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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 5;緑綺星」
    緑綺星 第1部

    緑綺星・猫報譚 2

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    シュウの話、第2話。
    舞い降りたヒーロー。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    2.
     シュウの頭上から、全身が金属装甲に包まれた何者かがずしん、と音を立てて「着陸」した。
    「な、なんだぁ!?」
    「い、いや待て! コイツまさか……!」
     テロリストたちは一斉に顔を青ざめさせ、PDWを相手に向ける。
    (いやー、ソレ効かないと思いますよー? だって映画とかであんなパワードスーツ着た人に銃が効くって展開、あんまり無いじゃないですかー)
     シュウの予想通り、その金と黒に彩られた装甲は銃弾をやすやすと跳ね返しており、まったくダメージを受けた様子は無い。
    「くそッ、効かねえ!」
    「これならどーだぁッ!」
     業を煮やしたテロリストの一人が手榴弾を手に取り、レバーを起こす。
    (ちょっ、……そんなの投げられたらヤバいじゃないですかー! この全身装甲さんならそりゃ無事でしょうけど、でもわたし! わたし真後ろ! 爆風で死んじゃうじゃないですか! やだー!)
     が、シュウはそれが杞憂であったことを、ほんの2、3秒後に悟る。何故なら装甲の男は手首辺りからぱしゅっ、と何かを撃ち出し、相手が投げた手榴弾を彼らの後方に弾き飛ばしたからである。
    「え? ……あっ」
     そしてレバーを起こされ点火していた手榴弾は当然炸裂し、テロリストたちは左右に吹っ飛んだ。
    「うう……うぐ……」
    「耳が……あう……」
     爆風をまともに受けたテロリストたちは、周囲に溜まったゴミに揃って叩き付けられたものの、どうやら死には至らなかったらしい。
    《忠告はしとくぞ》
     と、装甲の男がスピーカー越しの声で、彼らに話しかける。
    《今すぐ逃げるなら見逃してやる。まだやる気か?》
    「う……うっ」「ひぃ、ひぃ……」「うぐ、ぐぐ……」
     テロリストたちはゴミの中からよろよろと這い出し、ほうほうの体で逃げていった。
    《これで一段落ってとこか。……っと、あんた大丈夫か?》
     装甲の男に声をかけられ、シュウはかくかくと首を縦に振る。
    「だ、だいじょぶです」
    《災難だったな。連れはいるのか? 一人ってことは無いよな?》
    「あ、いえ、一人です」
    《マジでか? この街がヤバいって話、知らないのか?》
    「知ってます。けど、ホテルも一流って紹介だったし旅ナビでも4.7って……」
    《あんなのウソに決まってるだろ? ネットの情報なんかアテにするな》
    「……痛感しました」
     装甲の男に肩をすくめられ、シュウは素直に頭を下げる。
    《今夜すぐは無理だろうけど、朝になったらすぐ邦に帰った方がいいぞ。この街はマジでヤバいからな。ほら、パスポート》
     まだ地面に落ちたままだったパスポートを手に取ったところで、装甲の男が《ん?》と声を上げた。
    《メイスン? シュウ・メイスンって、……え?》
    「あ、わたしですー」
    《シュウ・メイスンって、『クラウダー』の? あの『メイスンリポート』の人? え、ホンマに?》
    「ほん……? えーと、はい、わたしがそのシュウ・メイスンです。本人ですー」
     装甲の男はパスポートとシュウの顔を見比べ、驚いた様子を見せた。
    《マジでか。……ちょっとゴメンな》
     そのままシュウに背を向け、何かつぶやき出した。
    《カズちゃん、俺やけど。……いや、まだ仕事中やねんけどな》
    (電話か何かかなぁ)
     シュウの予想通り、どうやら装甲の男は、誰かと通信を行っているらしい。
    《今すぐ知らせときたい話あってな? あんな、アレあるやんか、『ビデオクラウド』。アレのな、『メイスンリポートチャンネル』の人な、今、俺が助けてん。……うん、マジで。ほんでなカズちゃん、いっぺん話聞いときたいみたいなこと、前に言うてたやんか? どないする? ……分かった、ちょっと聞いてみるわ》
     装甲の男が振り返り、シュウに尋ねる。
    《えーと、メイスンさん、でいいのかな。ちょっと、俺と来て欲しいんだけど、いいか?》
    「ドコにですか?」
    《俺のラボって言うか、アジトみたいなとこ。あんたと話したいって奴がいるんだ》
    「はあ」
    《ただ、その、俺はちょっと、名前とか顔とかバレるのがまずい立場にいるんだ。だから……》
    「あ、だいじょぶです。そーゆー人いっぱいいますもんねー」
    《ん? あー……》
     装甲の男は首をかしげつつ、上を指差す。だが、シュウにはそれが何を意味するのか分からない。
    「なんですかー? 月が綺麗ですね、……とか?」
    《いや、俺が言いたいのは、まあ、徒歩とかバスとかじゃアカンっちゅうことで、そのー……》
     口ごもりつつ、装甲の男はシュウの手をつかむ。
    《メイスンさんは、高いとこ平気な人?》
    「え? まあ、ジェットコースターとか好きな方ですけど」
    《ほんならええか……。じゃ、……あー、えーと、俺につかまってもらっていい?》
    「つかまる?」
    《えっと、何て言うかさ、その、嫌じゃなければ、あの、……あの、俺に、あの、抱きつくって言うか、いや、変な意味やなくて、あー》
    「抱きつく? こうですか?」
     言われた通りシュウが抱きついた途端、装甲から慌てた声が漏れる。
    《おわっ!? ちょ、め、メイスンさん、え、ええのん?》
    「や、あなたが抱きつけって言ったんじゃないですかー」
    《せ、せやけども、……ま、まあ、あー、え、ええか。ほんなら、しっかり捕まっててな》
    「はあ? ……きゃあっ!?」
     次の瞬間――装甲はシュウを抱きかかえ、空へと舞い上がった。
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