めようっちゅうわけや。条件があんまりにも違いすぎたら、選ぶも選ばへんも無いからな》
「ふむ」
《ほんで、次の総帥を決めた後のこともや。次のヤツがまた私みたいに何十年も居座っとったら、また同じことの繰り返しになるかも分からん。任期とか権利みたいなんも、この際まとめて決めたろう思てるんよ。他にも決めといた方がええことあれば、まとめて話す感じでな》
「そこで私を交えてルールの策定を行う、と」
《そう言うこっちゃ。繰り返しやけど、あんたは私が知る限り一番の字書きや。いや、一番の知識人、良識ある賢者や。あんたが話に加わってくれへんかったら、どないもこないもならん。
頼むわ、ラウバッハ君》
長年に渡る確執はあったが、恩人とも言える男の窮状を察したペドロ父子は、大急ぎで収集した資料をまとめて船に飛び乗り、市国への帰途に就いた。
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最後の依頼。
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第4冊目となる「モール師事記」を刊行した後も、ペドロは変わらず聖書編纂事業に勤しんでいた。一方で、歳を重ねるごとに妄執を強め、剣呑な行動を繰り返す3世に、さしもの聖人ペドロも辟易しており、彼は352年、今度は南海へと旅立った。建前上は「エリザの最晩年についての資料を集めること」を目的としたものであったが、3世から距離を置きたいと言う思いも、少なからず彼の中にはあった。
その3世から357年、市国に戻ってきて欲しいと直接頼まれ、ペドロは面食らっていた。
「一体どうされたのですか? あなたが今更、……その、私に声をおかけになるなど」
《頼みがあんねん》
魔術を通じてペドロの耳に届いた3世の声は、いつになく憔悴したものだった。
《君は私が知る限り、最高の文章書きや。君にしか頼まれへんことやねん》
「聖書の件……ではありませんよね」
《せや》
3世はぽつりぽつりと、経緯を説明した。
《その……な。私、ボチボチ、……な。ボチボチ、……総帥、辞めんねん》
「なんですって?」
《色々あってん。……いや、……せやな、君にはちゃんと説明しとかなな。私のバ、……子供らがな、ちょっと、反乱っちゅうかな、独立……、そう、独立しよってな、まあ、ほんでな、……子供らが協力して、私を、っちゅうか、財団を央中の商売ごとから全部、締め出しよってんな。ほんならもう、どないもこないも、……な、でけへんくなってしもてな。……で、財団のやつらみんな、私やもうアカン、頭すげ替えろっちゅうて、……って、わけや》
「……そうですか」
そのまま両者とも黙り込み、沈黙が流れる。そこで沈黙を破ったのは、父同様に神学者となり彼の旅に同行していたペドロの長子、ヤゼスだった。
「3世、それで父に頼みたいこととは、一体……?」
《……ああ、せやったな》
以前の3世であれば、話に割って入った者を恫喝じみた口調で怒鳴りつけ、黙らせるところであったが、この時の彼は素直に、ヤゼスに答えた。
《まあ、今言うた通り、総帥辞めよっかっちゅう話になったわけやけども、せやから言うて、じゃあコイツ総帥にするわ、みたいにすぐには決められへん。私がそんな風に決めたところで、そんなん誰も納得しいひんやろ。『どうせコイツ3世の傀儡やろ』と思われて、そっぽ向かれるんがオチや》
「一理ございますね」
《と言って、他の局長やら何やらが無理無理推しても同じことやんか? ほんで今んとこ、誰を後継者にするかで揉めとるワケや。せやけどそんなもんを話し合いで決めようと思ても、簡単に決められるもんとちゃう。と言うて、このまんまあーでもないこーでもないと言い合いしとっても、時間の無駄や。で、ある程度ルール定めた上で、投票したらどないやっちゅう話になってんねん》
「ルール?」
《公平を期すために、っちゅうことでな。今んとこ、私と局長らの最高幹部で何人か指名して、そいつらん中から選ぶ形にしようと考えとる。で、その指名するヤツについて、条件を定めようっちゅうわけや。条件があんまりにも違いすぎたら、選ぶも選ばへんも無いからな》
「ふむ」
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