「双月千年世界 5;緑綺星」
緑綺星 第1部
緑綺星・猫報譚 4
シュウの話、第4話。
取材交渉。
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4.
シュウがその名前を出した途端、ジャンニとカズが顔を見合わせる。
「あー……と。どうする?」「しらばっくれとく?」
二人はヒソヒソと小声で話すが、そもそも五感の鋭い猫獣人相手では、あまり意味を成さない。
「聞こえてますよー? しらばっくれないで下さいよー」
「う、うーん」
二人は困った顔をして固まっていたが、やがてジャンニが意を決した様子で手を挙げた。
「あんな、メイスンさん。取材とか何とかする気なんやろけど」
「はい」
「俺な、あんまり『それ』がバレるとまずい立場におんねん。さっきも言うたけど、このことは秘密にしといてほしいねんな」
「分かりました。その点は十分留意して取材させてもらいますねー」
「すんなっつってんだ」
呆れた眼差しをシュウに向けつつ、カズが口を挟む。
「オレもコイツもお前さんに話すコトは一言だって無え。素直にこの家から出てって国に帰れ。二度と市国に来んな。以上だ。帰れ」
「お断りしますー」
シュウも折れない。
「折角のチャンスなんですし、どうあっても取材させてもらいます。伊達に記者経験あるワケじゃないですしね」
「あ~の~な~……!」
「もしコレでおしまいってコトなら、わたし帰ってお二人のコトを『めりぽ』で紹介させてもらいますよー? タイトルはどうしましょうかねー? 『あの市国の有名人のかわいい素顔』とかでしょうかねー」
「……あんた、実は性格めっちゃ悪いんやな」
ジャンニが苦い顔で、シュウをにらむ。
「何したら取材止めてくれるんや?」
「取材自体は止める気がありません」
シュウはきっぱり要求をはねつけつつも、こう続けた。
「でもですね、ちゃんとお話してくれるんでしたら、ココはダメ、コレはいいよってポイントは相談させてもらいますし、ちゃんと対応します。アレもダメコレもダメ全部アウトって言われたらわたし、『じゃあ全部いいってコトですね』って受け取ります」
「……はーっ……!」
カズはシュウに背を向け、足元にあった段ボール箱を蹴り飛ばした。
「いい加減にしやがらねえと……」「まーまー、カズちゃん」
と、ジャンニがカズの頭をポンポンと撫でる。
「俺が話すわ。ダメな話はちゃんとカットしてくれるっちゅうコトやしな」
「いいのかよ?」
カズはシュウをにらみつけ、あからさまに不快な様子を見せていたが、ジャンニは鷹揚に構えている。
「流石に分かってくれるやろ。ちゃんとしたオトナやねんから」
「分かってます分かってます。わたしこー見えて、ちゃんとしたオトナですよー」
「本当かよ……。なーんか信用できねーんだよな」
憮然とした様子のカズには目もくれず、シュウはスマホを取り出した。
「じゃ、早速撮影と録音させてもらいますねー。あ、撮影の方はちゃんと顔は隠しますし、音声使う時も本名にピー音入れときますから、安心してくださいー」
「頼むで、ホンマに」
双月暦716年、第22代金火狐一族総帥が死去した。これにより次代総帥を選出する選挙が財団最高幹部らの間で、速やかに行われたのだが――ここで当選したのがまさかのアキュラ家出身、シラクゾ・A・ゴールドマンだったのである。
そもそも4世紀にゴールドマン家がトーナ、ベント、そしてアキュラの御三家に分化して以降、アキュラ家は常に外様の日陰者扱いであった。
最も総帥を輩出してきたトーナ家、そして対抗馬となってきたベント家に比べ、アキュラ家は外戚の者も多く、5世紀以降常に「金火狐の名を冠しただけの似非者」「決して第一線に立てない三流」、あるいはもっと悪しざまに「ばったもん」などと罵られ続けてきた。当然それだけ支持率も低く、選挙制度が開始されて以来、一度も総帥に就任した者はいない。そのため6世紀後半頃から、アキュラ家全体を金火狐一族から除籍すべきではないかとの意見も表出し始めていたのである。
そんな中で行われる総帥選挙であり、アキュラ家にとっては総帥の地位を獲得できる、最後のチャンスと言えた。むしろここで総帥を出さなければ、アキュラ家不要論は決定的なものとなってしまう。是が非でも、シラクゾは総帥にならなければならなかったのである。
追い詰められていた彼は、不義を働いた。巷で勢力を拡大しつつあったマフィア組織、「ネオクラウン」を頼ったのである。
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4.
シュウがその名前を出した途端、ジャンニとカズが顔を見合わせる。
「あー……と。どうする?」「しらばっくれとく?」
二人はヒソヒソと小声で話すが、そもそも五感の鋭い猫獣人相手では、あまり意味を成さない。
「聞こえてますよー? しらばっくれないで下さいよー」
「う、うーん」
二人は困った顔をして固まっていたが、やがてジャンニが意を決した様子で手を挙げた。
「あんな、メイスンさん。取材とか何とかする気なんやろけど」
「はい」
「俺な、あんまり『それ』がバレるとまずい立場におんねん。さっきも言うたけど、このことは秘密にしといてほしいねんな」
「分かりました。その点は十分留意して取材させてもらいますねー」
「すんなっつってんだ」
呆れた眼差しをシュウに向けつつ、カズが口を挟む。
「オレもコイツもお前さんに話すコトは一言だって無え。素直にこの家から出てって国に帰れ。二度と市国に来んな。以上だ。帰れ」
「お断りしますー」
シュウも折れない。
「折角のチャンスなんですし、どうあっても取材させてもらいます。伊達に記者経験あるワケじゃないですしね」
「あ~の~な~……!」
「もしコレでおしまいってコトなら、わたし帰ってお二人のコトを『めりぽ』で紹介させてもらいますよー? タイトルはどうしましょうかねー? 『あの市国の有名人のかわいい素顔』とかでしょうかねー」
「……あんた、実は性格めっちゃ悪いんやな」
ジャンニが苦い顔で、シュウをにらむ。
「何したら取材止めてくれるんや?」
「取材自体は止める気がありません」
シュウはきっぱり要求をはねつけつつも、こう続けた。
「でもですね、ちゃんとお話してくれるんでしたら、ココはダメ、コレはいいよってポイントは相談させてもらいますし、ちゃんと対応します。アレもダメコレもダメ全部アウトって言われたらわたし、『じゃあ全部いいってコトですね』って受け取ります」
「……はーっ……!」
カズはシュウに背を向け、足元にあった段ボール箱を蹴り飛ばした。
「いい加減にしやがらねえと……」「まーまー、カズちゃん」
と、ジャンニがカズの頭をポンポンと撫でる。
「俺が話すわ。ダメな話はちゃんとカットしてくれるっちゅうコトやしな」
「いいのかよ?」
カズはシュウをにらみつけ、あからさまに不快な様子を見せていたが、ジャンニは鷹揚に構えている。
「流石に分かってくれるやろ。ちゃんとしたオトナやねんから」
「分かってます分かってます。わたしこー見えて、ちゃんとしたオトナですよー」
「本当かよ……。なーんか信用できねーんだよな」
憮然とした様子のカズには目もくれず、シュウはスマホを取り出した。
「じゃ、早速撮影と録音させてもらいますねー。あ、撮影の方はちゃんと顔は隠しますし、音声使う時も本名にピー音入れときますから、安心してくださいー」
「頼むで、ホンマに」
双月暦716年、第22代金火狐一族総帥が死去した。これにより次代総帥を選出する選挙が財団最高幹部らの間で、速やかに行われたのだが――ここで当選したのがまさかのアキュラ家出身、シラクゾ・A・ゴールドマンだったのである。
そもそも4世紀にゴールドマン家がトーナ、ベント、そしてアキュラの御三家に分化して以降、アキュラ家は常に外様の日陰者扱いであった。
最も総帥を輩出してきたトーナ家、そして対抗馬となってきたベント家に比べ、アキュラ家は外戚の者も多く、5世紀以降常に「金火狐の名を冠しただけの似非者」「決して第一線に立てない三流」、あるいはもっと悪しざまに「ばったもん」などと罵られ続けてきた。当然それだけ支持率も低く、選挙制度が開始されて以来、一度も総帥に就任した者はいない。そのため6世紀後半頃から、アキュラ家全体を金火狐一族から除籍すべきではないかとの意見も表出し始めていたのである。
そんな中で行われる総帥選挙であり、アキュラ家にとっては総帥の地位を獲得できる、最後のチャンスと言えた。むしろここで総帥を出さなければ、アキュラ家不要論は決定的なものとなってしまう。是が非でも、シラクゾは総帥にならなければならなかったのである。
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