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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 5;緑綺星」
    緑綺星 第1部

    緑綺星・密薬譚 8

     ←緑綺星・密薬譚 7 →3DCG習作;大江さん
    シュウの話、第21話。
    クレメント事件の顛末。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    8.
    「オラあッ!」
    「うげぇ!?」
     ドクターは身をよじり、2周ほどグルグル横回転して、アスファルトに倒れ込んだ。
    「う……っく……」
    《いい加減観念しろ、ドクター・オッドさんよ?》
     倒れたままのドクターを見下ろし、ジャンニはもう一度構える。
    「……ゆ、……ゆだ、んしま、した。まさか、これ、も、効いてな、い、とは」
     ドクターは顔を抑え、よろよろと立ち上がる。その一瞬ジャンニには、彼の顔が確認できた。
    「うっ……!?」
     その筆舌に尽くしがたい「壊れ方」を目にし、ジャンニは硬直する。
    「こ……これい、じょうは、……たたか、え、ない。しつ、れいし、……ます」
     次の瞬間、ドクターは空高く跳躍し、生身で高速を飛び降りた。
    《なっ……、に、逃がすかッ!》
     ジャンニも慌てて、その場から飛び去る。
    「……」「……」「……」
     後に残された機動隊員とマドック警部たちは、ただただ呆然とするしか無かった。
    「……あ」
     いち早く警部が我に返り、バンの中を確かめる。
    「よし、生きてるな」
    「あ……あわわ……」
     警部はまだ目を白黒させているチンピラに手招きし、出てくるよう促した。
    「お前さん、そこ暑いだろ? あっちの車はエアコン効いてるぜ。乗せてやるよ。オリ付きだけどな」

     拘束したチンピラは公安局の取調室で徹底的に絞り上げられ、彼は朝のニュースバラエティ番組が始まる前に、全てを自供した。
     まず大方の予想通り、彼はネオクラウン系マフィア傘下の、中小暴力団の構成員だった。「ドクター・オッド」と呼ばれる男はネオクラウン幹部からの――と言っても自供した彼は顔も名前も知らないそうだが――命令により彼のいる組に出向しており、薬品密造を取り仕切っていたとのことだった。そしてその薬品も予想通り、麻薬の類であることが明らかになった。
    「俺は何も知らねえんだ……。上からドクターの手伝いしろって言われただけで、ウチの舎弟企業で抱えてるアルバイト使って、クスリ作らせてただけなんだよ。あのクスリは港に持ってって倉庫にしまった後、組織の別の奴らがどっかの業者と取引して、カネに換えるって話だった。俺はクスリ作らせて、港に持ってくだけの役目なんだ。業者が誰なんてのも知らないし、ドクターが今、どこにいるのかも全然知らねえ。連絡だっていっつも、ドクターからの非通知だし」
     彼本人からは大した情報を得られなかったものの、それでもクレメント製薬の工場で麻薬が製造され、持ち出された事実はしっかりマドック警部が握っており、その日のうちにクレメント製薬への強制捜査が決定、実施された。その結果、クレメント製薬のサーバ内から麻薬製造の様子が映った動画が多数発見されたため、社長以下、幹部陣の半数が逮捕されることとなった。



    「……やってさ」
     その日の夕刊で経緯を知ったジャンニたち三人は、いずれも満面の笑みを浮かべていた。
    「予定してた展開と色々違っちゃいましたが、ともかく結果的には大成功ですねー。ほら、朝撮ってた動画をさっき上げたんですが、ものっすごい再生数になってます。もうじき100万行っちゃいますよ」
    「マジかよ」
    「流石のわたしでも、1日で100万再生って今まで一回も無いですから、すっごいドキドキしてます。しかも高評価67%、かなりの支持率になっちゃってますよー」
    「うっわぁ……ホンマかぁ」
     画面を見て、ジャンニはその場にうずくまる。
    「よーやく正義の味方やって思ってもらえるんやなぁ、俺」
    「そう考えて間違いないと思いますよー。コメントもかなり付いてます。ほぼほぼ好意的なものばっかりです」
    「つっても『すげー』とか『やべー』とか、『マジ映画じゃん』とかそんなのばっかだけど、ま、ホントにお前さんのコトをヒーローだって言ってるヤツも、チラホラあるな」
    「うへぇ……」
     狐耳の先まで真っ赤にして照れるジャンニを見て、シュウが笑い出す。
    「あはは……。まー、大変なのはコレからですけども、今日はとりあえずお祝いですね」
    「だな。何作ってくれるんだ、シュウ?」
     カズに尋ねられ、シュウは腕を組む。
    「そーですねー、ジャンニくんの好物にしましょーか。何食べたいですかー?」
    「ん? んー、せやなぁ……」
     と、そんな風に盛り上がっていたところで――玄関のチャイムが鳴った。
    「……!?」
     隠れ家にしているこの家を訪ねる者などいるはずもなく、三人は揃って目を丸くする。
    「だ、誰かロータスキッチンで買い物した?」
    「するワケねーだろ」
    「わたしもしてません。……出ますかー? ピンポンピンポンめちゃくちゃ鳴らされてますけど」
    「お、俺が出るわ」
     ジャンニが意を決した表情で、玄関に向かう。
    「い、今出ますー……ちょっと待っててやー……」
     恐る恐る、ドアを開ける。そこにいたのは――。;
    「よお、お兄ちゃん方。今夜は記念パーティかい?」
     あの警部、マドックだった。

    緑綺星・密薬譚 終
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