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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 5;緑綺星」
    緑綺星 第1部

    緑綺星・鋼狐譚 2

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    シュウの話、第8話。
    二人の出会い。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    2.
     自警団を抜け、単独でネオクラウンと戦う決意を固めたジャンニは、街の裏通りに家を買い、そこを拠点に活動を始めた。だが自警団で学んだのはせいぜい破壊工作や武器のメンテナンス程度であり、組織に立ち向かう術など、何一つ分からなかった。
     そんな彼ができることと言えば、うわさで聞いたネオクラウンのアジトや幽霊会社に乗り込み、拳銃を乱射することくらいだった。

     そんな乱暴で杜撰な行動を繰り返した末、当然のごとくジャンニは、ネオクラウンに追われる羽目に陥った。
    「はぁ……はぁ……うぐ……」
     持っていた武器はすべてどこかに落とし、体中に傷を負っている。辺りには敵の気配だらけ――どうあがいてもここで命を落とすことは、不可避であるように思えた。
    (情けないわ……!)
     血と砂利でまみれた両手で額を抑え、ジャンニは絶望していた。
    (俺は結局半端者や……! 仇の一つも討てへんかったか)
     しかし、彼はまだ諦めてはいなかった。
    (……いいや、まだや! まだ行ける!)
     路地裏に転がっていた棒切れをつかみ、彼は立ち上がろうとした。と――。
    「お前、何するつもりだよ?」
     傍らに転がっていた黒いゴミ袋が、突然しゃべりだした。
    「……!?」
     よく見ればそれはゴミ袋ではなく、ゴミでまみれたパーカーだった。その隙間からもぞっと、肌の黒い少女の顔が覗く。
    「うっせーんだよ。コッチは寝てるトコだっつの」
    「おっ、……お、お前に関係無いやろ」
    「あるね。ココはオレの寝床だ。断りもなく家ん中にズカズカ入って来たヤツがいたら追い出すだろ?」
    「『家』て、……路地裏やでここ」
    「住んでる以上、家だよ。……ってかお前さん」
     毛布代わりにしていたらしいパーカーを払い、少女がジャンニの顔をまじまじと見つめてきた。
    「見たトコ20歳にもならねーお坊ちゃんって感じだが、こんなトコで死にそうな顔しながら、一体何してんだよ? まだ真っ昼間だぜ? 学校行けよ、学校」
    「学校なんか行ってられるか。俺は復讐の真っ最中やねんぞ」
    「フクシュウだぁ? ケケケ、笑わせるぜ」
     少女はジャンニの鼻をぐにっとつかみ、ケタケタと笑う。
    「この一瞬であっけなく顔に一撃食らうよーな甘ちゃんが、どーやってそんな荒事やってのけようってんだよ」
    「あが……」
     と――二人の話し声を聞き付けたらしい男たちが、拳銃や散弾銃を手にして路地裏に入って来た。
    「いたぞ! あのガキだ! 別のガキとしけこんでやがる!」
    「ああん?」
     少女の額にぴき、と青筋が浮かぶ。
    「誰がガキだって? 言ってみろよ、おっさん」
    「鏡見てみろや、ちんちくりん!」
    「……あ?」

     10秒後――10人近くいたマフィアのチンピラたちは、一人残らず壁や地面に叩き付けられ、ピクリとも動かなくなっていた。
    「な……え……」
    「相手見てケンカ売れや、能無し共め」
     返り血一滴も浴びることなくその全員を叩きのめした少女はフン、と鼻を鳴らし、呆然としていたジャンニに声をかける。
    「お前さんもとっとと帰んな。そんで真面目に働くなり学校戻るなりして、ふつーの生活に戻るんだな」
    「……あ、……あのっ」
     ジャンニはその場に座り込み、深々と頭を下げて頼み込んだ。
    「助けてくれ!」
    「あ?」
    「俺は……俺は何にもでけへん半端者や。でも、……でも! 俺は親の仇を討ちたいんや! おかしなっとるこの街を助けたいんや! 俺に力を貸してくれ!」
    「……」
     少女はしばらく、ひんやりした目でジャンニの背中と尻尾を眺めていたが、やがてふーっとため息をつき、傍らに丸めていたパーカーを肩に掛けた。
    「話くらいは聞いてやんよ。お前さん、名前は?」
    「……ジャンニ」
    「オレは一聖(かずせ)だ。カズちゃんって呼べ」
     カズは未だ突っ伏したままのジャンニの背中を引っ張り、立つよう促した。
    「お前んち、ドコ? とりあえずそっち行こーぜ。屋根もなんもねー路上でダラダラ話すよーなコトでもないだろーしよ」
    「あ、うん」
     この時、ジャンニは――自警団相手には最大限警戒していたにもかかわらず――この真っ黒な少女には何故か、素直に己を晒していた。

    「話は大体分かった」
     ジャンニのアジトに招かれ、彼から事の顛末を聞き終えたカズは、出されたコーヒーを苦い顔で一気にあおった。
    「今度ココアとチョコミルク買って来いよ。オレ、にげーの嫌いなんだよ。あと、『ランクス&アレックス』のショコラツイストドーナツも。アレ大好きなんだよ」
    「居着くつもりかいな」
     ジャンニのツッコミに、カズがツッコミ返す。
    「そりゃそーだろ。ソレとも何か、お前さんは屋根のあるトコでぬくぬくしてるってのに、オレは路上に戻れって言うつもりじゃねーだろーな?」
    「いや、まあ。そう言う言い方されたらそら、帰れとは言われへんけども」
    「心配しなくてもちゃんと手伝ってやんよ。お前さんの復讐とやらは、な」
     それを聞いて、ジャンニの狐耳がピン、と立つ。
    「ホンマに?」
    「他にやるコトもねーしな。……ま、ソレに」
     カズはジャンニの頭の方に目線を上げ、ニヤッと笑う。
    「お前さんが『狐』だからな。そうじゃなかったら断ってた」
    「なんで?」
    「オレの妹も『狐』だからだよ、ケケ……」
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