「双月千年世界 5;緑綺星」
緑綺星 第1部
緑綺星・猫報譚 5
シュウの話、第5話。
錆びた黄金。
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5.
シラクゾは総帥候補として選ばれる程度には優秀ではあったが、元より排斥されかかっていた家柄の生まれである。何もせず座したままでいては、自分の未来が閉ざされてしまうのは明らか――若い頃からそう危惧していたシラクゾはネオクラウンと通じ、十重二十重の工作を仕掛けたのである。
そもそも次期金火狐総帥を選出する選挙の方法だが、これはゴールドコースト市民全員に意を問うような形式ではなく、財団の最高幹部――現総帥とその伴侶、金火狐商会長、市政局局長、公安局局長、入出国管理局局長、そして監査局局長の7名によって投票が行われる。逆に言えば、この7人を何らかの方法で掌握し、己に票を投じるよう操作できてしまえば、総帥の座は確実なものとなるのである。
そう考えたシラクゾは、まずは総帥の妻を誘惑した。と言っても恋愛じみたものではなく、「解放されたくはないか」と説いたのである。22代目総帥はどちらかと言えば強引かつ偏狭な性質の人間であり、ハラスメントじみた暴力を振るう様子が幾度となく、公の場で確認されていた。当然、その害を最も受けているのが妻であることは想像に難くないことであったし、事実、彼女が顔や腕にあざを作っている姿が、市国のタブロイド紙に何度も取り上げられていた。
そんな理不尽の渦中にあった彼女を、シラクゾはある取引によって口説いたのである。「ある筋に頼んで総帥を暗殺させよう。その代わり、その後行われる選挙で、自分に票を入れるように」と。
彼の工作はこれだけに留まらなかった。妻同様、総帥の圧力に苦しめられていた金火狐商会長および市政局長をも、同様の取引で丸め込んだのである。これにより、選挙時点での最高幹部は1名減り、残る6名のうち3名を確保することに成功した。
そして残る3名のうち1名にも、シラクゾはネオクラウンを通じて魔手を伸ばした。総帥に選ばれたとしても、これら裏工作が行われた事実が明らかになった場合、監査局が弾劾動議を提案することは明白である。仮にこの動議が否決されたとしても、黒いうわさをまとった総帥など、諸外国がまともに相手をするはずは無い。ましてや可決されれば即解任、即逮捕となってしまう。
万が一にもネオクラウンとの関係が明るみに出るような事態に至らぬよう、監査局局長を始末し、その後釜に自分の息がかかった者を据えるこれらの工作は、シラクゾにとって必須の措置だったのである。
「……で、監査局長やった親父はネオクラウンに殺されてもーたんや」
ここまで経緯を説明したところで、ジャンニははーっとため息をついた。
「じゃ、今の監査局って……」
尋ねたシュウに、カズが答える。
「総帥のご機嫌取りだよ。シラクゾが総帥になって1年以上経つし、市国のあっちこっちで『今の総帥はクソ』だって言われ倒してんのに、なーんにも動こうとしねーんだよ。『そのような事実は確認できない』の一点張りで、な」
「ちゅうワケで今の金火狐は、事実上ネオクラウンの傘下や。商売事の融通から法・条例の整備、果ては道路通行許可に至るまで、何でもかんでもネオクラウンの好き放題になっとる。あいつらの顔色伺わへんと、道も通られへんっちゅうワケや。
勿論こんな状況がまかり通るほど、市国の人間はのんきしとらへん。抗議行動はあっちこっちでしょっちゅうやっとるし、もっと過激なことしよるヤツもおる」
「あ、聞いたコトありますね。自称『自警団』さんですよね?」
口を挟んだシュウに、ジャンニはうなずいて返す。
「それや。名前はカッコ良さげやけども、やっとることはクルマに火炎瓶投げ付けたり、建物にコンクリぶつけたり、あっちこっちの工場から資材かっぱらって武器密造したり……」
「ぶっちゃけネオクラウンとどっこいどっこいのならず者、半グレ集団さ」
いつの間にかジャンニのそばに戻って来ていたカズも、口を挟んでくる。
「マフィアとチンピラが見境無く、周りの迷惑も考えず、ひたすら自分たちの利益と主義主張のためだけに抗争したら、どうなる?」
「……まー、メチャクチャになっちゃいますよね」
答えたシュウに、カズはうんうんとうなずく。
「そう、メチャクチャだ。今やゴールドコースト市国は、世界最大の黄金都市なんかじゃねー。世界最低の暗黒街さ」
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錆びた黄金。
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5.
シラクゾは総帥候補として選ばれる程度には優秀ではあったが、元より排斥されかかっていた家柄の生まれである。何もせず座したままでいては、自分の未来が閉ざされてしまうのは明らか――若い頃からそう危惧していたシラクゾはネオクラウンと通じ、十重二十重の工作を仕掛けたのである。
そもそも次期金火狐総帥を選出する選挙の方法だが、これはゴールドコースト市民全員に意を問うような形式ではなく、財団の最高幹部――現総帥とその伴侶、金火狐商会長、市政局局長、公安局局長、入出国管理局局長、そして監査局局長の7名によって投票が行われる。逆に言えば、この7人を何らかの方法で掌握し、己に票を投じるよう操作できてしまえば、総帥の座は確実なものとなるのである。
そう考えたシラクゾは、まずは総帥の妻を誘惑した。と言っても恋愛じみたものではなく、「解放されたくはないか」と説いたのである。22代目総帥はどちらかと言えば強引かつ偏狭な性質の人間であり、ハラスメントじみた暴力を振るう様子が幾度となく、公の場で確認されていた。当然、その害を最も受けているのが妻であることは想像に難くないことであったし、事実、彼女が顔や腕にあざを作っている姿が、市国のタブロイド紙に何度も取り上げられていた。
そんな理不尽の渦中にあった彼女を、シラクゾはある取引によって口説いたのである。「ある筋に頼んで総帥を暗殺させよう。その代わり、その後行われる選挙で、自分に票を入れるように」と。
彼の工作はこれだけに留まらなかった。妻同様、総帥の圧力に苦しめられていた金火狐商会長および市政局長をも、同様の取引で丸め込んだのである。これにより、選挙時点での最高幹部は1名減り、残る6名のうち3名を確保することに成功した。
そして残る3名のうち1名にも、シラクゾはネオクラウンを通じて魔手を伸ばした。総帥に選ばれたとしても、これら裏工作が行われた事実が明らかになった場合、監査局が弾劾動議を提案することは明白である。仮にこの動議が否決されたとしても、黒いうわさをまとった総帥など、諸外国がまともに相手をするはずは無い。ましてや可決されれば即解任、即逮捕となってしまう。
万が一にもネオクラウンとの関係が明るみに出るような事態に至らぬよう、監査局局長を始末し、その後釜に自分の息がかかった者を据えるこれらの工作は、シラクゾにとって必須の措置だったのである。
「……で、監査局長やった親父はネオクラウンに殺されてもーたんや」
ここまで経緯を説明したところで、ジャンニははーっとため息をついた。
「じゃ、今の監査局って……」
尋ねたシュウに、カズが答える。
「総帥のご機嫌取りだよ。シラクゾが総帥になって1年以上経つし、市国のあっちこっちで『今の総帥はクソ』だって言われ倒してんのに、なーんにも動こうとしねーんだよ。『そのような事実は確認できない』の一点張りで、な」
「ちゅうワケで今の金火狐は、事実上ネオクラウンの傘下や。商売事の融通から法・条例の整備、果ては道路通行許可に至るまで、何でもかんでもネオクラウンの好き放題になっとる。あいつらの顔色伺わへんと、道も通られへんっちゅうワケや。
勿論こんな状況がまかり通るほど、市国の人間はのんきしとらへん。抗議行動はあっちこっちでしょっちゅうやっとるし、もっと過激なことしよるヤツもおる」
「あ、聞いたコトありますね。自称『自警団』さんですよね?」
口を挟んだシュウに、ジャンニはうなずいて返す。
「それや。名前はカッコ良さげやけども、やっとることはクルマに火炎瓶投げ付けたり、建物にコンクリぶつけたり、あっちこっちの工場から資材かっぱらって武器密造したり……」
「ぶっちゃけネオクラウンとどっこいどっこいのならず者、半グレ集団さ」
いつの間にかジャンニのそばに戻って来ていたカズも、口を挟んでくる。
「マフィアとチンピラが見境無く、周りの迷惑も考えず、ひたすら自分たちの利益と主義主張のためだけに抗争したら、どうなる?」
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