「双月千年世界 5;緑綺星」
緑綺星 第1部
緑綺星・密薬譚 3
シュウの話、第16話。
証拠能力不十分。
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3.
「折角の揚げたてコロッケですから、食べながらお話しましょ」
「さんせーい」
「衣はなるべく落とすんじゃねーぞ」
三人ともできたてのコロッケを片手にしつつ、モニタに視線を落とす。
「先週の土曜、午前1時半だ。ゾロゾロ入って来てる」
カズの言う通り、モニタに映された映像の中では、非常口から十数名の人間が現れる様子が確認できた。
「最初に入って来たんは、いかにもなチンピラやな」
「ガラの悪りいスーツに品性のかけらもねー顔つきってなりゃ、な」
「その後に入って来たのは、……なんかアルバイトさん? みたいな感じですね」
「こっちも見てすぐ分かるってくらい、貧乏そーなヤツらだな。時給125エルってトコか? ケケケ……」
と、その貧しそうな若者たちの後に入って来た人物を見て、三人は同時に首をかしげた。
「なんやコイツ?」
「コレまたいかにも研究者って感じの根暗野郎だな」
「多分、この人が薬物製造の責任者でしょうねー」
監視カメラの粗い映像のため、顔までは分からなかったが、それでも耳や尻尾などで、ある程度の判別は付けられた。
「猫獣人の人っぽいですね。身長は……」
「ドア上枠と頭の距離からして、170センチってトコか」
「男やろか?」
「っぽくは見えなくもないですけど、『猫』の人ってユニセックスな感じの人がわりといますからねー」
「お前さんみたいにか?」
「わたしちゃんと女の子ですもんっ。……あ、着替え始めましたね」
アルバイト風の若者が一斉に防護服を着込み、段ボール箱を抱えて工場のあちこちに移動する。チンピラ風の男が手にメガホンを構え、全員に何かを伝えたところで、工場の生産ラインが稼働し始めた。
「この段ボール、中身分かったりします?」
「少なくとも工場内にあった原料じゃなさそうだ。この日と前後2日分の管理記録には、ソレらしい記載は無かった」
「ってことは外から搬入したんやな」
「この時間帯、外のカメラにはバンタイプのでけークルマが裏口の真ん前に駐車してるのが映ってた。だがクルマのフロント方向しか映ってなかったし、何を運び込んだかはさっぱりだ。……ちょっと飛ばすぞ」
一足先にコロッケを食べ終えたカズが、映像を早送りする。
「作業は1時45分から4時45分まで続いた。ソコから清掃して、防護服を全員から回収して、で、5時ちょっと前に出て行った。相当手慣れてる感じだったし、作業は毎回、この時間帯にやってると考えていいだろう」
「動かぬ証拠ってやつやな!」
コロッケを握りつぶさんばかりの勢いで息巻くジャンニに、シュウが首を横に振って返す。
「コレだけじゃ不十分ですし、この映像は証拠にできません」
「なんでやな? どう見てもヤバそうな薬品作ってるやないか」
「『薬品』なんて大抵ヤバいブツだっつーの。ソコらのドラッグストアで50エル足らずで買えるような消毒用アルコールだって、目に入ったらオオゴトだろ? どんな製品であれ、製造時に気ぃ付けるのは当たり前だろうが。この程度の内容じゃ、『追加発注分を急いで作りました』とか何とか言い訳されたらソレまでだ」
「そもそも不正な手段で手に入れた映像ですから、証拠としての提出も不可能です。『どうやって手に入れたんだ』って説明求められたら、答えようが無いでしょ? 正義の味方がハッキングして盗み取りましたなんて、絶対印象悪いですし」
「う……」
一転、しょんぼりするジャンニに、シュウがこう続けた。
「でもカズちゃんの言う通り、作る時間帯はほぼほぼ特定できたと言ってもいいです。となれば次に作る日を予想して、網を仕掛けちゃいましょう」
「網……?」
シュウの言葉に、ジャンニもカズも、けげんな表情を浮かべていた。
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証拠能力不十分。
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3.
「折角の揚げたてコロッケですから、食べながらお話しましょ」
「さんせーい」
「衣はなるべく落とすんじゃねーぞ」
三人ともできたてのコロッケを片手にしつつ、モニタに視線を落とす。
「先週の土曜、午前1時半だ。ゾロゾロ入って来てる」
カズの言う通り、モニタに映された映像の中では、非常口から十数名の人間が現れる様子が確認できた。
「最初に入って来たんは、いかにもなチンピラやな」
「ガラの悪りいスーツに品性のかけらもねー顔つきってなりゃ、な」
「その後に入って来たのは、……なんかアルバイトさん? みたいな感じですね」
「こっちも見てすぐ分かるってくらい、貧乏そーなヤツらだな。時給125エルってトコか? ケケケ……」
と、その貧しそうな若者たちの後に入って来た人物を見て、三人は同時に首をかしげた。
「なんやコイツ?」
「コレまたいかにも研究者って感じの根暗野郎だな」
「多分、この人が薬物製造の責任者でしょうねー」
監視カメラの粗い映像のため、顔までは分からなかったが、それでも耳や尻尾などで、ある程度の判別は付けられた。
「猫獣人の人っぽいですね。身長は……」
「ドア上枠と頭の距離からして、170センチってトコか」
「男やろか?」
「っぽくは見えなくもないですけど、『猫』の人ってユニセックスな感じの人がわりといますからねー」
「お前さんみたいにか?」
「わたしちゃんと女の子ですもんっ。……あ、着替え始めましたね」
アルバイト風の若者が一斉に防護服を着込み、段ボール箱を抱えて工場のあちこちに移動する。チンピラ風の男が手にメガホンを構え、全員に何かを伝えたところで、工場の生産ラインが稼働し始めた。
「この段ボール、中身分かったりします?」
「少なくとも工場内にあった原料じゃなさそうだ。この日と前後2日分の管理記録には、ソレらしい記載は無かった」
「ってことは外から搬入したんやな」
「この時間帯、外のカメラにはバンタイプのでけークルマが裏口の真ん前に駐車してるのが映ってた。だがクルマのフロント方向しか映ってなかったし、何を運び込んだかはさっぱりだ。……ちょっと飛ばすぞ」
一足先にコロッケを食べ終えたカズが、映像を早送りする。
「作業は1時45分から4時45分まで続いた。ソコから清掃して、防護服を全員から回収して、で、5時ちょっと前に出て行った。相当手慣れてる感じだったし、作業は毎回、この時間帯にやってると考えていいだろう」
「動かぬ証拠ってやつやな!」
コロッケを握りつぶさんばかりの勢いで息巻くジャンニに、シュウが首を横に振って返す。
「コレだけじゃ不十分ですし、この映像は証拠にできません」
「なんでやな? どう見てもヤバそうな薬品作ってるやないか」
「『薬品』なんて大抵ヤバいブツだっつーの。ソコらのドラッグストアで50エル足らずで買えるような消毒用アルコールだって、目に入ったらオオゴトだろ? どんな製品であれ、製造時に気ぃ付けるのは当たり前だろうが。この程度の内容じゃ、『追加発注分を急いで作りました』とか何とか言い訳されたらソレまでだ」
「そもそも不正な手段で手に入れた映像ですから、証拠としての提出も不可能です。『どうやって手に入れたんだ』って説明求められたら、答えようが無いでしょ? 正義の味方がハッキングして盗み取りましたなんて、絶対印象悪いですし」
「う……」
一転、しょんぼりするジャンニに、シュウがこう続けた。
「でもカズちゃんの言う通り、作る時間帯はほぼほぼ特定できたと言ってもいいです。となれば次に作る日を予想して、網を仕掛けちゃいましょう」
「網……?」
シュウの言葉に、ジャンニもカズも、けげんな表情を浮かべていた。
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