「双月千年世界 5;緑綺星」
緑綺星 第1部
緑綺星・密薬譚 2
シュウの話、第15話。
ジャーナリストの武器。
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2.
シュウに調理してもらっている間に、今度はジャンニが映像を確認することになった。
「ほな、火曜から雷曜までは確認してんな」
「おう。今オレが見てんのが土曜の午前だから、お前午後な」
「へーい」
動画を再生し、じっと眺めていたが、2分もしない内にジャンニがつぶやく。
「……どれを見てええんかよお分からん。9分割やし」
「全部だよ。だから時間かけて何度も見てんだよ」
「あ、うん」
もう一度モニタに顔を向け、またすぐに音を上げる。
「目ぇチカチカする」
「……もうこっちはいいからシュウ手伝ってこい」
「お、おう」
カズに追い払われてしまい、ジャンニはキッチンに向かう。
「どうしましたー? まだできてませんけど、お腹空いちゃいました? パン、ちょこっとなら食べてもいいですよー」
挽肉を炒めていたシュウが顔を上げ、ジャンニに笑いかける。
「いや、動画見ててんけどカズちゃんがこっち手伝えって」
「あら、ありがとうございますー。ソレじゃたまご混ぜてもらっていいですか? 6個お願いします」
「へーい」
と、ジャンニがたまごを冷蔵庫から取り出し、食器棚の方を向いたところで、シュウがくるんと振り向く。
「ボウル使いましょ。そっちの方が手間じゃないですよー」
「はぇ?」
「ジャンニくん、お皿出してソコにたまご落とそうとしたでしょ」
「な、なんで分かったん?」
「わたしの弟と同じタイプなので、めんどくさがりさんの思考は何となく分かります。『どうせ後でご飯食べる時に使うし』って思ってるなーって」
「へ、へへへ……」
照れ笑いを浮かべつつ、シュウに言われた通りボウルを取り出す。と、そこでもう一度シュウが突っ込んだ。
「ボウルに傷入っちゃいますからフォークで混ぜないで下さいねー」
「お……う」
素直に泡立て器を手に取りつつ、ジャンニはシュウの様子を眺める。その目線に気付き、シュウが顔を向けた。
「なんでしょ?」
「人んちのキッチン、よお使えるなぁって」
「遠慮ないなって意味ですか?」
「あ、ちゃうくて、使い勝手の話で」
「元々住んでた人もお料理好きだったみたいですし、わりと使いやすいですよー」
「そんなん分かるん?」
驚くジャンニに、シュウはにこっと笑って返した。
「同じ趣味の人って、やっぱりピンと来ちゃうんですよね。『あ、この人なら多分ココにしまってるな』って言うのが」
「……全然なんも思てへんかった。この家買った時、『色々揃てるわりに安いなー』とは思てたけど」
「じゃ多分、この家で亡くなられたんですね。事故物件だとか瑕疵物件の扱いだったでしょ?」
「かし……ぶ……あー、うん、そんな感じやったわ、確か、うん」
「身長はわたしより頭ひとつ半上の170センチ台前半くらいで、短耳の男の人ですね。あんまり人付き合いの無い、一人暮らしの方だったんでしょうね」
そう続けたシュウに、ジャンニは目を丸くする。
「へ? ……いやいやいや、そんなん分からへんやろ?」
「キッチンの高さ、わたしの腰よりちょっと高めなんですよね。踏み台使った形跡も無いですし、通路が狭めなので、尻尾のコト考えないでいい体型の人だったんでしょう。そもそも家の間取りからして建売物件じゃないっぽいですし、5年、10年も使い込んだ感じが無いので、結構歳を取ってから退職金かなんかでこの家建てて余生を過ごして、そのうちに亡くなられたんじゃないでしょうか。使い込み具合から考えると、平均寿命の長い長耳さんじゃなさそうだなって」
「こんなん言うたらアレやけど、殺された可能性もあるんとちゃうのん?」
「強盗殺人が起こりそうな物件だったら、もっとセキュリティ甘いです。ドアも窓もしっかりしてますし、それぞれ鍵2個付きですしね。壁の薄いぺらっぺらの家だったらそもそもジャンニさん、買わないでしょ? アジトにするために買ったんですから」
「そらまあ」
「で、アジトって要素でもう一点なんですけど、この家って裏通りの中でもかなり奥の方ですよね」
「せやな。あんまり近所の奴にウロウロされるんもかなわんし、……あー、それで『人付き合いが無い』、か。ほな、男やっちゅうのんは?」
そう尋ねられ、シュウはトイレのある方を指差す。
「トイレットペーパーですよ。あんまり使わないコト前提の置き場所だなって。あと、頑張って消臭した雰囲気はあるんですが――多分ソレやってくれたのってカズちゃんだと思うんですけど――やっぱりふわーっとアンモニア臭がしますね。いつも座ってトイレ入るタイプの人の家だとそんなにしないんですよ、そーゆー臭い」
「はぇー……」
ジャンニはキッチンをきょろきょろと見回し、素直に感心した。
「住んで半年くらいになるけど、そんなん全然気付かへんかった。すごいなぁ、シュウさん」
「観察力と洞察力はジャーナリストの武器ですから。えっへん」
と、マッシャーを片手にシュウが鼻を鳴らしたところで――。
「ジャンニ! シュウ! 見つけたぞ!」
カズが転がるように、キッチンに飛び込んで来た。
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ジャーナリストの武器。
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2.
シュウに調理してもらっている間に、今度はジャンニが映像を確認することになった。
「ほな、火曜から雷曜までは確認してんな」
「おう。今オレが見てんのが土曜の午前だから、お前午後な」
「へーい」
動画を再生し、じっと眺めていたが、2分もしない内にジャンニがつぶやく。
「……どれを見てええんかよお分からん。9分割やし」
「全部だよ。だから時間かけて何度も見てんだよ」
「あ、うん」
もう一度モニタに顔を向け、またすぐに音を上げる。
「目ぇチカチカする」
「……もうこっちはいいからシュウ手伝ってこい」
「お、おう」
カズに追い払われてしまい、ジャンニはキッチンに向かう。
「どうしましたー? まだできてませんけど、お腹空いちゃいました? パン、ちょこっとなら食べてもいいですよー」
挽肉を炒めていたシュウが顔を上げ、ジャンニに笑いかける。
「いや、動画見ててんけどカズちゃんがこっち手伝えって」
「あら、ありがとうございますー。ソレじゃたまご混ぜてもらっていいですか? 6個お願いします」
「へーい」
と、ジャンニがたまごを冷蔵庫から取り出し、食器棚の方を向いたところで、シュウがくるんと振り向く。
「ボウル使いましょ。そっちの方が手間じゃないですよー」
「はぇ?」
「ジャンニくん、お皿出してソコにたまご落とそうとしたでしょ」
「な、なんで分かったん?」
「わたしの弟と同じタイプなので、めんどくさがりさんの思考は何となく分かります。『どうせ後でご飯食べる時に使うし』って思ってるなーって」
「へ、へへへ……」
照れ笑いを浮かべつつ、シュウに言われた通りボウルを取り出す。と、そこでもう一度シュウが突っ込んだ。
「ボウルに傷入っちゃいますからフォークで混ぜないで下さいねー」
「お……う」
素直に泡立て器を手に取りつつ、ジャンニはシュウの様子を眺める。その目線に気付き、シュウが顔を向けた。
「なんでしょ?」
「人んちのキッチン、よお使えるなぁって」
「遠慮ないなって意味ですか?」
「あ、ちゃうくて、使い勝手の話で」
「元々住んでた人もお料理好きだったみたいですし、わりと使いやすいですよー」
「そんなん分かるん?」
驚くジャンニに、シュウはにこっと笑って返した。
「同じ趣味の人って、やっぱりピンと来ちゃうんですよね。『あ、この人なら多分ココにしまってるな』って言うのが」
「……全然なんも思てへんかった。この家買った時、『色々揃てるわりに安いなー』とは思てたけど」
「じゃ多分、この家で亡くなられたんですね。事故物件だとか瑕疵物件の扱いだったでしょ?」
「かし……ぶ……あー、うん、そんな感じやったわ、確か、うん」
「身長はわたしより頭ひとつ半上の170センチ台前半くらいで、短耳の男の人ですね。あんまり人付き合いの無い、一人暮らしの方だったんでしょうね」
そう続けたシュウに、ジャンニは目を丸くする。
「へ? ……いやいやいや、そんなん分からへんやろ?」
「キッチンの高さ、わたしの腰よりちょっと高めなんですよね。踏み台使った形跡も無いですし、通路が狭めなので、尻尾のコト考えないでいい体型の人だったんでしょう。そもそも家の間取りからして建売物件じゃないっぽいですし、5年、10年も使い込んだ感じが無いので、結構歳を取ってから退職金かなんかでこの家建てて余生を過ごして、そのうちに亡くなられたんじゃないでしょうか。使い込み具合から考えると、平均寿命の長い長耳さんじゃなさそうだなって」
「こんなん言うたらアレやけど、殺された可能性もあるんとちゃうのん?」
「強盗殺人が起こりそうな物件だったら、もっとセキュリティ甘いです。ドアも窓もしっかりしてますし、それぞれ鍵2個付きですしね。壁の薄いぺらっぺらの家だったらそもそもジャンニさん、買わないでしょ? アジトにするために買ったんですから」
「そらまあ」
「で、アジトって要素でもう一点なんですけど、この家って裏通りの中でもかなり奥の方ですよね」
「せやな。あんまり近所の奴にウロウロされるんもかなわんし、……あー、それで『人付き合いが無い』、か。ほな、男やっちゅうのんは?」
そう尋ねられ、シュウはトイレのある方を指差す。
「トイレットペーパーですよ。あんまり使わないコト前提の置き場所だなって。あと、頑張って消臭した雰囲気はあるんですが――多分ソレやってくれたのってカズちゃんだと思うんですけど――やっぱりふわーっとアンモニア臭がしますね。いつも座ってトイレ入るタイプの人の家だとそんなにしないんですよ、そーゆー臭い」
「はぇー……」
ジャンニはキッチンをきょろきょろと見回し、素直に感心した。
「住んで半年くらいになるけど、そんなん全然気付かへんかった。すごいなぁ、シュウさん」
「観察力と洞察力はジャーナリストの武器ですから。えっへん」
と、マッシャーを片手にシュウが鼻を鳴らしたところで――。
「ジャンニ! シュウ! 見つけたぞ!」
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