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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 5;緑綺星」
    緑綺星 第1部

    緑綺星・鋼狐譚 7

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    シュウの話、第13話。
    製薬会社の闇。

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    7.
    「元々ですね、わたし、この件を調べようと思って市国に来たんですよねー」
     そう前置きし、シュウは書類をカズに渡す。
    「『クレメント製薬 716年度決算報告』……なんだコレ?」
    「市国の製薬会社さんですね。金火狐商会の孫請けさんくらいのトコですけども、昨年度の決算がおかしいって、その筋でうわさのトコなんです」
    「おかしい?」
     尋ねたジャンニに、シュウがメモを見ながら説明する。
    「収益に対して費用が妙にかかりすぎてるんですよ。他の同規模の製薬会社さんの倍以上のコストかけてお薬作ってるコトになってて、筆頭株主である金火狐商会以外の株主さんたちからは詳しい説明を求められてるんですが、社長さんは『新薬の研究に難航しているため』の一点張りで、ちょっと紛糾してるんですよねー」
    「製薬会社ってんなら確かにそんな理由もあるだろーが、お前さんのさっきの話からすると……」
     カズの指摘に、シュウはにっこり笑って返す。
    「ええ、ニオいますよね。しかも筆頭株主である金火狐商会ですが、確かジャンニくんの話だと、商会長さんは総帥さんの言いなりなんですよね?」
    「おう。総帥から『文句言わず黙っとけ』言われたらそうするやろな」
    「他の株主さんが文句言ってるのに、何故か筆頭株主さんだけだんまりなんて、ソレだけでもヘンですよね? で、ソコら辺の話を合わせてみると、内情はこんな感じかなって――クレメント製薬の工場をネオクラウン系の人たちが違法に操業してて、社長さんも商会長さんも総帥から口止めされてる、と」
    「ありそうな話だな。だが、製薬会社の工場でマフィアが勝手に何か作ってるって、まさかソレって……?」
     眉をひそめたカズに、シュウも苦い顔を見せる。
    「麻薬か何かでしょうねー」
    「マジか」
     話を聞くにつれ、ジャンニの顔に朱が差していく。
    「人の工場で麻薬作ってカネ稼ぎやと? ふざけんな!」
    「ええ、ホントにふざけた話ですよ。……でも、逆に言えば」
     シュウはメモと書類をしまい、ジャンニに真剣な目を向けた。
    「麻薬は相当大きな収入源のはずです。この企みを潰し、白日の元にさらせば、ネオクラウンには大ダメージを与えられるでしょう」
    「せやな。……クレメント製薬やったっけ」
    「ええ。でも」
     シュウはジャンニの手を取り、珍しく語気を強める。
    「『ほないっちょブッ潰してくるわ』なんて、絶対やっちゃダメですからね?」
    「なんでやねんな」
    「なんでやねんな、じゃねーよ。アホかお前」
     カズも声を荒げ、ジャンニを止める。
    「工場に殴り込みかけて更地にでもしてみろよ、翌日の新聞の見出しが『スチール・フォックス ついに大量破壊犯に』ってなるぜ? 表向きはふつーの製薬会社なんだからよ」
    「カズちゃんの言う通りです。しかもソレじゃ、ネオクラウンは逃げて終わりですよ。そもそもこの話自体、わたしの推理半分です。確かな証拠も無いのにいきなり殴り込んだら、ホントにただの荒くれ者ですからね?」
    「う……」
    「まず証拠がいります。ホントに麻薬作ってるってコト、ホントにネオクラウンが関わってるってコトを明らかにしてからじゃなきゃ、動いちゃダメです。……と言うワケでカズちゃん」
    「ぉん?」
     急に話を振られ、カズは目を白黒させる。
    「カズちゃんならクレメント製薬のサーバにこっそり入って監視カメラの記録手に入れたり、麻薬の原料や完成品を運んでるルートを特定したりできますよね?」
    「ハッキングしろってのか?」
     カズは一瞬苦い顔をし、思案に暮れる様子を見せたが、やがて渋々と言った様子でうなずいた。
    「やったコトねーけど……ま、何とかやってみる」
    「あ、できなきゃ仕方無いです。コレまで通り地道に探しますし」
    「オレに『できない』はケンカ売ってるよーなもんだぜ。やってやるさ」
     カズは席を離れ、パソコンに向かい始めた。
    「……できるんですかね? できそーな気はしますけど」
    「カズちゃんは天才やからな」「天才じゃねーよ」
     ジャンニの言葉に、カズが背を向けたままで突っかかる。
    「『天才』ってのは『天』に『才』能をもらっただけの、怠け者のコトだ。オレは自分で自分のチカラを獲得してきたんだ。自分の努力と鍛錬で、だ。だからオレのコトは天才なんて呼ぶんじゃねー」
    「あ、うん」
     ジャンニがたじろいでいる一方で、シュウは感心していた。
    「思ってたより結構ストイックなコですねー……。ちょっとカッコいいかも」
    「そうかぁ?」
     と――カズがくるんと振り向き、ニヤニヤと得意げな笑みを浮かべた。
    「コレでいいか?」
    「え?」
    「クレメント製薬の内部サーバに侵入して、監視カメラの映像抜いたぜ」
    「マジで?」
     目を丸くしているジャンニに構わず、シュウはカズのそばにすり寄る。
    「すごいですねー、カズちゃん」
    「へっへへ……」
     シュウにほめられ、カズは見た目相応の、可愛らしい笑顔を見せた。

    緑綺星・鋼狐譚 終
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