「双月千年世界 5;緑綺星」
緑綺星 第1部
緑綺星・密薬譚 7
シュウの話、第20話。
ヒーローV.S.怪人。
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7.
にらみつけてくる青毛の「猫」をにらみ返し――と言っても相手には、ジャンニの顔は見えていないが――ジャンニはフロントガラスをコンコンと叩く。
《聞こえてるだろ? 出て来いよ。それとも力ずくで引きずり出してほしいのか?》
「……っ」
猫獣人からわずかに舌打ちの音が聞こえたかと思うと、次の瞬間、猫獣人は懐からスプレー缶を取り出し、フロントガラスに向かって噴射する。途端にフロントガラスが真っ白に曇り、粉々に砕け散った。
「んん!?」
スーツの中で驚いた声を漏らしたジャンニに、スーツを通じてモニタリングしていたカズから無線が入る。
《ただの冷却液だ。白くなったり砕け散ったりしたのは、急激な冷却のせいだよ》
「おっ、おう」
《んなもん浴びせられるどころか、冷凍窒素のプールに飛び込んだって、そのスーツは凍りゃしねーよ。ビビってねーで、さっさと仕事を片付けろ》
「わ、分かっとる」
ジャンニはまだフロントに残っていたガラスを叩き割ろうと、手を挙げかける。だが、その瞬間――。
「うかつですね、君」
車の中から手が伸び、ジャンニの左腕をつかむ。
「チタンですかね? それともモリブデン? タングステンかな? ま、なんでもいいです。どうせ溶かすだけですし」
「な……っ」
猫獣人の腕にくくり付けられていた試験管から、何かの薬品が噴き出す。が――。
「……あれ?」
薬品はジャンニの左腕装甲をしたたり落ち、バンのフロントに垂れていった。じゅうじゅうと音を立て、バンのエンジンルームから何かが溶けるような音が聞こえてくるが、ジャンニはもちろん、スーツにも影響は無い。
「お、おかしいな? まさか黄金製? いやしかしあの強度で黄金のわけが……?」
《ご、……ゴチャゴチャ言ってんじゃねえっ! さっさと出て来い!》
つかまれたままの腕を引き、ジャンニは相手を引きずり出そうとする。が、相手はそれより一瞬早く手を放し、助手席から飛び出した。
「よっぽど強固な防錆剤でも塗ってあるのかな……? まあいいです。それなら別の方法で壊せばいいだけですし」
《やってみろよ!》
ジャンニが相手に向かって構えたところで、「猫」も袖をまくり、戦闘態勢に入った。
「その言葉、後悔しますよ?」
ろくに戦闘経験も無い、まったくの素人であるジャンニを――いくらパワードスーツで武装させたとは言え――放っておくような性格のカズではなく、3ヶ月程度の居候生活の間に、彼女はジャンニに多少の武術・体術を教えていた。そのためこの時のジャンニは自然に右脚を引き、両腕を胸と腰の前に据えて、「猫」と対峙していた。
「少しは心得があるみたいですけど、いかんせん素人臭さが目立ちますね。どうにか基本の型だけは覚えましたって感じがします」
《しゃべってないで来いよ、……あー、と》
「うん? 僕の名前ですか? 君なんかに教えたくありませんが、まあいいでしょう。僕のことは『ドクター・オッド』と呼びなさい」
そう返し、ドクター・オッドと名乗った「猫」は腕を振り上げて試験管を放ち、また何かの薬品を撒いた。
「なんやこれ?」
スーツの中で、小声で尋ねたジャンニに、カズが答える。
《青酸ガスだ。普通に吸えばほぼ一瞬で死ぬ》
「アカンやん!?」
《吸えば、な。スーツを密閉したから大丈夫だ、……あ》
「あ、ってなんや!?」
カズが答えるより先に、ドクターの方が答えを提示した。
「多分青酸ガスを撒いたことは分かってるでしょうね。その上で防御するのなら……」
ドクターは別の試験管を2つ、ジャンニに叩き付ける。
《1個めは消石灰、2個めのは水だ。化合すると……》
「……あ、あっつ、あづっ!?」
《強烈な熱が発生する》
カズの言葉と同時に、ジャンニは猛烈な熱に包まれる。
「うわ……っ」
加熱により、スーツ内部に密閉された空気が膨張する。ギシギシと機体が軋む音が響くが、カズは冷静な声で指示を送って来る。
《落ち着け。ソレ以上は温度は上がんねーようにできてる。今、中和と冷却すっから。ソレよりちょっと我慢して、やられたフリしてろ。相手は油断する》
「……お、……お、う」
火傷しそうな暑さに耐えながら、ジャンニは膝を着いて見せる。カズの言う通り、ドクターは顔をほころばせ、先程の冷却スプレーを取り出した。
「熱そうですね。今、冷ましてあげますよ。ところで知ってます? 金属って急加熱と急冷却を繰り返したら、ボロボロに……」
《今だ》
カズの合図と同時に、スーツのあちこちから風が噴き出し、火を消し飛ばす。即座にジャンニは立ち上がり、まだヘラヘラと笑みを浮かべたままのドクターの顔に、熱々の左フックを叩き込んだ。
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7.
にらみつけてくる青毛の「猫」をにらみ返し――と言っても相手には、ジャンニの顔は見えていないが――ジャンニはフロントガラスをコンコンと叩く。
《聞こえてるだろ? 出て来いよ。それとも力ずくで引きずり出してほしいのか?》
「……っ」
猫獣人からわずかに舌打ちの音が聞こえたかと思うと、次の瞬間、猫獣人は懐からスプレー缶を取り出し、フロントガラスに向かって噴射する。途端にフロントガラスが真っ白に曇り、粉々に砕け散った。
「んん!?」
スーツの中で驚いた声を漏らしたジャンニに、スーツを通じてモニタリングしていたカズから無線が入る。
《ただの冷却液だ。白くなったり砕け散ったりしたのは、急激な冷却のせいだよ》
「おっ、おう」
《んなもん浴びせられるどころか、冷凍窒素のプールに飛び込んだって、そのスーツは凍りゃしねーよ。ビビってねーで、さっさと仕事を片付けろ》
「わ、分かっとる」
ジャンニはまだフロントに残っていたガラスを叩き割ろうと、手を挙げかける。だが、その瞬間――。
「うかつですね、君」
車の中から手が伸び、ジャンニの左腕をつかむ。
「チタンですかね? それともモリブデン? タングステンかな? ま、なんでもいいです。どうせ溶かすだけですし」
「な……っ」
猫獣人の腕にくくり付けられていた試験管から、何かの薬品が噴き出す。が――。
「……あれ?」
薬品はジャンニの左腕装甲をしたたり落ち、バンのフロントに垂れていった。じゅうじゅうと音を立て、バンのエンジンルームから何かが溶けるような音が聞こえてくるが、ジャンニはもちろん、スーツにも影響は無い。
「お、おかしいな? まさか黄金製? いやしかしあの強度で黄金のわけが……?」
《ご、……ゴチャゴチャ言ってんじゃねえっ! さっさと出て来い!》
つかまれたままの腕を引き、ジャンニは相手を引きずり出そうとする。が、相手はそれより一瞬早く手を放し、助手席から飛び出した。
「よっぽど強固な防錆剤でも塗ってあるのかな……? まあいいです。それなら別の方法で壊せばいいだけですし」
《やってみろよ!》
ジャンニが相手に向かって構えたところで、「猫」も袖をまくり、戦闘態勢に入った。
「その言葉、後悔しますよ?」
ろくに戦闘経験も無い、まったくの素人であるジャンニを――いくらパワードスーツで武装させたとは言え――放っておくような性格のカズではなく、3ヶ月程度の居候生活の間に、彼女はジャンニに多少の武術・体術を教えていた。そのためこの時のジャンニは自然に右脚を引き、両腕を胸と腰の前に据えて、「猫」と対峙していた。
「少しは心得があるみたいですけど、いかんせん素人臭さが目立ちますね。どうにか基本の型だけは覚えましたって感じがします」
《しゃべってないで来いよ、……あー、と》
「うん? 僕の名前ですか? 君なんかに教えたくありませんが、まあいいでしょう。僕のことは『ドクター・オッド』と呼びなさい」
そう返し、ドクター・オッドと名乗った「猫」は腕を振り上げて試験管を放ち、また何かの薬品を撒いた。
「なんやこれ?」
スーツの中で、小声で尋ねたジャンニに、カズが答える。
《青酸ガスだ。普通に吸えばほぼ一瞬で死ぬ》
「アカンやん!?」
《吸えば、な。スーツを密閉したから大丈夫だ、……あ》
「あ、ってなんや!?」
カズが答えるより先に、ドクターの方が答えを提示した。
「多分青酸ガスを撒いたことは分かってるでしょうね。その上で防御するのなら……」
ドクターは別の試験管を2つ、ジャンニに叩き付ける。
《1個めは消石灰、2個めのは水だ。化合すると……》
「……あ、あっつ、あづっ!?」
《強烈な熱が発生する》
カズの言葉と同時に、ジャンニは猛烈な熱に包まれる。
「うわ……っ」
加熱により、スーツ内部に密閉された空気が膨張する。ギシギシと機体が軋む音が響くが、カズは冷静な声で指示を送って来る。
《落ち着け。ソレ以上は温度は上がんねーようにできてる。今、中和と冷却すっから。ソレよりちょっと我慢して、やられたフリしてろ。相手は油断する》
「……お、……お、う」
火傷しそうな暑さに耐えながら、ジャンニは膝を着いて見せる。カズの言う通り、ドクターは顔をほころばせ、先程の冷却スプレーを取り出した。
「熱そうですね。今、冷ましてあげますよ。ところで知ってます? 金属って急加熱と急冷却を繰り返したら、ボロボロに……」
《今だ》
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