「双月千年世界 5;緑綺星」
緑綺星 第1部
緑綺星・密薬譚 4
シュウの話、第17話。
公安局の朝。
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4.
カズに「暗黒街」と称された現在のゴールドコースト市国ではあるが、それでも公安局――いわゆる警察機構が機能していないわけではない。彼らは彼らなりに、市国に巣食う巨悪を一掃しようとあがいていたが――。
「なんだと? また自警団のアホ共の仕業か!」
この日の捜査部も、朝から本部長の怒鳴り声が響き渡っていた。
「何が正義の味方だ! 何が市民の味方だ! その味方とやらが一体、何の役に立ってると言うんだ!? 大体だな……」
そんな愚痴じみた罵倒をひとしきり吐ききったところで、ようやく朝の会議が始められたものの――。
「……で、かねてより計画していたマニヴァン金属他、関連企業への一斉捜査の件だが、腹立たしいことに、申請は却下となった! 理由はいつも通り、あのクソ自警団が今現在、大規模かつ極めて悪質な暴動を起こしているため、その対処に人員を割かなければならんからとのことだそうだ! よって計画は白紙だ! 以上! 解散! とっとと散れッ!」
こんな風に、半ば投げやりな形で会議は打ち切られ、捜査員たちはバタバタと会議室から去って行った。
「また捜査中止なんて、やってられませんよね」
と、そのうちの一人、まだ新人らしい、若い短耳の捜査員が、中年の狼獣人に声をかける。
「ま、腐んな。そのうちチャンスは来るさ」
そう返し、「狼」は肩をすくめた。
「でもマドック警部……」
なお愚痴を続けようとした後輩に、マドック警部と呼ばれた「狼」はぽい、と小銭入れを投げる。
「朝からあんなガミガミ言われて、気持ち良く仕事なんかできるかってんだ。気分転換になんかジュースでも買ってきてくれや、クルト。俺はカフェオレな。砂糖不使用のやつ。お前さんは好きなもん買いな」
「あ、はい、あざっス」
後輩、クルトをあしらったところで、マドック警部は自分のオフィスに向かう。
「あ、マドックさん! 丁度良かった」
と、そこで局内の郵便配達人とすれ違う。
「はい新聞」
「おう、いつも悪いね」
「いやー、仕事があるだけマシです。最近じゃ新聞頼む人も手紙出す人も少なくなっちゃって。ネット化の波ってやつですね」
「それにろくなこと書いてないからな、どっちにしても」
「違いないですね、ははは……」
そのまま離れようとしたところで、郵便配達人が「おっと」と声を上げた。
「あ、ちょっと聞いてもらっていいですか? えーと、手紙なんですけど」
「ん? 俺宛てかい?」
「いやー、それがですね、なんて言えばいいのかなー」
答えを濁され、警部は差出人の名前を確認する。
「S・F? 誰だろうな? ……宛先も俺じゃないな。ま、俺でもいいけど。受け取っとくよ」
「助かります」
「それがこれですか?」
ジュースを2本持って戻ってきたクルトに、警部は手紙を見せた。
「そう。『真に正義を愛する方へ』宛てだ。そんなら俺も当てはまるなってことでよ」
「イタズラでしょうか?」
「そう決めつけんのは早いさ。ま、確認してみようや」
「えーと……『明日の早朝5時 クレメント製薬第一工場駐車場 怪しい人物が現れる 聴取されたし』。なんだこれ」
「密告ってヤツだろうな。朝5時ってなると、早いめに寝といた方が良さそうだな。お前も来るだろ?」
そう尋ねた警部に、クルトは苦い顔をする。
「信じるんですか?」
「イタズラならもっとスマートにやるだろうさ。今時、こんな風にお手紙で送りつける奴がいるか? 大抵メールか、ネットの書き込みだろ? 内容にしたって犯行予告送りつけた方がよっぽど目立つ。『正義を愛する方』宛てに手紙なんざ、前時代もいいとこのクサくてダサいやり方だ。それだけにかえって、信憑性がある」
「そんなもんですかね」
納得していない様子のクルトに、警部はウインクして見せた。
「後は俺の勘だな。こいつは信用していいって、ピンと来たんだ」
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公安局の朝。
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カズに「暗黒街」と称された現在のゴールドコースト市国ではあるが、それでも公安局――いわゆる警察機構が機能していないわけではない。彼らは彼らなりに、市国に巣食う巨悪を一掃しようとあがいていたが――。
「なんだと? また自警団のアホ共の仕業か!」
この日の捜査部も、朝から本部長の怒鳴り声が響き渡っていた。
「何が正義の味方だ! 何が市民の味方だ! その味方とやらが一体、何の役に立ってると言うんだ!? 大体だな……」
そんな愚痴じみた罵倒をひとしきり吐ききったところで、ようやく朝の会議が始められたものの――。
「……で、かねてより計画していたマニヴァン金属他、関連企業への一斉捜査の件だが、腹立たしいことに、申請は却下となった! 理由はいつも通り、あのクソ自警団が今現在、大規模かつ極めて悪質な暴動を起こしているため、その対処に人員を割かなければならんからとのことだそうだ! よって計画は白紙だ! 以上! 解散! とっとと散れッ!」
こんな風に、半ば投げやりな形で会議は打ち切られ、捜査員たちはバタバタと会議室から去って行った。
「また捜査中止なんて、やってられませんよね」
と、そのうちの一人、まだ新人らしい、若い短耳の捜査員が、中年の狼獣人に声をかける。
「ま、腐んな。そのうちチャンスは来るさ」
そう返し、「狼」は肩をすくめた。
「でもマドック警部……」
なお愚痴を続けようとした後輩に、マドック警部と呼ばれた「狼」はぽい、と小銭入れを投げる。
「朝からあんなガミガミ言われて、気持ち良く仕事なんかできるかってんだ。気分転換になんかジュースでも買ってきてくれや、クルト。俺はカフェオレな。砂糖不使用のやつ。お前さんは好きなもん買いな」
「あ、はい、あざっス」
後輩、クルトをあしらったところで、マドック警部は自分のオフィスに向かう。
「あ、マドックさん! 丁度良かった」
と、そこで局内の郵便配達人とすれ違う。
「はい新聞」
「おう、いつも悪いね」
「いやー、仕事があるだけマシです。最近じゃ新聞頼む人も手紙出す人も少なくなっちゃって。ネット化の波ってやつですね」
「それにろくなこと書いてないからな、どっちにしても」
「違いないですね、ははは……」
そのまま離れようとしたところで、郵便配達人が「おっと」と声を上げた。
「あ、ちょっと聞いてもらっていいですか? えーと、手紙なんですけど」
「ん? 俺宛てかい?」
「いやー、それがですね、なんて言えばいいのかなー」
答えを濁され、警部は差出人の名前を確認する。
「S・F? 誰だろうな? ……宛先も俺じゃないな。ま、俺でもいいけど。受け取っとくよ」
「助かります」
「それがこれですか?」
ジュースを2本持って戻ってきたクルトに、警部は手紙を見せた。
「そう。『真に正義を愛する方へ』宛てだ。そんなら俺も当てはまるなってことでよ」
「イタズラでしょうか?」
「そう決めつけんのは早いさ。ま、確認してみようや」
「えーと……『明日の早朝5時 クレメント製薬第一工場駐車場 怪しい人物が現れる 聴取されたし』。なんだこれ」
「密告ってヤツだろうな。朝5時ってなると、早いめに寝といた方が良さそうだな。お前も来るだろ?」
そう尋ねた警部に、クルトは苦い顔をする。
「信じるんですか?」
「イタズラならもっとスマートにやるだろうさ。今時、こんな風にお手紙で送りつける奴がいるか? 大抵メールか、ネットの書き込みだろ? 内容にしたって犯行予告送りつけた方がよっぽど目立つ。『正義を愛する方』宛てに手紙なんざ、前時代もいいとこのクサくてダサいやり方だ。それだけにかえって、信憑性がある」
「そんなもんですかね」
納得していない様子のクルトに、警部はウインクして見せた。
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