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    「双月千年世界 5;緑綺星」
    緑綺星 第1部

    緑綺星・猫報譚 6

     ←緑綺星・猫報譚 5 →3DCG習作;旅岡さん
    シュウの話、第6話。
    密着取材開始!

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    6.
     カズが話している間に、ジャンニは3人分の飲み物をトレーに載せて戻って来た。
    「ま、そんなわけで俺も――親父が殺された仇を討ちたいってのもあったし――まずは自警団に参加してん。身分を偽って」
    「ソレはなんでですか?」
    「当たりめーだろが」
     ジャンニからチョコミルクを受け取りつつ、カズは馬鹿にしたように鼻を鳴らす。
    「自警団はチンピラ同然っつったろ? 言ってるコトは『打倒ネオクラウン』だの『市国に正義を取り戻す』だのキレイゴトばっかだが、実態はめったやたらに暴れ回るだけの愚連隊だ。そんな自己中ヤローどもに、バカ正直に『ワイお金持ちですねん』なーんて言ってみろよ、3日後には身ぐるみ剥がされて港の漂着物になってるっつの」
    「なるほどですねー」
     シュウはスマホを右手に構えつつ、左手でメモを取る。と、それを見てジャンニが意外そうな声を漏らす。
    「あれ? あんたも左利きなん?」
    「えっへっへ、実は元々右利きなんですけど、頑張って両方使えるようにしたんですよー。そっちの方が便利でしょ?」
    「いや、そりゃ便利は便利だろーけど、だからってやろうとは思わねーよ」
     呆れた目を向けるカズに対し、ジャンニは素直に感心したような声を上げる。
    「あんた面白い奴やなぁ。……っちゅうか、そう言えばあんたのこと、何も聞いてへんよな」
    「わたしですかー?」
     シュウはスマホをちょん、と触り、撮影を一時停止させる。
    「わたしはシュウ・メイスン。央北トラス王国の、イーストフィールドってトコに住んでます。背はちっちゃいですけど、さっき言った通り21歳ですから、ちゃんと成人してます。今年の3月に大学出たばっかりの新社会人です。……こんなトコですねー。ともかく、今はジャンニさんへのインタビュー中ですから、詳しいお話はまた後でですねー」
    「あ、うん」
     もう一度ちょん、と触り、撮影を再開する。
    「えーと……、ココまでのお話を整理すると――現在の第23代金火狐総帥S・A・ゴールドマンはネオクラウンとの裏取引により現在の地位に就き、その見返りとしてネオクラウンは、市国内の法整備と商取引において事実上の優遇・優先権が与えられている、と。この事実に反感を抱く市民からは非難の声が絶えず、中には過激な行動に出る者もおり、特に『自警団』と称する者たちはネオクラウンとの衝突を繰り返し、抗争に発展している、……って感じですかねー。
     で、ジャンニさんは自警団に入ったって話でしたけど、どうして抜けちゃったんですかー?」
    「入って2ヶ月か、3ヶ月かしたくらいやったかな……。死人もちょくちょく出とったから、まだヒヨッコの新人のはずの俺も、すぐ戦闘に駆り出されるようになっててな。その頃にはもう、マシンガン持ってネオクラウンとやり合っとった。
     で、一線交えて何人かやられて、俺も――まあ、急所に当たりはせんかったけども――結構ダメージあってな、弾も無くなったから、物陰に潜んで状況が収まるのんを待っとったんや。そしたらな……」
     ジャンニはそこで、ふーっと憂鬱そうなため息をついた。
    「話し声が聞こえてきてんな。片方は俺たちを現場に連れて来た奴やってことは、声で分かった。もう片方は知らん声やった。自警団から応援が来たんやろかと思ってたんやけど、話を聞いとるとなんかおかしいなって」
    「どんなお話を?」
    「カネのやり取りしとった。『ここに自警団の若い奴連れて来て皆殺しにしてもろた礼や』って話やった。……分かるやろ、どう言う筋書きやったか」
    「ええ、なんとなく」
    「つまり自警団のヤツらの中に、ネオクラウンとつながってるヤツがいるって話だよ」
    「そう言うこっちゃ。腹立つ話やろ? こっちは正義のためやと思って頑張っとったのに、『そいつ』は仲間の死体を売って小銭もろてたわけやからな。……俺はそいつらがいなくなってから、その場を離れた。そん時にはもう、自警団に戻る気はこれっぽっちも無くなっとったわ」
    「そりゃそうですよねー」
     シュウはスマホを操作し、撮影を停止した。
    「今日はこの辺でおしまいにしましょ。続きはまた明日で」
    「おう。……明日?」
     きょとんとするジャンニに、シュウはにこっと笑みを向けた。
    「密着取材ですもん。しっかりがっつりインタビューさせてもらいますよー? あ、わたしの寝るトコは適当にソファでも貸してもらえればだいじょぶですから。あとカズちゃん、パソコン貸してもらっていいですかー? 編集とアップロードしたいので。情報提供料と出演料についてはおいおい相談と言うコトでお願いしますー」
    「……ま、待って? え、メイスンさん、まさかここに泊まるつもりしとる?」
     顔を真っ赤にしてうろたえたジャンニに、シュウはあっけらかんと答えた。
    「そですよー。ソレとも正義の味方さんは、テロがあったその晩に、襲われたホテルに戻れっておっしゃるおつもりですかー?」
    「いや、だからお姉ちゃんよ、お前さっさと故郷に……」
     ふたたび険悪な顔色を浮かべたカズにも、シュウはニコニコと微笑む。
    「わたしのコトはふつーにシュウって呼んでください。よろしくです。ソレじゃお借りします」
    「え、ちょ、おい、おいって、……おい!」
     くるんと背を向け、パソコンに向かうシュウに、カズが慌てて取りすがる。
    「使っていいって言ってねーだろ!? 待てって、勝手に触んなって……」
     そのやり取りを眺めていたジャンニは、ずっと苦い表情を浮かべていたが――。
    「……なんか押し切られそうな気ぃするなー……」
     あきらめに満ちた声色で、そうつぶやいた。

    緑綺星・猫報譚 終
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