「双月千年世界 短編・掌編・設定など」
央中神学事始
央中神学事始 23
ペドロの話、第23話。
革命の顛末。
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23.
5年ぶりに市国に戻ったペドロ父子は、すぐさま3世を訪ねた。
「久しぶりやな。そんなに変わってへんみたいやし」
「3世もお変わりないようで」
そう言ったものの、ペドロの目には、3世の衰えぶりがはっきりと映っていた。
「挨拶はこの辺でしまいや。早速、仕事の話や」
しかし3世の心の中には辛うじて、仕事に対する意欲と情熱は残っていたようだった。杖を付きつつも、彼はしっかりした足取りで執務机に腰掛け、書類を手早く机上に並べていったからだ。
「現時点で最高幹部から出た意見や。これを加味した上で、君にはルール策定をしてもらうつもりや。で、明日も会議があるけども、君にも参加してもらいたいんよ」
「承知いたしました」
ペドロとヤゼスは書類に目を通し、内容を検討する。
「ざっと見た限りでは、ある程度意見は一致しているように思えますね、父さん」
「そうだね。恐らくは幹部陣同士での話し合いも、何度と無く行われていたのだろう」
「……」
と、3世が椅子にもたれかかり、ぼんやりした顔で眺めていることに気付き、ペドロが声をかける。
「如何なさいましたか?」
「ん? あ、いや、……何ちゅうか、君ら仲ええなと思てな」
3世は肩をすくめ、こう続ける。
「私が子供らとまともに話したんは、もう何十年も前やからな。仕事の関係で向こうから御用聞きに来ることはちょくちょくあったけども、少なくとも私の方からは、四半世紀は声掛けてへんねん。……やからかな、こんなことになったんは」
「3世……」
「しゃあない、しゃあない。自業自得っちゅうヤツやろ。もう少し目ぇかけたったら、ちょっとは話もちゃうかったやろけど」
こうしてペドロ父子の尽力によって358年のはじめ、財団の運営と各幹部の権限に関する規則書――「財団典範」が制定され、これに則って総帥選出選挙が行われた。その結果、市政局長イヴォラの娘、即ち3世の孫娘でもあるエリザ・トーナ・ゴールドマンが新たな総帥に選ばれた。
そしてその後の調査で、央中全域を騒がせたこの「子息革命」について、ある事実が判明した。
首謀者は前述の通り、ネール家現当主とその子供たち、そして3世の子供たち7名だったが、彼らを焚き付け、言葉巧みに誘導した人物が他にいることが分かった。それは他でもない、あのエイハブ・ナイジェル博士であり、「傲岸不遜の3世に鉄槌を下す」「央中域内の不平等を是正する」などと巧言令色を振りまいて己の行動を正当化していたが、結局は私利私欲のために行動していたことは、誰の目にも明らかだった。何故なら彼はネール公国と新興国6カ国から、顧問料として莫大な報酬と利権を手に入れていたからである。
彼こそがこの騒動の張本人であるとして、財団は彼の拘束・処罰を各国に求めたが、経営が傾き、影響力の弱まった財団に与する者は央中内におらず、結局ナイジェル博士への追及はうやむやになってしまった。
その一方、財団の最後の意地として、離反した3名とその家族、そして血縁者については永久に金火狐一族から除籍することを決定した。また、この騒動に加担したネール家に対しても無期限の取引停止、即ち事実上の絶縁を言い渡した。
この決定に際し、3世の妻でもあり、離反者3名の母親でもあり、かつ、ネール家の人間でもあったランニャは立場を問われたが――。
「いいよ、別に」
彼女は特に子供たちや実家の肩を持つ様子も無く、全面的に同意したと言う。
「ってかむしろさ、こっちから願い下げだよ。こんなことすりゃ央中丸ごと大騒ぎになるって、誰にだって分かるだろう? だのに、ろくに後先も考えず加担するなんて、つくづく救いようの無いヤツらさ。きっと母さん――先代当主だって、許しやしない。『他人のそれらしい意見にコロッと騙されてホイホイ乗っかるようなバカなんぞ、こっちから放り捨ててやりゃいいさ』とか言うだろうさ、きっと」
彼女の言葉は後に、騒動に加担した者たち全員に、重くのしかかってくることとなった。独立を果たした不肖の子供たちも、そしてネール家も、独立当初は相応に栄華を極め、人々の期待を集めはしたものの、数年、十数年と経つ内、次第に才能の乏しさと実力の無さを露呈し、みるみる間に人心と信用、そして資産をも失い、凋落した。
なお、ナイジェル博士は散々彼らを食い物にして財産を築いたものの、同時に深い恨みも抱えることとなった。難を逃れるため故郷の北方へ舞い戻ったものの、そこでも財産を付け狙う者たちが跡を絶たず、晩年はすっかり人間不信になり、一人寂しく生涯を閉じたと言う。家族にも一時期恵まれはしたが、それもまた、彼の遺産狙いのために骨肉の争いを繰り返し、結局は散り散りになってしまった。
世紀単位で時代の流れを見るに――「子息革命」は3世の一強体制を崩し、彼の時代を終わらせはしたものの、結局のところ彼を追い落とした者たちが成り代わって栄光を手にすることは無く、一人の覇者も出さぬまま、あっさり終焉した形となった。
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革命の顛末。
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5年ぶりに市国に戻ったペドロ父子は、すぐさま3世を訪ねた。
「久しぶりやな。そんなに変わってへんみたいやし」
「3世もお変わりないようで」
そう言ったものの、ペドロの目には、3世の衰えぶりがはっきりと映っていた。
「挨拶はこの辺でしまいや。早速、仕事の話や」
しかし3世の心の中には辛うじて、仕事に対する意欲と情熱は残っていたようだった。杖を付きつつも、彼はしっかりした足取りで執務机に腰掛け、書類を手早く机上に並べていったからだ。
「現時点で最高幹部から出た意見や。これを加味した上で、君にはルール策定をしてもらうつもりや。で、明日も会議があるけども、君にも参加してもらいたいんよ」
「承知いたしました」
ペドロとヤゼスは書類に目を通し、内容を検討する。
「ざっと見た限りでは、ある程度意見は一致しているように思えますね、父さん」
「そうだね。恐らくは幹部陣同士での話し合いも、何度と無く行われていたのだろう」
「……」
と、3世が椅子にもたれかかり、ぼんやりした顔で眺めていることに気付き、ペドロが声をかける。
「如何なさいましたか?」
「ん? あ、いや、……何ちゅうか、君ら仲ええなと思てな」
3世は肩をすくめ、こう続ける。
「私が子供らとまともに話したんは、もう何十年も前やからな。仕事の関係で向こうから御用聞きに来ることはちょくちょくあったけども、少なくとも私の方からは、四半世紀は声掛けてへんねん。……やからかな、こんなことになったんは」
「3世……」
「しゃあない、しゃあない。自業自得っちゅうヤツやろ。もう少し目ぇかけたったら、ちょっとは話もちゃうかったやろけど」
こうしてペドロ父子の尽力によって358年のはじめ、財団の運営と各幹部の権限に関する規則書――「財団典範」が制定され、これに則って総帥選出選挙が行われた。その結果、市政局長イヴォラの娘、即ち3世の孫娘でもあるエリザ・トーナ・ゴールドマンが新たな総帥に選ばれた。
そしてその後の調査で、央中全域を騒がせたこの「子息革命」について、ある事実が判明した。
首謀者は前述の通り、ネール家現当主とその子供たち、そして3世の子供たち7名だったが、彼らを焚き付け、言葉巧みに誘導した人物が他にいることが分かった。それは他でもない、あのエイハブ・ナイジェル博士であり、「傲岸不遜の3世に鉄槌を下す」「央中域内の不平等を是正する」などと巧言令色を振りまいて己の行動を正当化していたが、結局は私利私欲のために行動していたことは、誰の目にも明らかだった。何故なら彼はネール公国と新興国6カ国から、顧問料として莫大な報酬と利権を手に入れていたからである。
彼こそがこの騒動の張本人であるとして、財団は彼の拘束・処罰を各国に求めたが、経営が傾き、影響力の弱まった財団に与する者は央中内におらず、結局ナイジェル博士への追及はうやむやになってしまった。
その一方、財団の最後の意地として、離反した3名とその家族、そして血縁者については永久に金火狐一族から除籍することを決定した。また、この騒動に加担したネール家に対しても無期限の取引停止、即ち事実上の絶縁を言い渡した。
この決定に際し、3世の妻でもあり、離反者3名の母親でもあり、かつ、ネール家の人間でもあったランニャは立場を問われたが――。
「いいよ、別に」
彼女は特に子供たちや実家の肩を持つ様子も無く、全面的に同意したと言う。
「ってかむしろさ、こっちから願い下げだよ。こんなことすりゃ央中丸ごと大騒ぎになるって、誰にだって分かるだろう? だのに、ろくに後先も考えず加担するなんて、つくづく救いようの無いヤツらさ。きっと母さん――先代当主だって、許しやしない。『他人のそれらしい意見にコロッと騙されてホイホイ乗っかるようなバカなんぞ、こっちから放り捨ててやりゃいいさ』とか言うだろうさ、きっと」
彼女の言葉は後に、騒動に加担した者たち全員に、重くのしかかってくることとなった。独立を果たした不肖の子供たちも、そしてネール家も、独立当初は相応に栄華を極め、人々の期待を集めはしたものの、数年、十数年と経つ内、次第に才能の乏しさと実力の無さを露呈し、みるみる間に人心と信用、そして資産をも失い、凋落した。
なお、ナイジェル博士は散々彼らを食い物にして財産を築いたものの、同時に深い恨みも抱えることとなった。難を逃れるため故郷の北方へ舞い戻ったものの、そこでも財産を付け狙う者たちが跡を絶たず、晩年はすっかり人間不信になり、一人寂しく生涯を閉じたと言う。家族にも一時期恵まれはしたが、それもまた、彼の遺産狙いのために骨肉の争いを繰り返し、結局は散り散りになってしまった。
世紀単位で時代の流れを見るに――「子息革命」は3世の一強体制を崩し、彼の時代を終わらせはしたものの、結局のところ彼を追い落とした者たちが成り代わって栄光を手にすることは無く、一人の覇者も出さぬまま、あっさり終焉した形となった。
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