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    今日の旅岡さん

    あたしだってエースのつもりだしさ

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    今年は何かが起こる――!
    夜狼さんが「ソフトボール」を引いた瞬間、球技大会運営委員会の全員がそう直感した。

    旅岡さんの学校の1学期の恒例行事である球技大会は、1学年4クラスを紅白・男女別に分けて開催される。
    また、種目は学年ごとに分かれており、それぞれの学年代表がくじを引いて決定する。
    ちなみに旅岡さんの学年の代表は、B組の夜狼さんになった。

    夜狼さんがそのくじを引いた瞬間、彼女を含めた学年クラス代表4名全員が、C組のことを思い浮かべた。
    C組には何故か、野球部のエースがゴロゴロ固まっているからである。
    女子だけでも、ご存知二刀流の猫藤さんや、主だった大会でほぼ毎回先発投手となる狐菅(こすが)さんなど、
    この組だけで他の高校と交流試合ができてしまうくらいにスター選手が揃っている。
    そんな野球特化状態のC組を引き入れれば、今年の球技大会は勝ちが確定する。
    続いて行われた紅白決めのくじは、より一層の緊張感が漂った。
    夜狼さんも勝利を祈って、くじ箱の中に手を突っ込んだが――つかんだくじは白。
    C組の代表は、紅を引いていた。



    大会当日。
    旅岡さんたちのクラス側、即ち白組は9割方負けが決まったようなものだったが、
    それでもB組にはあのお騒がせお嬢様、虎海さんがいるのである。
    白組は虎海さんのずば抜けた身体能力に一縷の希望を寄せつつ、大会に望んだ。

    ゲームは白組先攻で開始。まずは狐菅さんがあっさり2アウトを取った。
    そこまでは紅組が計画した通りの試合運びである。
    このペースで6回まで狐菅さんが投げ切り、裏のどこかで1点、2点でも取ってしまえば、
    残り3回を猫藤さんがキッチリ抑えて決着。それが紅組の立てていた戦略だった。
    その戦略が狂ったのは3投目、虎海さんの打順でだった。

    狐菅さんだって虎海さんがスゴいと言ううわさは聞いていたので、少なからず警戒していた。
    しかしこの時ほんのちょこっと、超高校級エースのプライドが勝ってしまった。
    変化球やチェンジアップなどの小細工を弄さず、直球だけで方を付けようとしてしまったのだ。
    とは言え最高152km/hを記録したこともある、プロをもうならす自慢の爆速ストレートである。
    ろくに野球経験の無い普通の高校生では、目で捉えることすら不可能なはずだった。

    だが、やはりと言うか――虎海お嬢様は普通ではなかった。
    「はああッ!」
    気合一閃、なんと初球を完璧に真芯で捉えてしまわれたのである。
    ぱぁん、と軟球が破裂したんじゃないかと思うような快音を立てて、
    球はグラウンド端のフェンスを軽々超えて飛んで行ってしまった。



    打ちのめされかけた狐菅さんではあったが、それでもすぐ立て直し、
    どうにか6回まで、失点1点のまま抑え続けた。
    虎海さんも1打席目こそ場外ホームランをお決め遊ばせたものの、
    その後はファールやフライを連発。
    肝を潰しかけていた紅組も「なんだただのロマン砲か」とほっと胸をなでおろしつつ、
    当初の計画通り、4回と6回にそれぞれ1点ずつ取って逆転。
    勢いに乗ったまま7回から猫藤さんが登板し、皆の期待通りにしっかり抑えてくれた。
    しかし白組だって、このまま負けてはいられない。
    特に1回表以降、凡打を繰り返されていらっしゃった虎海お嬢様は、
    次第に苛立ちをお募り遊ばされていた。
    そして9回表2アウト2塁の、もう後がない場面。
    虎海お嬢様が、本日4度目の打席にお立ちになられた。

    ご存知の通り、虎海お嬢様は自信家で目立ちたがりで、あけすけに言ってしまえば傲慢な方である。
    この勝敗がかかった局面において、あろうことかお嬢様は、
    左手に握ったバットを猫藤さんの頭上はるか上に、お掲げになられてしまったのだ。
    そう、超高校級エースの猫藤さんを相手にして、
    予告ホームランなどと言う大変はしたない行為をなさってしまったのである。



    「……~ッ、ナメっちゃねえッ!」
    当然、猫藤さんはブチギレた。力を目一杯右手に込め、渾身のストレートを放つ。
    「りゃああッ!」
    1回表の時と同様、虎海さんはガッチリと真芯で捉え、球を打ち返した。
    快音が轟いたその瞬間、白組は歓喜しかけ、紅組は絶望しかける。だが――。
    「ナメんなっちゃったろうがああッ!」
    フィジカルおばけの虎海お嬢様が全力で打ち返し、眼前に迫っていたピッチャーライナーを、
    猫藤さんは体を目一杯ひねってつかみ、見事に受け止めたのである。

    完全にブチギレていたはずの猫藤さんが、まさかの「打たせる」投球で怪物、
    いや、怪童お嬢様を華麗に仕留めると言う素晴らしいファインプレーを最後の最後に見せて、大会は幕を閉じた。
    「そりゃ頭に血ぃ上ったっちゃけど、暴投なんかするわけないって。
    そこは流石に、あたしだってエースのつもりだしさ」
    この年の球技大会が伝説となったのは、言うまでもない。



    一方――。
    「やっぱあんたの料理、最高だわ」
    「ホントホント。こんな美味しい唐揚げ、お店でも出ないよ~」
    「へっへー」
    補欠の補欠で、ベンチにまったく入る予定の無い旅岡さんたちは、
    グラウンドのすみっこで平和にお昼のおべんとを楽しんでいた。
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