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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 5;緑綺星」
    緑綺星 第1部

    緑綺星・密薬譚 6

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    シュウの話、第19話。
    都市高速包囲線。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    6.
     都市高速の手前で、バンが二手に分かれる。一方のバンは、そのまま高速に乗ったが――。
    「もう一台は下道行くみたいですね。どっちを追います?」
    「高速に乗る方だ。もう一台は大方、人材派遣の営業所に戻るとこだろうからな」
     マドック警部の指示に従い、クルトは高速方面にハンドルを切る。
    「じゃ、あっちは?」
    「工場から出て来たんだ。十中八九、作ったブツを運んでるんだろう。そしてそれは、違法なブツである可能性が高い。あれだけコソコソ作ってるってなりゃな」
    「もう一台のバンを運転してたヤツを引いて、残りは2人ですよね。ドコかで停めて職質しますか?」
    「焦んな。それは応援を呼んでからだ。現状、2対2にはなったが、こっちの得物はショットガンと拳銃が2丁ずつだけだからな。あっちは『本職』だ、どんな武器を持ってるか分からん。銃撃戦にでもなったら確実に不利だ。応援が来るまでは、このまま尾行を続けるんだ」
    「了解っス」
     用心深く、距離を取って尾行を続けている間に、警部は公安局に連絡を取る。
    「カイロ・マドック警部だ。至急交通機動隊に応援を要請してくれ。……そう、今すぐにだ。場所は都市高速6号線、工業区南ジャンクションから南11番街出口に向かう形で頼む。対象はミナト自動車製の、……あー、と、黒いバンだ。ナンバーは1GC31‐F4739。……ああ、それくらいでいい。よろしく頼む」
     電話を切ってすぐ、着信が入る。
    《交機第17隊のヒックス巡査部長です。お久しぶりです、警部》
    「おう、マウロ。来てくれるのか?」
    《はい、丁度ウチの隊で付近を警邏(けいら)中でした。すぐ向かいます》
    「頼んだ」
     電話を切り、警部はクルトに指示を出す。
    「交機が来てくれる。このままの車間距離を保て。俺たちと交機で挟み撃ちにするぞ」
    「了解っス!」
     ほどなくして二人の前方、バンを挟んで向こう側から、交通機動隊のパトランプが瞬いているのが確認できた。当然、バンの運転手も確認したらしく、快調に飛ばしていた車の挙動が乱れる。
    「今だ! 横に流せ!」
    「えっ、あ、……はい!」
     クルトはサイドブレーキを引き、車体を90度右に曲げて、バンの真後ろに付けた。
    「いいウデしてるな、クルト。幅20センチってとこか」
    「い、いきなり言わないで下さいよ、警部~」
    「はは、悪いな。……拳銃出しとけよ。いや、ショットガンの方がいいな。足下のを使え。俺は後ろのヤツを使う」
    「……うっス」
     散弾銃を装備し、二人は車を飛び出す。同時に交通機動隊も盾を構え、バンとの距離を詰める。
    「我々は市国公安局だ! 速やかに車から降り、口を開いて両手を頭の後ろに回せ!」
     呼びかけるが、黒いバンから人が出てくる様子は無い。
    「繰り返す! 速やかに車から降りろ! あと10秒以内に出なければ、車ごと局まで引っ張るぞ!」
     再度呼びかけたところで、ようやく助手席側のドアが開く。だが人間の代わりに何かの液体が飛び出し、機動隊の盾に浴びせかけられた。
    「うわ……!?」
     厚さ20ミリのポリカーボネート製の盾が、ぶすぶすと黒い煙を上げて溶ける。
    「さ、下がれ、下がれ! 酸だ!」
     ぐにゃぐにゃに溶けた盾を放り出した隊員の言葉に、周囲がざわつく。
    「酸!?」
    「ひえっ……」
    「あ、待て!」
     機動隊がたじろいだその一瞬の隙を突き、バンはドアを開けたまま、急発進した。
    「しまっ……!」
     警部が舌打ちしかけた、その瞬間――上空はるか彼方から鉄の塊がバンの真正面に降り立ち、フロントに蹴りを入れて無理やり停車させた。

    「な……なんっ……?」
    「え……映画、これ?」
    「あ、あれって、……あの、あれ?」
    「スチール・フォックス……!?」
     ざわめく機動隊に、スチール・フォックスことジャンニは、《下がってろ》と声をかけた。二度も不意を突かれたためか、機動隊は素直に彼の言葉に従う。
    「おいおい……」
     成り行きを見守っていた警部は呆れつつも、そっとクルトの脇腹を小突く。
    「クルト、そのケータイ撮影できんだろ? こそっと撮っててくれ」
    「あっはい」
     その間に、ジャンニはぼっこり穴が空いたバンのフロントに手を突っ込み、バキバキと音を立てて、何かの部品を引き抜いた。
    《ちょっと予定外はあったけど、流石にこれでもう運転できひん、……できないだろ? とっとと降りてこいよ。手品もドッキリも、もう無しだぜ》
     と、バンのフロントガラス越しに、中の二人と目が合う。いや、運転席にいたチンピラの方はすっかり気圧されてしまっているらしく、真っ青な顔をしたまま固まっており、ジャンニが見据えていたのは助手席側の、研究者風の猫獣人だけだった。
    「……」
     その青い毛並みの「猫」は、明らかに敵意に満ちた目つきでジャンニをにらみつけていた。
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